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ZONE  作者: 北斗 白
春季大会編
24/46

ep2~碇野虎次郎~

春季大会編2話です!

 「おい、もう準備は出来てんのか」

 「あの……。……うん、出来てるよ?」


 グラウンドに描かれたセンターサークルの中心に立つのは、髪をツンツンに立たせて制服の襟ボタンを大きくはだけさせた、如何にも柄の悪そうなヤンキー君だ。

 そしてそのヤンキー君の目の前にはボールを持った僕。

 いったい絶対、何故こんな状況になってしまったのか。


 「二人ともがんばれ~」


 頭上に浮かぶクエスチョンマークを小突くように、グラウンド横のベンチから声援が飛ぶ。

 横目で見ると、ベンチに座っている奏真と紅葉が、間に茶色のバスケットを囲んで、仲良くサンドウィッチを食べていた。


 (……何で僕だけ)


 僕は脳内の状況把握工場を稼働し、右脳と左脳をフルスロットルに動かした。

 そう、事の発端は今日の放課後から始まった。


 昨日の練習で大きな目標ができ、士気を上げて意気込んでいた僕は、奏真たちと一緒に、部活が始まる前に自主練習をしようと思って早くにグラウンドに向かった。

 勿論帰りのホームルームが終わってからすぐに来たので、部活開始まで三十分以上時間がある。このくらい時間があるのであれば、十分に満足した自主練習の時間が取れる。だがここで問題が発生した。

 

 「あ……教室にスパイク忘れた」

 「まじかよ蹴也、見事にやる気が空回りしちまったな」

 「ちょっと取ってくるね」

 「俺も行くわー、紅葉はどうする?」

 「私は部活で使う用具の準備があるのでここで待ってますわ」


 紅葉と別れ、奏真と一緒に小走りで教室に駆け付けた時、男の大きな怒声と共に目を疑うような光景が視界に飛び込んできた。

 急いでドアの陰に隠れ、顔を出すようにして覗いてみると、髪をツンツンに立たせたヤンキーが小柄な男子生徒の前に立ち、今にも殴り掛かりそうな雰囲気で胸ぐらを掴んでいた。

 教室にはその二人以外には誰もおらず、今すぐにでも止めないと小柄の男子がやられてしまう。

 

 「蹴也、どうすんの?」

 「どうするって……、決まってるでしょ!」

 

 僕はドアを豪快にこじ開けて二人の元に駆け寄り、小柄な男子の胸ぐらを掴む腕にしがみついた。


 「やめなよ! 何してんの!」

 「うっせーなテメェ誰だよ! 今取り込み中だから邪魔すんな!」

 「見過ごせるわけにはいかないでしょ。……早く、その胸ぐら離せよ」


 いつ自分が殴られるか分からないので、ヤンキーの空いている右手に集中しながら二人の間に割って入ろうとすると、ヤンキーは流石に懲りたらしく、距離を取るように後ろに下がった。


 「おい、知ってるぜ、サッカー部だろ? 今からグラウンドに来いよ。今度はサッカーでお前の相手してやるよ」

 

 (……サッカーで?)


 暴力で相手をしない平和なヤンキーだったことには胸を下ろしたが、いきなりサッカーで決闘だなんて正直意味が分からない。

 まずそもそも自分が相手にされるなんてどうしてそうなったのであろうか、そしてどう考えても僕に利があるサッカーで決闘だなんてさらに理解ができない。


 「早くいくぞおい」


 こうしてツンツンのヤンキーから意味不明な難癖をつけられたサッカーの決闘が始まったのである。


 スパイクの紐を固く結び、その場で足踏みや軽く準備運動をして体をほぐす。目の前に立つツンツンのヤンキーは、手と足首を回しながら首をゴキゴキと慣らして、殺人鬼のように殺気に満ちた眼光でこちらを睨みつけていた。

 

 「おい、俺は碇野いかりや虎次郎こじろうだ。お前……名前は何て言うんだ?」

 「風谷蹴也。よろしく」


 相手の名前を聞く前にしっかりと自分の名を言う、変なところで中々の礼儀を持つヤンキーだ。


 「よし、ルールは半コートで俺を突破したら勝ち。三回のチャンスの内一回でも突破したら負けを認めてやってもいいぜ。だが、俺にボールを取られてクリアされたり、シュートを外したりしても風谷の負けだ」

 「良いね、やろうか」


 碇野にボールを渡し、ダイレクトでもう一度パスを貰う。一対一の開始の合図は、相手からボールを貰って足についた瞬間だ。今、意味不明なこじつけから始まった決闘が幕を開けた。


 「行くぞ、碇野」


 まず足元にあるボールをアウトサイドで前に転がし、いつでもドリブルを仕掛けても良いように相手との間合いを図る。これは奏真から教えてもらったサッカーの基本だ。

 アウトサイドで転がすのは、奏真の経験からすると、次に自分がしたい行動のモーションに入りやすいかららしい。これがインサイドや足の爪先でボールを転がすとなると、身体を動かしにくく、ドリブルが上手くできない。

 普段何気なくドリブルをしてても、ほんの少しの変化で上達することを奏真のおかげで知る事ができた。


 「何ちびちびしてやがんだ、来ねえならこっちから行くぜ!」

 

 (……来た!)


 相手との間合いとは、自分がフェイントをかけるか突破するかのどちらかモーションの内、一番絶好調にその行動ができる間合いである。

 今、僕が狙っていたのは、シザースフェイントで左にフェイクをいれて右側に突破するというモーションだ。

 

 「おらぁ!」


 案の定碇野は、こちらの術中にはまり、僕が仕掛けた左足のフェイクにつられて右足を出してきた。


 「何!?」

 

 罠に掛かった碇野を通り越して、すぐさま右側にボールを転がして突破を試みた時だった。

 突然ボールが転がる軌道上に足が現れ、自分の真下にあったボールは姿を消してしまった。


 「な……凄い」


 碇野は地面につけた手を軸にして、グラウンドの上でブレイクダンスでもするかのように、フェイクにつられた右足による綺麗な回し蹴りで僕のボールを奪っていた。


 「よっしゃあ! これで俺が一勝だな!」


 碇野虎次郎、どうやらただのツンツンヤンキーではなかったようだ。こんな信じられない身体能力は見たことがない。だが、ここで勝たなければサッカー部というレッテルに初心者に負けたことで泥を塗ることになり、僕と一緒にサッカーをしてくれている仲間にも申し訳がつかない。

  

 (……僕にとっても、絶対負けられないんだ!)


 もう相手が初心者だからとか、自分のプライドが何だとか、全然関係はない。負けは負け、勝ちは勝ち。勝負は転んでもどちらか二択しかない。


 「さあもう一回だ!」

お読みくださってありがとうございます。お陰様でZONEが復活してからpvが大幅に跳ね上がっております。ZONEを待ってくれていた読者様が多くて、一人で感動していました。

ZONEは毎週日曜日21時更新です。



北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

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