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板東の兵火 1

大変お待たせしました。

この段は、義高主観です。

義重と夜叉姫の婚約は、あっという間に家中や武士団にひろまった。

「義高様、主だった方々広間にお集まりです」

近習が俺の私室の扉越しに声をかける。

「巴御前と夜叉姫もおられるか?」

俺の問いに近習は、はい……と短く答える。

俺は、ゆっくりと立ちあがり広間に向かう。

広間の上座だけ、空間がある。俺はそこを避けて義重の隣に座る。

「義高殿、上座に……」

義経伯父上が俺に促す。

「いや……俺はまだ家督を継いでいないので……」

俺はやんわりと断るが、参集してきた武士団の主だった者達がしきりに俺に上座に座るように促す。

俺が困惑していると、巴御前が、車座になっては?と助け船を出してくれる。

俺は、隣に座る義重に促し改めて車座に座り直す。

巴御前と夜叉姫は、その輪には入らず控えている。


「では、軍議に……」

俺が第一声をあげると、近習が輪の中心に板東の地図を広げる。

「まず、こちらの兵の集まりや状態については?」

義重が、口を開く。

「東信濃、上野や北武蔵の武士団が参集しており、士気高く兵糧等も充分に」

義経伯父上が答え、俺は満足したように頷く。

「では、このまま下野に入り、小山を誅し然る後、常陸へ向かって志田の伯父上と合力して佐竹を……」

俺がこれからの戦略を述べていると、義重が手を挙げる。

「下野からは、二手に別れたらどうだろう?足利の動きが定かでない……。もし、小山との一戦の後で後背を突かれるとまずい」

義重が地図を睨みながら言う。

俺は、ふむ……と腕を組んで考える。

「まず、足利の真意を探ってみては?下野との国境にて兵を止めて……」

上野の有力武士団、新田党の当主が提案する。

「おそらく下野は一枚岩ではありますまい。足利を牽制するためにも、使者を出してみては?」

「左様、小山は、南東、足利は北西が地盤。足利を牽制できれば……」

下野と境を接する北武蔵の秩父党の将が言う。

「ならば、まず使者を出してみるか……で、その使者だが……」

俺は義経伯父上や義重の顔を見てから告げる。

「私が行きましょう」

凜とした巴御前の声が広間に響き、皆がそちらに視線を向ける。

「私も行きます。義母ははを護るのが義娘むすめの役目ですから」

夜叉姫が巴御前を見ながら言う。

「しかし、二人の身に何かあれば……」

俺は、躊躇う。

「そうなれば、かえって好都合です。大義名分が手に入ります。義高殿……分かりますね?」

巴御前が諭すように言う。

「何かあっても、『紅葉』と『夜叉』です。足利の輩を供にして西方に旅立つまでです」

夜叉姫が軽口を言う。

「しかし、使者に『女』を立てたと足利に軽んじられませんか?」

新田党の若いある者が口を開く。

「たわけ!巴御前の事をよく知りもせずに、見下した物言いをするでない!」

新田党の当主が叱責する。

「まぁ、新田様……私の事を知らない若い者がいても、仕方のないこと……。こちらの夜叉姫は、我ら源氏と双璧をなす『越前平氏』重盛殿の孫。私が認めた『義娘むすめ』です。もし、私達の身に何かあれば、足利は、この日の本の武士全てを敵に回します」

巴御前がゆっくりと語る。

「何と!そちらの姫は、あの重盛殿の孫娘……」

とある老将が、驚く。

重盛じじ様をご存知なのですか?」

夜叉姫が老将に尋ねる。

「源平の争乱を経験していますので……」

老将は短く答える。

「義高殿……ここは、巴御前と夜叉姫にまかせては?他者が行けば、足利は我らを下にみるかも知れず、といって、義高殿や義重殿、義経わたしが行けば、いらぬ疑心を……」

義経伯父上が俺に進言する。

俺は、腕組みし暫く瞑目する。

夜叉姫ひめ、巴御前の事、頼めるか?」

義重が姫に尋ねる。

「もちろん、いざとなれば……」

夜叉姫が言いかける。

「二人とも無事に帰ってこい!『義母はは』と『義妹いもうと』を人柱にしたと後ろ指を指されたくもない」

俺は、夜叉姫に命ずる。

「それに、二人に何かあったら、父上や大姫つま義重おとうとからの責めに俺が耐えられん」

俺は、大笑いしながら言う。

「私も……千早おくに責められますね」

くすっと義経伯父上が笑う。

武士団の諸将は、俺と夜叉姫のやり取りを少し驚きながら見ている。

「皆様に見苦しい所を見せてしまった……お詫びする」

俺はぺこりと頭を下げる。

「いや、義母ははを心配し、義妹いもうとを案ずるのは、当然。義高様の『孝』と『仁』……しかと拝見させて頂きました。我ら新田党、改めて『忠』を誓わせて頂きます」

新田党の当主が頭をさげれば、他の武士団の当主もそれに倣う。


「では、私と夜叉姫ひめで、一足先に……」

巴御前が俺に一礼する。

「御前……よろしく頼みます」

俺は、席を立つ二人に声をかける。

「すぐに行くからな……」

義重が夜叉姫に声をかければ、夜叉姫もにっこりと微笑んで頷く。

「では、改めて……」

俺は、二人の姿を見送り軍議を再開した。











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