ep6~もう一人の存在~
春期大会編6話です。
ZONEは毎週日曜日21時更新です。
「泣くなって虎太郎! これからも名前で呼んでいく仲だろ?」
「いや……今まで面と向かって友達の名前を呼んだこともないから……、俺は今人生で一番幸せだぁ……」
「どんだけ今まで過酷だったんだよ」
ぽつりぽつりと涙を流す虎太郎の前で、奏真が声を出して笑うのを堪えている。その時、厨房の中からおやじさんがでてきて、「はいラーメンおまちぃ」と僕たちの前にラーメンと何故か味付け卵を四人分置いてくれた。
「あれ、虎太坊は何で泣いてるん?」
「気にしないでくれおっちゃん……俺は今幸せを感じているんだ……」
「そうかそうか、今まで何回もうちの店に来てくれてるけどいつも一人だったもんなぁ、今日は卵をサービスしてやったから残さないで食えよ!」
「ありがとうございます!」
僕たちは箸を手に取ると、「いただきます!」と一斉にラーメンをむさぼった。口の中に侵入したラーメンは、少しこってりとした豚骨系の醤油スープと絡まり合って、絶妙な旨味を奏でていた。
いい焦げ具合にあぶられたチャーシューは、肉厚でジューシーだが口の中に入れると柔らかく、肉汁と共にすぐ溶ける。皆で一緒に食べているのも理由にあるかもしれないが、ここまで格別な醤油ラーメンを食べたのは初めてだ。
「あの、サッカーの話になるけどさ、僕ずっと気になってたことがあるんだ」
塩ラーメンを一啜りした千宙が、チャーシューに齧り付く僕に言った。
「蹴也君、この間の虎太郎君とサッカー勝負をやった時、明らかに人格が変わってたよね? あれって何なの?」
「ああ、ZONE状態の事だね」
千宙が物珍し気に「ZONE状態?」と聞き返す。
「まだ自分でも詳しくは分かんないけど、相手の次の動きが読めたりとか視野が三百六十度くらいまで広がる感覚になるんだ」
「……はー、なるほど」
奏真の時と比べてそこまで驚いた様子はなく、千宙は「うーん」と首を傾げたまま、カウンターの上に貼らさってあるメニューを見つめたまま言った。
「僕、蹴也君と似たような雰囲気を持つ選手とサッカーしたんだよなぁ」
「なに! 千宙、どこでだ?」
「あっ、いや、最近の話じゃないんだけどね。その選手は東堂学園に入学したって聞いたよ」
奏真はZONEの話になると、いつもより食いつきが凄くなる。それほどまでに本人が言っていた予想ができない奇想天外なサッカーをしたいのだろう。
それと、千宙の話が本当であるならば、ZONE状態を発動する事のできる選手は僕の他にもう一人いるという事になる。
「その選手の名は、神代悠馬。噂によると、今から一年前、中学三年生の時にサッカーを始めたらしいね。それで強豪の東堂高校サッカー部に入部し、即レギュラー登録だって」
「そんな凄いのか!? 勝負するのが楽しみだぜ」
奏真は待ちきれないのか、さっきよりも凄い勢いで激辛ラーメンを啜ると、「辛え、辛え!」と咳き込んだ。
僕と同じZONE状態を発動する事ができる選手。奏真が興味が沸くのも凄くわかる。あわよくばその事について何か知っている情報を教えてくれるかもしれない。
頭の中がZONE状態のことで無我夢中になり、無意識にラーメンを啜っていると、気が付いた時には麺が少ししか残っていなかった。
「あ、で、何だっけ。ボーン状態?」
「いや、ZONE状態な」
今まで食べてばっかりいた虎太郎が喋った時には、奏真はもう食べ終わっていて、千宙と僕はもう少しで食べ終わるところだった。
「とりあえず、明日の練習試合絶対勝とうぜ」
「そうだね、僕たちも一軍の試合に出れたらいいね」
「でれるさ! 何たって俺らは四つの超新星だぜ」
「超新星か。なんかすっごくかっこつけたね」
決め台詞を千宙に邪魔された奏真は「おいー」と突っ込むと、四人はキンキンに冷えた氷水の入ったコップを持って席を立った。
「それじゃあ蹴也、明日の練習試合に向けて乾杯の音頭をよろしくお願いします」
何で僕が、と思ったが、せっかく四人で集まった機会なのでここで場をしらけさせるにはかない。
「よし、明日の僕たちのデビュー戦初勝利を誓って……乾杯!」
「乾杯!」
明日のデビュー戦初勝利を誓う乾杯の音頭と共に、ガラスのコップが奏でた心地の良い音が店内に響き渡った。
お読みくださってありがとうございます。いつもより少し短めですが、キリが良いのでここら辺にします。皆さん、もうすぐで冬なので風邪を引かないように気をつけてください!
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