第8話『耳のビクトル、依田駒レオ現る!』
シュギコ氏についていった先は、ありきたりなマンションだった。そのマンションからは、オレオレという声が昔のJリーグかってくらい聞こえてくる。シュギコ氏は既に中だ。
「いいですか? せーので踏み込みますよ。せーの」
俺たちはドアを蹴破り、部屋に潜入した。こういうとき一度階数を間違えて違う部屋に入っちゃうボケに行きやすいが、どうやら一発で敵のアジトへ潜入できたらしい。いかにも悪そうなヤツらが、受話器片手にオレオレ言いながらこちらに視線を送っている。部屋の奥にはシュギコ氏がいる。
「何ものだ!?」
モヒカンが威圧的な態度で近づいてきた。俺はひとまず近くにあった机を左手で破壊してみせた。
「な、なんだ!? 何をしやがった」
敵はだいぶビビっている。うまくいっている。あとは必殺砂利んこ飛ばしで! と思ったが、ここはマンションの二階。地面を掘ったら下の階の住人に迷惑を掛けてしまう。
というわけで、机をぶん投げアタックをひたすら繰り返したら、狭いマンションの一室ならだいたいの敵にダメージ与えられる作戦に移行した。シュギコ氏は、今の騒ぎで姿を消している。思う存分暴れてやるぜ!
男たちの悲鳴が部屋中に交差する。五分ほど暴れると、いつの間にか全員やっつけていた。
ずっとホウキになって玄関に立て掛かっていたホウキ頭と、そもそも部屋の中に入ってきてなかったティーが、俺の元へ近寄ってきた。
「よくやりました」
「おまえら結局なんもしてねーな!」
「いいえ、私は外の見張りを」
「おれっちはいつでも武器として使えるように」
「まぁ、いい。で、これで初のミッションはクリアなのか?」
「いいえ、まだです。ここからが本番」
「そうか、ボス戦が残ってるんだった」
ティーはモヒカンからボスの居場所を聞き出した。
「ここから北へ2キロいったところにある大豪邸にボスがいるそうです。ボスの名は耳のビクトル│依田駒レオ! AV界ではそこそこ名の知れた男です」
「ほ~、そいつが異能力者ってわけか。オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!」
「右近くん、今の戦闘ですっかり調子に乗りましたね!」
「ああ、まさかあんなにうまくいくなんて思ってなかったからよ。しかも次は相手の城なわけだろ? 近隣住民のことなんて気にせず闘える。この左手を適当にぶん回してりゃ勝てるさ」
「果たしてそうでしょうか。相手の能力次第では、全く通用しないかもしれません。確かに出だしは好調だった。でも油断は禁物です」
確かに。防御系の異能力を持っていたら厄介だ。最悪逃げる準備もしとかないと。
俺たちは北へ2キロ歩き豪邸を発見した。疲れたから一旦休憩し、見張りのいる正面から正々堂々と、というかめんどくさいから突破した。
豪邸の中に入ると、大きな階段が左右に無駄に二本、大きな彫刻と絵画が左右対象に同じのが並んでいて無駄だ。
「あーっ!」
俺を見て目を大きくした、そのザコキャラは先日、廃工場で闘ったときに逃げた男Aだった。まさかこいつがボスではあるまい。ヤツらもこいつらの仲間だったか。
「おまえは鋼シャベル! こんなとこまで追い掛けてきやがったか!」
「は? 鋼シャベル?」
「おっ、右近くん、すごいじゃないっすか! もう敵から異名を付けられてるなんて! しかもかっこいいっす!」
「え、鋼シャベルって、ただのシャベルじゃん! 超ダせぇよ!」
「ほー、おまえが鋼シャベルか」
低い声が響くと、背筋が固まった。なんだ、この異様な雰囲気は? 階段の上に30代後半くらいのスーツにオールバックの男が立っている。そいつと目が合った。身体が震えることすら忘れて硬直化した。
「ボ、ボス! こいつらが急に入ってきて」
「ああ、たったいま事務所が破壊されたと連絡が入った。どうやらおまえの仕業らしいなぁ、鋼シャベル?」
まずい。やっぱまずい。俺はどうやら大人の異能力者ってヤツを舐めていたようだ。逃げるしかない。さもなきゃ
──殺される。