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奈落

大姫の過去が明らかになります。

「おや?天下の女武者、巴殿ともあろう者が、儂の言った事がお分かりにならぬようじゃな」

行家殿が、にやりとします。

「この姫は、『巴殿が自ら腹を痛めて産んだのでは無い』と言った方がお分かりになろう…。やはり、巴殿も女であったな。女は母親になりたいものなのであろうからなぁ」

行家殿が、酒を飲み干して大声で笑います。

「大伯父上には、巴母様の何が気に入らなくて…そのような根も葉もない話で巴母様を愚弄されるのですか?」

私は、怒りを抑えながら行家殿に尋ねます。

「姫は何も知らぬのか…全てをこの場で話しても良いのだが、それでは、折角の祝いが台無しじゃし、儂もそこまで無粋ではない。席を改めて、とっくりと聞かせてやろう…儂が、巴御前に言った意味をな。よろしいかな、義仲殿?」

行家殿が、ちらりと義仲父上を見ます。

義仲父上が苦虫を噛み潰したような表情をして、頷きます。


祝宴がお開きになり、私と巴母様は、衣服をあらためてから、行家殿の部屋に向かいます。

「巴母様、酒の席での戯れ言でしょう。私からきつく言ってあげます。大伯父上とて許せませんから」

私は、硬い表情をしている巴母様を支えるようにしながら部屋に入ります。

部屋の中には、義仲父上と行家殿。何故か義経伯父上までいます。

「ふむ…どうやら儂の話に関係する者が、揃ったな」

行家殿がにやりと笑います。

義仲父上を上座に座り行家殿と正対し、私と巴母様が義仲父上の右手に、義経伯父上は左手に座ります。

行家殿の近習が、人数分の白湯を持ってきて各々の前に置き、部屋をでていきます。

行家殿が、白湯を一口飲んで話し始めます。

「姫にも、『源氏の血』は流れてはいる。が、それは、義賢・義仲と続く血統とは、違うものじゃ」

「何を言われる、姫は義仲殿と巴御前の娘です。巴御前が不義を働いたと言われるのか!」

義経伯父上が、行家殿に食って掛かります。

「落ち着け…儂は言ったであろうが、『巴殿は子を産んでおらん』と。さて、義経、『源氏の嫡流』を名乗れるのは、今や義仲殿の血を継ぐ者だけだが…義仲殿の父、義賢と嫡流を争った者がおる。誰だか分かるな?」

行家殿が、義経伯父上を手で制しながら話します。

「我が父…義朝と聞いております」

義経伯父上がむすっとしながら答えます。

「そうじゃな。そしてその血は、この姫にも流れておるのじゃ!」

行家殿が私を指さして宣言するように言います。


「大伯父上…言うに事欠いてその様な作り話…戯れにも程があります。では、お尋ねします。私は一体何方の血を継いだ娘なのですか?無論、義経伯父上ではありませんし、伯父上のご兄弟でご存命なのは範頼様、義円様、全成様だけと父上、母上から伺っています」

私は、くすくすと笑う。

「ふん…今、生きておるのはな。義朝兄上の子で、義平、朝長は平治の乱で討たれた。だが、義経と同じように助けられた者がおる。それが姫の本当の父じゃ」

行家殿が私を見ながら鼻を鳴らします。

「まさか…姫の父とは…」

義経伯父上の顔が青ざめます。

「そう…石橋山合戦で敗死した『頼朝』じゃよ。聞けば、頼朝を討ったのは、姫の隣に座っている女武者らしいがな」

行家殿が、勝ち誇ったように巴母様を見ます。

「嘘…嘘ですよね?巴母様…行家殿の作り話ですよね?」

私は震えながら巴母様を見ます。

巴母様は、只々沈黙しています。

「確か…頼朝には娘がいたのぅ。儂が令旨を頼朝の元に届けた頃に産まれていたはずじゃ。とすると、石橋山の頃は、二つか三つじゃなぁ…」

行家殿が、白湯を飲んで続けます。

「頼朝の妻は、尼寺に入れられたが、娘は美しい女武者が引き取ったらしいがな…」

行家殿がくつくつと笑います。


暫くの沈黙の後、義仲父上が行家殿に

「どうして、この件を知った?」

絞り出すように尋ねます。

「儂は紀伊の新宮が根城じゃ…新宮の近くには何がある?」

行家殿がはぐらかすように言います。

「熊野…少し足を伸ばせば吉野だが…」

義仲父上が不審に思いながら答えると

「修験道…山伏ですか!」

巴母様が叫びます。

「そうじゃ…儂は、彼等と繋がりがある。儂の元には天下の出来事が全て入ってくる」

行家殿が胸を張って自慢します。

「屋敷を見張らせていたのに…何故?」

巴母様が、項垂れながら尋ねます。

行家殿は、それに答えずに

「姫よ。もう、お分かりじゃろう?姫は巴御前の想いを満たす道具にされたのじゃよ?」

行家殿が笑いながら私を見ます。

私は、立ち上がり義仲父上に

「今までの行家殿の話は…真実ですか?」

と落ち着いた声で尋ねます。

義仲父上は、静かに頷き、巴母様は泣きながら私を見ています。

「しばらく…一人にさせて下さい。でないと…私の中の悲しみや怒りでどうにかなってしまいそうです」

私は、静かに部屋を出て自室へとふらついた足取りで向かったです。



 

次回、義高・義重君登場です。

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