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披露

私の体調が元に戻ったのは、裳着披露の前々日でした。

義高兄様が、心配して屋敷まで迎えに来てくれました。

本来なら、義高兄様や義重兄様達と、一緒に過ごすために、内祝いの日の翌日には、義仲父上の元に行くことになっていたのです。

「体調を崩したと聞いて驚いたぞ。無理を重ねたのか?」

義高兄様が、心配そうに私を見ます。

「申し訳ありません…」

私は、素直に頭を下げます。『月のもの』で動けませんでしたなんて、恥ずかしくて兄様に言えません。

「姫を馬に乗せてやろうと思ったが、体の事を考えるとな…まぁ、輿の用意をしてきたから、それで姫は向かうと良い」

義高兄様が少し残念そうな顔を見せますが、すぐに優しく私を気遣ってくれます。


義高兄様と巴母様は、馬で。私は、輿で義仲父上の屋敷に向かいます。

義仲父上の屋敷は、私が幼い頃に巴母様と一度だけ来たことがあるらしいのですが私には、その記憶はありません。

「父上、お約束に遅れて申し訳ありません」

私は、義仲父上に謝ります。

「うむ…あまり無理をするなよ?裳着の披露が終わっても二、三日はここにいれば良い。義高や義重をこきつかっても構わんぞ」

義仲父上が明るく笑います。

私は、そんな事できませんと困った表情を見せます。

「ところで、父上。義経伯父上はもうこちらに?」

私は、話題を変えます。

「おう。昨日やってきた。どうかしたか?」

義仲父上が答えながら私を見ます。

「先日、松本の屋敷でお話しした事をおぼえておられますか?あの時のお礼をしていないので…義経伯父上は忘れていらっしゃるかもしれませんが…」

私は、義仲父上に答えます。

「そうか…昔の恩を忘れず、きちんと礼をしたいか。義高、義経にこの後、姫が参ると伝えてこい」

義仲父上が感心しながら、義高兄様に命じます。義高兄様は立ち上がって部屋を出ていきます。

「義重、お前も姫や義高と一緒に、義経に礼を言ってこい。お前はまだ恩に報いる手立てを持たん…だからこそ、きちんと礼をしてこい」

義仲父上が、義重兄様に言い聞かせます。義重兄様は納得した面持ちで頭を下げます。


義高兄様が戻ってきたので、私は兄様達と一緒に、義経伯父上

の部屋に向かいます。

義経伯父上は、義仲父上と違う感じがします。体が逞しいといった感じではなく、どこか気品を感じます。

「ようこそ。源義経です。姫に会うのは初めてですね」

にっこりと笑いながら、義経伯父上は挨拶してくれます。

「いいえ…義経伯父上は姫に一度会っています」

義高兄様がにこりと笑います。

はて…?といった表情で義経伯父上は考えます。

「ところで…武蔵坊は来ておりますか?謎解きはかの者が来てからで」

義重兄様が義経伯父上に尋ねます。義経伯父上は、近習に武蔵坊殿を呼ぶように命じます。

しばらくして、武蔵坊殿がやって来ました。

「義経様、お呼びですか?」

武蔵坊殿が、どっかりと座ります。巨体に似合わないような人懐っこい顔をしています。

「うむ…義重がお前が来ているか尋ねるし、何やら考えがあるらしいのだ」

義経伯父上が、義重兄様を見ながら言います。

「武蔵坊殿…姫の顔に見おぼえはありませんか?」

義重兄様が武蔵坊殿に尋ねます。

武蔵坊殿は、私の顔を見ながら考え込みます。

「数年前…御射山社祭りで、三人組の童たちを助けた事をおぼえていますか?」

義高兄様がさらに尋ねます。

武蔵坊殿が、はたと膝を叩きます。

「おぼえております。あの後…一番幼かった童女にさんざん泣かれましてなぁ。どうして良いか分からず困り果てました。義経様は面白がるように笑われているだけでしたから」

武蔵坊殿は、照れを隠すように頬を掻きながら豪快に笑います。

「武蔵坊殿は、天下無双と言われていますが、お優しい方ですね」

私が、くすっと笑い、私達は居ずまいを正します。

「あの時、助けた三人の童が私達兄妹です。お二人に助けて頂かなければ今頃どうなっていたか…随分と時が経ちましたがお礼申し上げます」

義高兄様が義経伯父上と武蔵坊殿に頭を下げます。義重兄様と私も義高兄様に続いて頭を下げます。

「そうか…あの時のな…しかし、姫の姿はこちらではとんと見かけなかったが」

義経伯父上が尋ねます。

「それは、姫は体が弱くここではなく、松本の屋敷で暮らしているからです」

義高兄様が義経伯父上に答えます。

「松本…では、姫は巴御前の息女か?」

義経伯父上が私を見て嬉しそうに言います。私はゆっくりと頷きます。

「そうか…姫、一度巴御前と一緒に私の屋敷に遊びに来られよ?私の妻は、御前の妹なのだ。きっと喜ぶ」

義経伯父上が是非にと誘ってきます。これは、巴母様と要相談ですね。

この後、武蔵坊殿の武勇伝や義経伯父上の諸国の話などを聞いて楽しい一時を過ごしました。


やがて、私の裳着披露の日がやってきました。

松本の屋敷の時よりも、きらびやかな装束に身を包みます。

私は、義仲父上の隣に座り、巴母様は一段下がった所に控えます。

「今日は俺の姫の裳着の祝いによく集まってくれ、過分な進物まで頂いた。礼には足りないかもしれないが、存分に食べ、飲んで楽しんで欲しい」

義仲父上が杯を上げて言います。私は丁寧に皆さんに頭を下げます。

祝宴が始まると、方々から「美しい」「可憐だ」とか声が聞こえてきます。

お世辞でも少し恥ずかしいです。でも、義仲父上や巴母様は嬉しそうです。

巴母様や義仲父上に、いらっしゃった方々を紹介されながら私は丁寧にお礼をしていきます。


祝宴もお開きに近づいてきた頃。

一人の年配の方が、杯と瓶子を持って私の前にどっかりと座ります。

「行家伯父上…俺の自慢の姫だ。美しいだろう?」

義仲父上が嬉しそうに言います。

行家殿は、私を値踏みするようにじっくりと見てきます。

「いや…『鬼女』『紅葉の再来』と言われ、子を成さなかった巴殿がこのように美しい姫を育てあげるとは…祝着だのう」

行家殿が、杯に口をつけながら言います。

巴母様と義仲父上の表情がひきつります。

私は、この後の行家殿の言葉で、幸せから一気に奈落へと落ちて行くのです。


行家君の暴走は次回です。

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