プロローグ『史上最悪の呪い』
――バカな。こんな地獄があってたまるか。
四角い画面の真ん中で、渦巻きがぐるぐるとし始めてから何時間が経っただろう。
途中で風呂に入ったりドラマを観たりしたが、まったく止まる気配がない。映画も一本見終えた。
母親は彼女のパソコンで若手韓流アイドルの動画を見ている。俺のパソコンも目的の動画以外、問題なく再生される。ネット環境に問題はないはずだ。
サイト側のトラブルかと思ったが、俺が求める大人向けのものだけダウンロードが終わらず、それどころかダウンロードの進捗率を表すバーは1ミリも進まないのだ。
母親の眠ったあと、母親のパソコンでも試してみるが結果は同じだ。
一睡もせずに大きなモヤモヤを抱えながら学校へいく。教室に入ると毎朝クラスの不良たちが、黒板の前に集まりスマホで俺が見たくて仕方のない動画を見ている。
俺はいてもたってもいられず、黒板の落書きを消しに行くふりをして彼らの後ろへ回り込み、視線をスマホへと向けた。
真っ黒な画面に例の渦が巻いていた。
数秒して不良たちが不満を露わにした。
「あれ、なんだよ。急に止まっちまった」
「ったく、ざけんなよ。ぜんぜん動かねーじゃん」
不良たちがなぜか一斉に俺の方を見てきたので、ビビって自分の席に戻った。今現在の俺の左手ならば不良少年なんて容易くやっつけられるのだろうが、力をうまく使いこなせず死なせてしまう可能性が大きい。つまり、ここでのビビりは法的制裁への恐怖心だ。
俺がそこから離れた途端「おっ、動いた。ほらイヤホンよこせ」と不良たちの目が再びスマホに集中した。
勇気を出して、もう一度彼らの背後へ回り込む。するとまた渦巻きが現れた。
「いったい、どうなっているのだ」
左手を見つめる。俺の中にある疑念が生まれた。
――いや、まさかな。
しかし、翌日も翌々日もそのまた翌日も同じ減少が起きた。まさかとは思うが間違いないだろう。
「地獄だ。どうやら俺はエロ動画を見れなくなっちまったらしい」
俺は、最近知り合ったばかりの魔女の言葉を思い出していた。
――伊能右近、アナタに呪いがかかりました。