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昔語り【対面】

私は、ふと思い立ち席をたちます。

小百合かか様が付いてこようとするのを手で制して、私は祝宴から離れ、自室に向かいます。


自室に入り、文机の隣に置いてある少し大きな箱を持ち、祝宴の場に戻ります。


戻ってきた私を、皆が温かく迎えてくれます。

私は、巴母様の前に箱を置きます。

「大姫…これは?」

巴母様が私に尋ねます。私は、箱の蓋を外します。

中には、小さな半纏と手袋、それに帽子が入っています。

「あぁ…これは、巴様が姫様に初めて贈られたものですね」

小百合かか様が懐かしそうに言います。

「この後、姫様の成長にあわせて巴様は、半纏と手袋、帽子を贈られてきました。姫様が五つの頃でしたか…もうこれは使わないだろうと蔵にしまったのです」

小百合かか様が箱から半纏等を取り出しながら話します。

「そうしたら…姫様が火のついたように泣くのです。『おばしゃまから頂いた半纏をどうしたのか?』と…私が『もう小さくて着れませんから』とお教えしても収まりませんでした。私は、根負けして蔵から出してきて姫様にお渡ししました。すると、ぴたりと泣き止んでぎゅっとこれを抱きしめていたのです」

小百合かか様は、私を見てくすっと笑います。


「大姫…ありがとう」

巴母様が私の頭を優しく撫でてくれます。

「しかし…最初の頃は、姫様が巴様に怯えてしかたなかったのですよ」

小百合かか様が、思い出したようにため息をつきます。

巴母様は、苦笑いを浮かべて

「姫が私の事を、小百合の陰に隠れて『こわいおばしゃん』なんて言うんだもの…さすがにあの時は落ち込んだわ」

と言いながら私を見ます。

「その後、『巴様は怖い方ではない』とお教えするのに苦労しました」

小百合かか様が、遠い目をしながら言います。

「私…巴母様にそんな事を言っていたのですか?」

私は、驚きながら小百合かか様と巴母様を見ます。二人ともくすっと笑いながら頷いています。


「姫には先見の明があったということだな」

兼平伯父上が、明るく笑います。

中原爺様や他の伯父上達も一斉に笑います。

「私や弟は、その恐ろしさを幼き頃から存じておりますし、今朝方も…」

義高兄様が、明るく言います。

「俺など、駒王丸の時分から知っているがな」

義仲父上も明るく笑います。

「そこまで言われるなら…久しぶりに組み打ちでもしましょうか?」

巴母様が、頬をひきつらせています。

「まあまあ…昔の事だ。我ら木曽が巴のおかげで、国は富み。民は飢えを知らず、東国・東海に覇を唱えられたのだ。感謝している」

義仲父上は、杯をおいて巴母様に礼を述べます。


「それにしても、姫と初めて対面してから早や十年か…」

義仲父上が、ぽつりと呟きます。

「あの時、義高は、八つ。義重は五つだったかな…義高など姫を見て、赤くなって照れてなぁ。義重は、ぼーっとしておった」

義仲父上は酒を一口飲むと、ちらりと義高兄様達を見ます。

「そ…そんな…照れてなど…ただ、あまりに愛くるしかったので…」

義高兄様がしどろもどろになりながら答えます。

「私とて、好きでぼーっとしていたわけでは」

義重兄様は少しおかんむりのようです。

「まぁ、兄妹仲良くしているのは、俺としても嬉しい。これからも助け合うのだぞ」

義仲父上が、兄様達や私の頭を順番に優しく撫でてくれます。


「姫は、幼い頃より本か好きじゃったな…」

中原の爺様が懐かしそうに言うと、婆様も頷きます。

「義仲様との対面が済んだ後、巴が姫を連れてきた。他の遊び道具には、目もくれず、千鶴の読む物語をじっと聞いておった」

「私が、文字の読み方を教えながら物語を読むといつもにこにこと笑いながら聞いていましたねぇ」

婆様が、爺様の話を継いで話します。

「姫は、諸国の話を聞くのも好きでな。いつも我らが戦などから帰ってくると、『叔父様、今回は何処まで行っていたのです?お話し聞かせて下さい』と、目を輝かせて尋ねてきたものよ」

兼行伯父上が笑いながら言います。


「聞いていて…恥ずかしいです」

私は、赤くなって俯きます。

「大姫…ここにいる皆、姫が健やかに育ってくれて嬉しいのです。恥ずかしがる事はありません。姫がいるだけで、皆が明るく笑っているでしょう?これこそ、姫の徳なのですよ」

巴母様が、優しく私に言います。私は顔を上げて頷きます。

私は、祝宴の場を見回します。

皆、笑顔で楽しそうです。

私は、この笑顔と楽しさをこれからもずっと護りたいと思うのでした。

「大姫…美しく優しい妹を持てて俺は、嬉しい」

義高兄様が、私の前に座ると突然、涙ぐみます。

「思えば…今まで何かにつけてここに来ていたな…一緒に遊び、泣き、笑い、叱られ…巴御前や小百合にも色々と迷惑をかけた」

義重兄様が、巴母様と小百合かか様に頭を下げています。

「いえ…こちらこそ、姫に何くれとなくお気を配って頂き感謝しています」

巴母様は、義高兄様達に丁寧にお礼をします。

「それにしても…ここで色々したなぁ」

義高兄様の言葉に私は頷いて、色々な思い出を蘇らせていきます。

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