西国の兵火
いよいよ、戦乱になります。
この段は源行家の長男、光家目線で書いています。
俺は、西国の国割が描かれた大きな紙を居室に広げて、双六の駒を国毎に置いていく。
我々の陣営は白。木曽方は黒。
「讃岐平家が、こちら側に付いたのは幸先がいい」
俺は、駒を置きながら呟く。
讃岐がこちら側に付いた事で、少なくとも四国方面を気にする必要がほぼ無くなったからだ。
平氏も一枚岩ではない…ということか。
「伊勢に睨みを効かせておかなければな…」
俺は、国境を表す線の上に紀伊側に白。伊勢側に黒の駒を置く。
「兄上、そうやって考えている姿が父上に似てきたな」
にやりとしながら、弟の行頼が部屋にやってくる。
「当たり前だ。親子だからな」
俺は、顔を上げて答える。
「段取りは整ったか?」
俺は、行頼に尋ねる。
「俺達新宮から三百。熊野が二百。すぐにでも」
行頼が答える。
「よし、では明日、兵を挙げる。行頼、兵を挙げたら京と比叡山、南都に使いを出せ。こちら側に三者を引き入れるためにな」
俺は、紙の上に駒を置きながら言う。
「承知した。味方は多いにこした事はないからな。だが、京や叡山は目を光らせてないと、不味いのではないか?」
行頼が疑問を口にする。
「各々に対して喋状を認めてある。京も叡山、南都もすぐには結論がでるまいが、今はそれでいい。牙をむかれるよりはな。揉めている間に京を押さえればいい」
俺は、行頼に答える。
翌日、俺と行頼は熊野三山の一つ。熊野速玉大社で挙兵の儀式を執り行う。
「今回の挙兵は、後白河院を弑逆した木曽義仲を追討するものである!大逆無道の賊徒を討つのだ。必ず勝てる!」
俺は、願文を神職に手渡し、参拝を済ませると郎党達に叫ぶように告げる。
郎党達から「おう!」と力強い返事がくる。
「では、これより熊野に向かい味方である熊野衆と合流。その後、河内、和泉と進んで京に向かう」
俺は、これからの計画を告げ、境内から出て馬に乗る。
青空に、源氏の白旗がよく映える。
熊野に着いた俺達を熊野別当が迎える。
かつて、源平の争いにおいて父・行家が口説き落としてから我々の重要な味方だ。
「別当殿、今回の助勢ありがたい」
俺と行頼は、別当殿の屋敷の一室で、頭を下げて感謝する。
『いやいや…熊野は亡き後白河院とも所縁が深い。院のお陰で我々も良い思いをした。恩返しよ」
別当殿が笑顔で答え、俺達の頭を上げさせる。
「で…この後の段取りなのだが」
俺は早速、別当殿と意見交換をする。
「ふむ…まぁ慌てる事はあるまい。聞けば行家殿は坂東で兵を挙げさせる手をうったのだろう?義仲は、その対応に追われるはず、すぐに上洛はできまい」
別当殿が近習に酒の用意を命じながら見通しを俺達に言う。
「その読みで間違いはないと思う。ならば、このまま進み、河内、和泉の緒勢力を飲み込み、足場を固めてから京へむかってはどうかと?」
俺は戦略を告げる。
別当殿が近習の用意した酒肴を俺達に勧め、頷く。
「そういえば、讃岐平家が我々に助勢するとか…」
別当殿が酒を口にしながら尋ねる。
「平知盛の子息、知章殿を誘った。讃岐と紀伊は目と鼻の先のようなもの。突然、後ろから襲われてはかなわないので」
俺も酒を飲み、肴をつまみながら答える。
「ふむ…では、こうしてみてはどうだ?摂津一国を与えておいて、後は軍功ににより好きな国を知行させると…そうすれば、平家の者達も必死に働くだろう」
別当殿がにやりと笑う。
「なるほど…摂津には福原がありますからな。平家は是非とも取り戻したいでしょう。後は、働きに応じて…」
俺も、別当殿を見ながらにやりと笑う。
「平家などという旧悪は、潰すに限る」
別当殿が酒を飲み干して大声で笑う。
平家を矢面に立たせて、我らは力を蓄える…別当殿も中々、腹黒い。
「では、これからの我々の前途と義挙の成功を祈って…」
俺は、杯を掲げて別当殿と一緒に飲み干す。
翌日、熊野の衆と一緒に河内に兵を進める。
河内は源氏の畿内における根拠地だが、主流派が坂東等に根を張るようになってからは非主流の者達が残るだけだ。
俺は、義仲が非主流になった者達を冷遇し、かつ粛清を狙っていると説いて彼らを味方にひきいれていく。
争うより、口説き落とす方が余計な時間を費やさずにすむからな…
少しずつ、だが確実に京は近づいている。
「さて…そろそろ、父上から何か指示が来るだろう。叡山、南都はどう出るか」
俺は、宿所にしているとある寺院の宿坊の一室で、西国の国割が描かれた絵図を広げ駒を置きながら呟く。
「ここまでは、読み通り…平家も動き始めた」
あと少しで…京か。
そんな事を思いながら俺は一人呟いた。




