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ZONE  作者: 北斗 白
春季大会編
30/46

ep8~神代悠馬~

春期大会編8話です。

ZONEは毎週日曜日21時更新です。


 風を纏った黒いユニフォームが僕の前を通過し、一人、また一人と鮮やかなボールタッチで敵をかわしていく。

 

 「……こんなもんか」


 その言葉が耳に残った時には、彼はすでに右足を振り上げていた。


 「キーパー!」

 「うぉぉおお!」


 ゴールキーパーの道山先輩が、ボールに向かって飛びつく。が、そのボールは道山先輩の手を掠めて、右上隅のゴールネットに吸い込まれていった。


 「ピーー!」

 「よっしゃあ! 神代ナイッシュー!」

 「またやりやがったなー!」


 前半開始早々、得点を告げるホイッスルと共に、黒いユニフォームを着た東堂高校の選手たちが、点数を決めた神代悠馬を囲んで歓喜を分かち合った。

 僕はその光景をただ眺める事しかできず、センターサークルの近くで茫然とするしかなかった。

 あれだけ守備に好評があった海聖が、たった一人の選手にかき回された挙句、少しも抗う事ができずに点数を決められてしまった。これは誰のミスがどうとかではなく、神代悠馬が飛び抜けすぎた存在であることの証明で、僕以外にも多くの選手が唖然としていた。


 「……す、凄いな」

 「蹴也、取り返しに行くぞ」

 「……え?」


 僕の肩をポンと叩いた奏真は、本来自らキックオフをしないはずの役職であるミッドフィルダーなのに、ボールを置いてすぐさまリスタートを始めた。


 「風見キャプテン!」

 「よし、ここから組み立てていくぞ」


 風見キャプテンは奏真からのリスタートパスを受け取ると、左サイドの奥をめがけてロングパスを飛ばした。そのパスを千宙がトラップすると、あまりボールを保持せずに中盤の奏真に渡して、また違うサイドへと展開していった。

 

 (……凄い、全然負けてない)


 中盤の人間が左右のサイドに交互にボールを飛ばしてパスを繋ぐ。そうすることによって、ボールにつられた相手チームの選手が、ポジションを崩してしまう。この戦法は、そのつり出しを狙って敵陣に迫っていくという一つの戦術だ。

 これで凄いのは狙ったところにきちんとボールを飛ばす中盤の選手のキックの質や広大な視野が目に光るが、ロングボールを足元に綺麗にトラップをする再度ハーフの選手も一大して上手だと思う。


 「蹴也! 上がれ!」


 僕の位置よりも前にいる奏真が合図すると、ボールを持っていた千宙が相手チームのサイドバックを一人突破してセンタリングを上げるモーションへと入っていた。

 

 「行くぞ……!」


 千宙が手を上げて、これからボールを飛ばすという合図を出すと、僕はペナルティエリア内に向かって勢い良く走り込んでいった。

 ただの下手くそでも一生懸命なプレーを見せたい。もしできることなら春季大会も皆と同じ土俵でサッカーがやりたい。こんな思いが心の中をぐるぐると回る。 


 「はぁぁああ!」


 僕は意を決して、速度を殺さないまま身を前にして飛び込んだ。


 ーー絶対に決める!


 「ドン!」

 「ピーー!」


 僕の頭上を越えたセンタリングは、裏へと回り込んでいた風見キャプテンの足の甲に当たり、ダイレクトボレーシュートでネットを揺らして見せた。


 「しゃぁぁあああ!」

 「ナイッシュー!」


 反撃に成功した蒼いユニフォームたちが次々に風見キャプテンの元へと駆け寄っていく。

 

 (……当てれなかった)


 せっかくきたチャンスボール。思いを込めて上げてくれた千宙のセンタリングに当てる事ができなかった。結果として風見キャプテンが点数を決めてくれたから良かったが、デビュー戦での初となるチャンスを生かしきれなかったのがとても悔しい。

 もう少し高く飛んでいれば。あるいは奏真に言われる前に早くスタートを切っていれば、点数を決める事ができる可能性は上がったかもしれない。

 考えれば考える程に悔しさが積み重なっていく。そして見える景色もだんだんと暗くなっていく。

 

 「どうした蹴也?」

 「……ZONEだ」

 「え……?」


 視界と共に脳が冴えきっていく。何回も経験しているのでこれがZONE現象なのはすぐに理解した。ただ今回はいつもと違って少しだが自我がある。なんだか回数を重ねていくごとに慣れて言っているような気がする。

 

 「はやくポジションにつくぞ奏真」

 「お……おう」


 俺は一つ深呼吸をしてポジションに着いた。そこで気のせいか神代と目が合い、俺を見つめたままにたりと笑いかけてきた。

 

 「俺と、同じ奴がいるとはな」

 

 にたりとしている神代は不気味以外の何物でもなく、俺の目から見える彼は前科ありの犯罪者の様だった。

 

 「やはり、お前もなんだな」

 「さあどうかな!」


 ホイッスルが鳴り、神代は味方からキックオフのパスを受けると、先ほどと同じように問答無用でドリブルで突っ込んできた。

 だが俺もZONE状態だ。ここで早急に食い止めるのが俺の役目であり、チームのためだ。


 「勝負だ神代!」


 神代は不気味な表情で再度にたりと笑うと、早い速度のドリブルで足技を仕掛けてきた。

お読みくださってありがとうございます。海聖高校対東堂高校は現在1対1.果たしてどっちが勝つのか。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

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