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ZONE  作者: 北斗 白
春季大会編
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ep4~涙と胸の高鳴り~

春季大会編4話です。

 「確かに僕はいじめられていました。この学校に入学してからずっと。最初は廊下で歩いている時にぶつかられるくらいだったんですけど、最近はお金まで要求されるようになって。碇野君は一年の時からそれに気づいてたみたいで、今回体育館の裏に連れて行かれるところを助けてくれたんです」

 「だけど何で教室で牧場君の胸蔵を掴んでいたの?」

 「怒ってくれたんです。何で反撃しないのか。それと何で助けを呼ばないのか。僕は他の人に迷惑がかかるからって言った時に、迷惑じゃないって胸蔵を掴まれて怒鳴られました」

 「本当か碇野?」

 「ま……まあな」


 明らかに照れている素振りを見せる碇野は、顔を伏せて頭の裏を掻いた。この話をまとめると、一つの答えに導かれる。

 要するに、碇野は良い奴だと。


 「なーんだめっちゃいい奴じゃん」

 「はぁ、安心しましたわ、『海聖の一匹狼』なんて呼ばれてる人だからもっと凶悪な想像してましたけど全然いい人だったんですね」

 「そうなんだよ。俺ってこんな見た目だから怖がられて誰も近づかなくてさ。終いには俺から話しかけても逃げられるくらいで」

 「だから教室でいつも一人だったんだね」

 「そう、俺には友達がいないからさ、高校に入ってから誰とも遊んでないんだ。そしたら今日教室で風谷が俺に話しかけてくれたから、この機会にと思ってサッカーに誘ったんだ」


 この意味不明だと思っていたサッカー勝負は、全然意味不明なんかではなかったようだ。碇野虎太郎という人物を知り、僕にとっても碇野にとっても、とても大切な時間を過ごす事ができた。


 「そっか、変な思い込みしてごめんね。それより、一緒にサッカーした時点で僕達はもう友達だよ」

 「え……」


 碇野は突然動かなくなると、目から涙を流し始めた。


 「あ、あれ? とまらねえ?」


 溢れる涙をとめようと、碇野は必死で目を擦っているが、擦っていくごとに頬を伝う涙の量は多くなっていった。

 それだけ碇野にとって、今までの高校生活は寂しく、とても形見狭い思いをしてきたという事なんだろう。

 僕は号泣する碇野を見て、「鬼の目にも涙」ということわざを頭の片隅に浮かばせながら、サッカー勝負をやってよかったなと改めて実感した。

 それから高辻と奏真の会話に牧場君と僕が参加し、しばらくの間雑談を交わしていると、泣き止んだ鬼が急に突拍子もない事を言った。


 「俺、サッカー部に入るわ」

 

 鼻と目頭を赤くした碇野が顔を上げると、手に持ったサッカーボールを僕に投げた。


 「いいね、僕もサッカーやるよ」


 それにつられて碇野の隣に立つ牧場君が言った。想像だにしてなかった突然の事にぽかんとする三人を無視して、さらに牧場君は続けた。


 「改めて自己紹介します、僕は牧場(まきば)千宙(ちひろ)って言います。中学時代は地元の『クラブユース』のサッカーチームに所属していました。ポジションはミッドフィルダーです。よろしくねみんな!」

 「な……クラブユースって」


 クラブユース出身の奏真から聞いた話だが、クラブユースとは、U-15まで(中学三年生まで)の未来のサッカー選手を育てるサッカークラブチームの事で、チーム内で壮絶なポジション争いが行われることから「プレイヤーの戦場(コロシアム)」と呼ばれている。

 もちろんユースのサッカープレイヤーたちは、中学の部活の選手達とはレベルが違い、技術の上下を前提とした、「サッカー」の本質といった根本的な知識から全てが上の存在だ。

 今日は僕に最近刺激が足りないと見た神様が、ドッキリ企画で驚かせに来ているのだろうか。


 「俺は今日からサッカーやるから、ちゃんと初心者の面倒見てくれよ?」

 「僕も今日から参加するよ。碇野君、さっそくあそこにいる監督に挨拶しに行こう」

 「あそこって……?」


 牧場君の指差す方向に視線をずらすと、木の影になっている体育館前の階段に腰を掛けた黒崎監督が、グラウンドに溜まる僕達を見ていた。

 恐らくサッカー勝負の開始から今までを見られていた。別に心配するようなことは何もしていないと思うが、万が一自分が気づかない変な事を監督に見られていたら、春季大会のメンバーの席は無いだろう。

 不安になった僕の耳元に、碇野と牧場君が監督の方に走っていく姿に視線を置いた奏真が小さい声で呟いた。


 「……やっぱ、サッカーって面白いよなぁ」


 口角が上がりっぱなしになった奏真の口から洩れたこの言葉から、間違いなく彼の胸の高鳴りが伝わってくる。それに共鳴したのか、意識した時には僕の心臓の鼓動も早くなっていた。

 上を向くと、晴天を下る白い太陽が赤みを増して、時刻は夕方に差し掛かろうとしていた。

 もうすぐ、新たな部員を加えたサッカー部の開始時間だ。

 僕は緩んだ靴紐をもう一度きつく締め、碇野から受け取ったサッカーボールを持ってペナルティエリア付近へと向かった。

 ボールをその場に置き、気持ち長めな助走を取る。その位置から走り出し、左足に力を込めてゴールに向かってボールを蹴飛ばした。

 大きく弧を描いたボールは、ゴールのサイドネットの左上に吸い取られていった。

お読みくださってありがとうございます。本日の二本投稿はいかがだったでしょうか。これからも時々気まぐれに二本投稿をするかもしれないので、ブックマークを付けて下さるとありがたいです。


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

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