表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZONE  作者: 北斗 白
春季大会編
29/46

ep7~スターティングメンバー

春期大会編7話です。

ZONEは毎週日曜日21時更新です。

 空を見上げると、大量の雲が群れを成して流れていくのが見える。練習試合当日の今日は生憎あいにくの曇り日で、いつ雨が降ってもおかしくないほどに肌寒い感じがする。


 「ん……来たぞ」


 隣にいた奏真が指をさした方向に顔を向けると、サッカー強豪校、「東堂高校」と書かれたバスが海聖高校の駐車場に入って来ていた。

 バスが止まると、車内から黒のジャージに身を包まれたサッカー部員たちが降りてきて、それぞれが荷物を持って移動をはじめて向こう側のベンチへと向かって行った。

 思い過ごしかもしれないが、東堂高校のサッカー部の雰囲気の中には一人も抜けている選手はいないような気がする。移動の時も全員が綺麗な列を作り、全員がしっかりとした面構えをしているので、「王者の貫禄」という言葉が良く似合うチームだと思った。


 「ひゃーすげえな王者さんは、見ただけでピリピリしたものが伝わってくるなぁ、なあ千宙!」

 「……うん。見てあの人、あの人が神代悠馬。僕たちと同じ一年生でZONE状態を発動できる能力を持っているかもしれないスーパールーキーだよ」

 「あの人が……神代悠馬」


 男子の割には長い黒髪で、睨まれたら身が縮みそうなほどの鋭い目つきが特徴的だ。身長は逸して高くはないような気がするが、ユニフォーム越しからでも分かる骨格の良さが僕の目を引き立てる。

 周りにいる先輩たちの話に聞く耳を立てても、大概の人は神代悠馬の噂話か、今日のスターティングメンバーの話で持ちきりだった。


 「全員揃ったわね。早く集まって」


 声がした方に振り向くと、何故か湯気を出したコーヒーを片手に持った黒崎監督の隣に、フォーメーションや作戦などの指示をするためのミニホワイトボードを持った高辻が選手たちの近くに来ていた。

 選手たちは各々の作業を一時停止して、すぐさま黒崎監督と高辻を中心において円を作った。


 「今日は春季大会に向けての前哨戦ぜんしょうせんとして、東堂高校と練習試合をすることになっているわ。今からスターティングメンバーを発表します。高辻さん、ホワイトボードを」


 僕の喉がごくりと鳴る。今までの練習でミスは少なかったかもしれないが見せどころを作ったことは一回もない。それにこの間の虎太郎とのサッカー勝負も見られてしまった。

 奏真は超新星などと言っていたが、そう上手く試合に出られるなんて都合のいい話はそうそうないだろう。それに出たとしても必ず活躍できるとは限らない。


 「ゴールキーパー、道山どうざんてつ。ディフェンダー、左から碇野虎太郎、樋浦ひうらじょう氷上ひょうじょう瑠樹るき笹倉ささくら優斗ゆうと

 「あ、俺呼ばれちった」

 「おめでとう虎太郎、頑張れよ」


 僕の耳元で、虎太郎が嬉しそうな顔を見せながらガッツポーズを決めた。神代は一年前サッカーを始めたと聞いていたが、虎太郎は一週間前サッカーを始めたばかりだ。それで本当にスターティングメンバーに選ばれるなんて凄いことだ。というか信じられない。

 そして海聖の売りである守備陣の堅さ。それを代表するのがキーパーの道山先輩とセンターバックの氷上先輩だ。どちらも三年生で、風見キャプテンと共に、敵チームにシュートを一本も打たせることなく終了させた伝説を作った張本人たちだ。

 それから二人目のセンターバックの樋浦先輩と右サイドバックの笹倉先輩は二年生で、伝説の試合で一年生ながらも出場して活躍し、チームに貢献したという凄い実績を持つ人たちだ。


 「ミッドフィルダー、左から牧場千宙、雨宮奏真、風見晴治、鵜飼うかい翔太しょうた丸山まるやま虹河こうが

 「え……僕も呼ばれた」

 「頑張ろうぜ千宙!」


 奏真と千宙もスターティングメンバーに選ばれることができた。二人は元々サッカースキルが高いので選ばれてもおかしくはなかったが、これで昨日ご飯を食べに行った四人のうち僕を除いた三人が選ばれた。

 僕の心臓の鼓動に拍車がかかる。時間の進む速度が遅くなったみたいだ。


 「フォワード……」


 僕はゆっくりと固唾を飲み込む。何人もの部員がいる中、フォワードになる事ができるのはたった一人だけだ。試合に出場するために努力をしてきたのは僕だけではないのは百も承知で理解している。ただ、もしその中から十一人の中に選ばれるとするならば。

 -ーそれが僕でありたい。


 「……風谷蹴也」

 「……え」


 (……選ばれた?)


 「全員舐めたプレーが一回でもあったならば即ベンチと入れ替えだ。十一人の中に選ばれて出場する者は気を引き締めていくように!」

 「はい!」


 円を描いていた選手たちが号令と共に、それぞれウォーミングアップの準備を再開し始める。

 ただ僕はその場から動けないでいると、急に僕の肩に誰かが勢いよく腕を回した。


 「よっしゃー! 蹴也、俺達全員スタメン入りだぜ!」

 「そうだよ蹴也君! 凄いよ!」

 「何かわかんないけどやったぜー!」

 「みんな……!」


 胸が締め付けられるほど嬉しい。こんな気持ちはいつぶりだろうか。この感じ、すごく懐かしい。サッカーを通して知ったこの気持ち、皆と出会って思い出した感情。


 ーーやっぱ、サッカーって面白いよなぁ。


 (……その通りだよ奏真)


 僕たちは四人で小さな円を作り、揃って肩に手をかけてエンジンを組んだ。


 「よし、スーパールーキー四つの超新星、デビュー戦かますぞぉ!」

 「おぉー!!」


 高校生になってからの久々の試合、あの時サッカーを辞めて戻ってきた最初の試合。絶対に勝ちたい。ただこの気持ちだけが僕の中で熱く燃えていた。

お読みくださってありがとうございます。ようやくスタメンが決まりましたね! ブクマや評価も上昇させてもらってとても嬉しい気持ちで執筆作業をしております。今後も長くよろしくお願いします。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ