表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/37

昔語り【兄妹】

いつも一話が短くて申し訳ありません。もう少し話が進めば長くなるかも…

「そういえば、遊んでいて蔵の中に三人同時に閉じ込められた事があったな」

ふと、義高兄様が言います。

「そうそう、あれは…もう5年ほど前になるかと」

義重兄様が懐かしそうに相槌をうちます。

「一斉に私達がいなくなったので、屋敷中大騒ぎになりましたね。あれは、義高兄様がいけないのですよ?扉を勢いよく閉めたりするから…」

私も、くすっと笑いながら思い出していきます。

「いや…まさかあれくらいの力で錠がおりるとは…」

義高兄様が、困った顔をしながら誤魔化します。

「蔵の中で不安になった姫を、俺や義重は励ましたなぁ。ところが、蔵から出た後、小百合に叱られる俺達を一生懸命、姫が庇ってくれたなぁ」

義高兄様の言葉に義重兄様は頷きます。


「川遊びをしていて、私が足を滑らせて川に落ちて流されかけた時、兄様達は危険を顧みず、懸命に助けてくれましたね」

私が七つの頃の思い出を語ります。

「あれは、姫も悪いのだぞ。無理に俺達の真似をしようとするから」

義高兄様が、にっこりと笑いながら言います。

「あの後、ずぶ濡れになった俺達三人を待っていたのが…『鬼女のように恐ろしい』巴御前だったが」

義重兄様がちらりと巴母様を見ます。

「いつも、何をするにも三人一緒でしたね。小百合がいつも心配していました。あの頃、姫はあまり丈夫ではなかったのですから…」

巴母様と小百合かか様が、揃って私達を優しく見つめます。


「諏方大社の御射山社祭が思いで深いな…父上や巴御前と一緒に行くのが主だった…いつだったか、俺達三人で一緒に祭見物をしていて」

義重兄様が、白湯で喉を潤します。

「そうそう。姫がならずものに絡まれて…俺や義重も羽交い締めにされて、どうしようもなくなって…諦めかけた事もあった」

義高兄様が懐かしみながら言います。

「ほう…そんな事があったのか。それでどうなった?」

義仲父上が義高兄様と義重兄様の間に、杯を持って割り込みます。

「義経伯父上と弁慶殿が私達をならず者達から救ってくれたのですが…」

義重兄様がちらりと私を見ます。

「弁慶殿のあまりの巨体に、姫が驚いて泣いてしまい…弁慶殿はおろおろするばかり。義経伯父上は、にこにこと笑っているだけで…」

義高兄様が笑いながら結末を話します。

「天下無双の武蔵坊も、幼い姫には敵わぬか。いや、面白い」

義仲父上が大声で笑います。


「春は野原で遊び。夏は川で遊び、蛍愛で。秋は真紅に染まる山を見て、冬は雪と戯れ温泉に浸る」

私はぽつりと今までのここでの暮らしを少し『枕草子』のように表現してみます。

「うん、確かに季節毎にここに来てした事を表しているな」

義高兄様が褒めてくれます。

「姫には文才があるのでは?中原の家の良い影響かもしれん」

義重兄様が中原の爺様に微笑みます。

爺様も嬉しそうです。

「姫…信濃をゆっくりと歩いてみてはどうだ?信濃は広い。見るべき物も沢山ある。穏やかで国が治まっている今が良い機会だと思う」

義高兄様が勧めてくれます。

「巴様だけでも、すぐふらっといなくなり突然帰ってきたのですよ?姫様まで、そうなったら私、心配でなりません」

小百合かか様が声をあげます。

「仕方ないでしょう…あの頃は動乱の世で、皆大変で、忙しかったのですから」

巴母様が小百合かか様を宥めます。

「裳着を済ませれば、大人の女性だ。そんなに心配しなくてもよかろう。いつかは、姫も嫁ぐのだからな」

義仲父上が感慨深げに言います。


祝宴も、それそろお開きのようです。

「姫…巴と小百合、水入らずでゆっくり話してこい。数日後には、俺に従ってくれている武士達に姫を披露せねばならんから、二人とも用意で忙しかろうからな」

義仲父上が優しく微笑みながら私の頭を撫でてくれます。

「姫が床に臥せったと聞いた時の巴は、凄かったぞ。戦場に出れば一騎当千。戦が終われば風のように、夜を日に継いで姫の元に帰っていっていた」

義仲父上が巴母様を見ます。

巴母様は恥ずかしそうに顔を赤くしながら俯きます。

「巴のいない間、姫を大事に育てた小百合。きちんと二人に礼をするべきだぞ」

義仲父上の言葉に私は、涙を流して頷きます。

「よし。行ってこい。俺達なら気にするな。気の知れた身内…昔語りをしながら酔いつぶれるとするさ」

義仲父上が子供のような嬉しそうな笑顔をして言います。

私は、静かに席を立ち、巴母様と小百合かか様を自室へと促します。

義高兄様や義重兄様が私に気づいて腰を浮かせますが、義仲父上がゆっくり首を振って制してくれました。

私は、義仲父上に頭を下げて祝宴の場を離れたのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ