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第3話『ダサ強くって、使いにくい』


 男たちが迫ってくる。


「オイ、コラ、ガキー! 何見とんじゃボケー! あと魔女ー! 何見とんじゃ魔女ー!」


 魔女は奴らの仲間ではないらしい。


「さぁ、早く。せっかく手に入れた能力なんですから、使わなきゃもったいないですよ。ほら左手で、あいつらの腹や顔面をグッシャードバババーと!」

「左手? バカやろう! 俺は右利きだ! 左手じゃ何も……」


 ふと左手を見ると、肘から指先にかけて青い光がまとっていた。


「うわ! な、なんだこれ!」

「アナタの能力。ブルドーザーハンドです!」


 ――ブルドーザーハンド?


「ダサっ! なんだその能力名! てか能力て!」

「いや、でも日本語で書くと、破壊神の片手間って書くんですよ」


 ――破壊神の片手間(ブルドーザーハンド)


「いや、そういうのあるけど! 中二な言葉の横に全然違うカタカナのルビふってあるやつ! てか、破壊神の片手間もダサいのだが! せめて最後の間がなければ!」

「ちなみに、青い光とブルドーザーのブルの部分がブルーとブルでかかってるんですよ」

「ますますダサいな! そして、ダサい要素をそんなに丁寧に説明せんでくれ!」

「さぁさぁ、いいから! その手で殴ったり、地面を掘ったり、物ぶん投げたり、えぐって削って砂利を飛ばしたりして闘って下さい」


 脳内で言われた通り行動して闘ってみた。


「おお、なんか意外と使い道あるじゃねーか! ダサいが、なんだか闘える気がしてきた!」

「でしょ!? そこそこ強い能力なんですよ! ほら、そうとわかったら早く闘って下さい! 早くしないと、彼らだっていつまでも空気を読んで、ゆっくり走ってくれませんよ!」

「え、空気読んでくれてたの!? なんかなかなか襲って来ないなーと思ってたけど! て、それどんな状況!? なら逃げればよかった!」

「ほら、来ましたよ!」

「ちっ、やるしかねーか。ブルドーザーハンドってくらいだから、怪力系の力だろう。試しに地面掘ってみっか」


 半信半疑だが、左手をアスファルトへ突き刺した。突き指をしそうで怖いから、ゆっくりと。するとどうだ。アスファルトに勢いよく手のひらが潜り込んだ。そのままアッパーをする感じで男たちに向けてえぐった石の固まりを投げつけた。しかし、石の固まりは大事なところでゴールポストの遙か上空を飛んでいくサッカーボールのように、工場の天井を突き破って星となった。


「うおー、使いにきー! 操作が効かねー!」


 それはそうだ。普段左手なんかほとんど使わない。キーボードを打つときの指先くらいなものだ。

 ついに男たちが眼前までやってきた。もう手の届く距離だ。


「クッソー! くらえー!」


 俺は思いっきり左手をぶん回した。だが、届かず先頭の男AのTシャツを切り裂いた程度だ。左手だと距離感も掴みづらい。それに左手に力があり過ぎて違和感もハンパないし、勢いで身体が持ってかれるのだ。


「どうして左手なんだ!?」


 文句をいっている暇はない。今はやるしかない。

 とにかく、地面をえぐってブーンバシャーンを何度もくり返した。某ファイターズの某獣の立ち強パンチのようにすくいにすくった。そのうち身体が電気でバチバチするんじゃないかってくらい連打したにも関わらず、まったくもって男たちには命中しない。薄暗い工場に降り注ぐ光が増えていく。

 しかし男たちが俺に攻撃することを躊躇しているのを見ると、無駄な体力を使っているわけではないようだ。


 こちらに銃口が向けられ少し怯んだところを、男Bが左腕を掴んできた。これはラッキーかもしれない。左手を大きく横に振る。男Bは宙に舞った。男Aと男Cは驚いて動きが止まったようだ。が、男Bは地面に身体を強く打ったもののすぐに起き上がり、銃を構えた。

 俺はすぐさま銃を破壊しようと手を伸ばすが、やはりなかなか標準が合わない。

 男Bはオレの額に銃口を向けた。そして、引き金を引いた。俺は咄嗟に何の能力もない右手で顔を守った。反射的に右手が動いてしまったのだ。


 ――パァーン!


 と銃声が響いた。


 ――死んだ……と思った。しかし、痛みはない。


 目をこらすと、少し傷のついた鉄アレイがキラキラと輝いていた。そうだ、すっかり忘れていた。ずっと右手に握ったままだったのだ。

 俺は鉄アレイを思いっきりぶん回した。


「うおりゃーーーーー!! いっけーーーーーー!!!!!」


 男B、男Cに連続ヒット! 二人とも倒れて気を失ってしまった。


 それを見た男Aは「お、おぼえてろーーーー」といって逃げていった。


 パチ、パチ、パチ。 魔女が拍手をした。

「おめでとうございます。見事、チュートリアルの戦闘に勝利しました」

「チュートリアルだと? ゲームみたいなこといいやがって、どういうことだ?」

「今のはアナタの能力がちゃんと発現しているかのテスト。そしてアナタは見事に、能力で勝った」

「いや、能力で勝ってはいない」


 完全にシュギコ氏の召喚獣バハムータによる勝利である。


「いえいえ、ブルドーザーハンドを使うと見せかけ左手に敵の意識を集中させて、からの右ブルドーザー。完璧でした」

「無理あるだろ! なんだ右ブルドーザーって。ただの鉄アレイだろうに」

「じゃあテッキュウハンド」

「なぜ俺を解体作業員にしようとするんだ」

「おっ、するどいですねー」

「いや、ツッコミをいれただけだが?」


 この魔女のボケは天然なのだろうか。それとも俺を騙すために親しみやすさを演じているだけか。ただ不思議な能力を俺が使えたのは事実だ。おまけに宙に浮いている女。ファンタジー過ぎて逆に疑うも何もなくなってきた。


「あのですね。まさしくこれからアナタには解体作業をしていただきたいのですよ」

「はー? まぁ、ようわからんが、この能力があれば家の解体とかも簡単そうだな。時給はいくらだ?」

「報酬は時給ではなく、一現場につきいろいろですね」


 言い方からして、日雇いで短期の高収入アルバイトみたいな感じだろうか。バイトなんてしたことないが金は欲しいし興味はある。だが恐怖心は拭えない。そもそも急に仕事の話に誘導されていた。危ない。


「お、おぅ……そこちゃんと教えてくれないのが怪しいよな。つーか、そもそも何で仕事の話になってるんだ?」


 魔女は、アナタの方こそ何言ってんの? と言いたげな顔をした。


「やだなー、ちゃんと申し込みしたじゃないですかー?」


 ようやく合点がいった。


「あー、あれってバイトのエントリーだったわけ? てか、やばくない? 変なとこつれてかれて強制労働させられない? うわ、ぜったいそう! やっぱ恐っ! いい、いい、やらない! 帰る!」


 嫌悪感を大げさに出しながら魔女に言い放った。こういうときウジウジしてはっきりしないと、どんどん攻め込まれて、なんやかんや理詰めで契約書に名前を書かされ後日、印鑑も持ってきちゃう、というのをネットの詐欺被害者の掲示板で読んだことがある。 


「ふふふ、別にかまいませんよ。でもアナタは必ず仕事を引き受けることになる」


 魔女は勢いよく俺を指さした。魔女の格好がアニメチックだからか、ビシッと音が聞こえたような気がした。冷たい風が吹き込んで工場内の砂埃が舞った。


「伊能右近、アナタに呪いがかかりました」


 意味不明な脅し文句に何やら余裕の表情が気に入らないが、帰っていいというのだから帰ってしまった方がいいだろう。


「何いってんだか。そんなんじゃビビんねぇし、俺を騙すなんて一億年と二千年早いぜ。無駄無駄無駄! 無駄だよ、無駄! じゃあな!」

「いいえ! 能力を手に入れてしまった以上、アナタはこの仕事を断ることなんてできないのですよ。家に帰ればわかるでしょう。日常に起きた変化と直面したとき、アナタはいてもたってもいられなくなる! 伊能右近! もう後戻りはできない! 前に進むしかないのです!」 


 ――家に何かされたのか? 家族が心配で急ぎ足になった。


「へっ、勝手にいってやがれ。どこの魔女だか知らんが、二度と関わらんでくれ」 

「ティー。私はコスプレ魔女のマイノリー・ティー!」


 ――なぜ、このタイミングで名乗った!?


 猛ダッシュで帰宅したが、特に異変もなく家族も無事だった。

 そう、彼女はあくまでレイヤー。魔女ではないらしい。黒魔法も白魔法も使えない。が、浮くことができる。詳しくは後述するが、つまりそういう異能力者なのである。

 そんなこんなで俺はマイノリー・ティーと出会った。そして、彼女はとんでもない呪いを俺に掛けていたのだった。



お読みいただき、ありがとうございます! 次回更新もゆるーくなりますが、よろしければお願い致しますm(_ _)m

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