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手合わせ

短い話連発で済みません。

この段は、夜叉姫主観です。

「『平氏棟梁』平維盛の娘、夜叉です」

私は、ちきんと居住まいを正して挨拶する。

「うむ。越前よりよう来られた。しかし、平家方に女武者がいたとは、聞いたことはなかったが?」

広間の奥、一段高い所に座る男性が話す。

少し見下したように聞こえたが耐える。

「父・維盛、祖父・重盛よりの書状……御披見頂きたく」

私は、すっと二通の書状を取り出す。

男性の近習が、書状を丁寧に受けとり男性に手渡す。

「ふむ……」

書状を各々一読した後、男性は、私と同じ、朱糸縅の鎧を着た女性に書状を渡す。

女性が、少し驚いた表情を浮かべる。

「夜叉姫殿……重盛殿からの書状の内容は、ご存じか?」

男性の問いに、私は、いえ……と答える。

「我等の家中にしばし預けるゆえ、世間を教えてやって欲しいと……」

男性は、声をあげて笑う。

「全く……重盛殿もわざわざ私に憧れているので是非とは」

鎧を着た女性が少し溜め息をつく。

「まぁ、よかろう。重盛殿も、孫娘には甘いという事だ……では、夜叉姫殿、木曽の客分としてしばらく我らと共に過ごすが良い」

男性は私にそう宣言した。


「ちょうど、主だった者達もいる、紹介しておこう。まず俺が、木曽義仲。それから……」

義仲殿が、順番に皆を紹介していく。

「で……この女武者が、夜叉姫殿の憧れの巴だ」

義仲殿に紹介された巴様が私に優しく微笑む。

私は、憧れの女性かたに出会えた事が嬉しくて仕方なかった。

「父上、夜叉姫殿は、身なりは巴御前のようですが、果たして我等と同じような働きができるか……」

すっと、義仲殿に体を向けて意見を言う、私とさほど年が違わない義重殿。

「義重、控えろ」

隣に座る義高殿が、声をかける。

「いえ……義重殿の言うことも一理あります。お気になさらず」

私は、冷静に答える。

「ふぅん……少しは自信があると?よかろう、俺が見定めてやる。俺に勝てなければ、巴御前と馬を並べるなど夢物語だそ?」

私を義重殿は挑発してくる。

私は、その挑発にあえて乗る事にする。私とて、日々鍛練をしてきた。年の近い男性に負ける気はしない。

「少し……庭先をお借りします」

私は、義仲殿に断りを入れる。義仲殿は、興味深そうな顔をして、私に許可を出す。


庭先に降りた私と義重殿。

「姫の得意な武器ものでいい。俺に一太刀でも当てたら勝ち。それでいいか?」

義重殿は、余裕を見せながら私に言う。

「長巻が当たれば……大怪我では済みませんよ?」

私は、確認する。

「俺は、『無手』でいい。当たらなければどうという事はないしな」

義重殿が明るく笑う。

私は、その態度に怒りを覚えて長巻を構える。

「いつでもいい」

義重殿は、私にそう言いながらも何も構えを取ろうとしない。

「はっ!」

気合いと共に、踏み込み長巻を降りおろす。

当たった!と思った瞬間、私は地に倒れた。

「大丈夫か?」

義重殿がすっと、手を差し出す。私はそれを払い立ち上がる。

「今一度!」

私が叫ぶ。義重殿は、溜め息を吐いて先ほどの位置に戻る。

長巻を構え、もう一度踏み込み、降りおろす。

当たったと思った瞬間、私の目の前に義重殿がいた。

「さっきより、鋭かったけどな……俺は、速さを落としている」

にっこりと笑う義重殿。


「まぁ、それくらいにして」

巴様が庭先に降りて、私と義重殿を見る。

「夜叉姫殿……私達は、幼い頃よりこの木曽の山野を駆け、武を練ってきました。姫が私に憧れてくれるのは嬉しいのですが、姫と私では、基礎が違います」

巴様は、私に諭すように言います。

「私は……巴様のようになって、平家いえの役に立ちたいのです。今さら和歌うたや管弦など……」

私は思いの丈を巴様に涙ぐみながら告げる。

「じゃあ、俺とやるか?」

義重殿が、私に声をかける。

「どうしたのです?義重殿」

巴様が微笑みながら義重殿を見る。

「それは……姫と俺は、年も近いしもう一度、基礎からやろうかと……」

段々と義重殿の元気がなくなっていく。

「まぁ、そういう事にして。夜叉姫殿、覚悟は宜しいか?途中抜けは私は許しませんよ?」

巴様が私をじっと見る。

「はい!」

私は、明るく決意を込めて答えた。

「巴、よかったではないか?もう一人『娘』ができて」

広間からこちらを見ていた義仲殿が笑いながら巴様に言うのを聞きながら、私は巴様と馬を並べる日を思い描いた。


次回は、行家登場です。

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