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三島大社

私達は、巴母様の要請に従って、三島大社に留まります。

宿坊の一室で、私、巴母様、尼母様が集まります。

「こんな手段で、尻尾を出すのでしょうか?」

私は、巴母様に尋ねます。

「まず、大姫の出自を知っている人物は限られています。この私と義仲様、尼御前様…義経殿は、行家殿に知らされたわけですから省くとすると、残りは行家殿だけです」

巴母様が、白湯を口にします。

「尼御前様は、姫がどの様に暮らしているのか知りませんでした。知り得たとしても義仲様や私の心中を察して連絡を控えたでしょう」

巴母様の言葉に尼母様がゆっくり頷きます。

「なのに、ある日現れた山伏が姫に対して、情に訴える文を使って、伊豆まで姫を誘い出しました…そこで、私は行家殿が姫を使って何かしようとしていると思いました」

「何かとは…?」

私は、巴母様に尋ねます。

「姫の名を使って、坂東を乱す事です」

巴母様は、私を見ながらはっきりと言います。

「坂東を…乱す?」

私は首を傾げます。

「そうです。姫は亡き頼朝殿の遺児…その名を使い『敵討ち』とでも称すれば、かつて頼朝殿に与した武士や義仲様に勢力を削られたりした者たちが集まる。そこに、行家殿の弁舌が加われば…」

巴母様が、全てを読みきった口調で言います。

「なるほど…あの方の考えそうなですね」

尼母様がため息をつきます。

「ですが、これはあくまで私の推論に過ぎません…行家殿が本当にそんな事を考えているのか分かりません。ですから、白黒をはっきりしたいのです。行家殿が乱を起こす気でいるのかを…」

巴母様が僅かに寂しそうな表情を見せます。

「分かりました…」

私はそう答えて頷くのです。


数日後…

私と尼母様の元に人が訪ねてきます。

やはり、行家殿です。

私が尼母様と会えた事を、喜んでくれます。

「大伯父上は、どうやって私が伊豆に行き、尼母様に会っている事を知ったのですか?」

私は疑問を口にします。

「儂には、多くの山伏の仲間がいる。人の動き、天下の動きは全て分かる」

行家殿は自慢げに言います。

「そうですか…それにしてもおかしいですね?私は尼母様の居場所を知らなかったし、尼母様は私に今まで義仲父上や巴母様の心中を思って、文も出さずにいたのに…では、私に尼母様の居場所を教えにきた山伏は何者なのでしょう?」

私は、首を傾げます。

行家殿は、さぁ…と惚けた顔をします。

「姫の出自を知っているのは、ごく限られます。私や巴様、義仲様が姫に教えたのではないとすると…」

尼母様が行家殿をじっと見ます。

「いやぁ…要らぬ親切だったかな」

頭を掻きながら行家殿が笑います。

「姫と会わせて頂いた事には感謝しております」

尼母様が頭を下げます。

「いや良いのじゃ…ところで、一つ儂の頼みを聞いてくれんか?」

行家殿が笑顔を納めて、居住まいを正します。


「さて…頼みとは?」

尼母様が行家殿をじっと見ます。

「実は、力を貸して欲しい。『源氏の血統』を正すためにな。今、義仲が嫡流を名乗ってはいるが、本来ならば義朝・頼朝の血統でなければならん。しかも、義仲は伯父の儂を敬いもせず、『戦下手』と断じて冷遇しておる」

行家殿はむすっとした表情で私達を見ます。

尼母様は、ただ黙って聞いています。

「いずれ、政子殿も姫も手にかけよう…心配の種を除く為に。ならば、儂と共に起って情け知らずの木曽の山猿と後ろで糸を引いている女狐を退治しようではないか?」

行家殿が、身を乗り出して訴えます。

「しかし、姫も私も女の身…そう上手くいきますか?」

尼母様が、行家殿に尋ねます。

「下準備はできている。下野の足利、小山。武蔵の比企。常陸の佐竹に書状を出してある。すぐにでも挙兵するだろう。そこで、もう一押し、姫と政子殿が『頼朝の敵討ち』の為にと、伊豆や相模の武士達に書状を書いて欲しいのだ」

行家殿が自信たっぷりに言いながら、頼みます。

「それだけですか?坂東だけでは、義仲殿を追い詰められるとは思いませんが」

くすっと尼母様は笑います。


「その点も抜かりはない。西からも火が挙がる」

にやりと行家殿がします。

「そうですか…どうします?」

尼母様は、私を見ます。

「もう一度確かめますが…」

私は、行家殿を見ます。

「うむ…何でも聞いてくれ」

自信たっぷりに行家殿が言います。

「先程、山猿だの女狐だのという言葉が出ましたが、それは何の事です?」

「決まっている、義仲と巴の事だ」

行家殿がはっきりと答えます。

「では、私はその山猿と女狐に育てられた獣のような姫…という事ですか?」

私は、じっと行家殿を見ます。

「いやいや…肉親の伯父に対しての扱いや性格を言ったまで、姫に対して他意は無い」

行家殿は、笑いながら言います。

「私は、お二人に恩があります」

私は俯きます。

「そんな恩など、小さい事よ。敵を討ってこそ実父ちち頼朝への餞となる。あのような山猿や女狐など忘れてしまえ」

行家殿が私の肩を持って見つめてきます。


「行家殿…姫を離して下さい。もう一度聞きます。行家殿は、私達に行家殿に加担して義仲殿に弓を引け…と言われるのですね?」

尼母様が、ゆったりとした口調で尋ねます。

「うむ…山猿と女狐を滅ぼすには、お二人の力が是非とも必要なのだ」

はっきりと行家殿が答えます。

「だ、そうです。姫」

尼母様が私に頷きます。

バシッ!

私は、すっと立ち上がり右手を大きく振り上げて行家殿の頬を叩きます。

あまりの事に行家殿は呆然としています。

「よくも…私の大切な『木曽の父様・母様』を山猿だの女狐だのと蔑みましたね!」

私は、行家殿を睨み付け、見下ろします。

「何をする、小娘!」

行家殿が怒鳴ります。

「黙りなさい!私は源氏の長子『義朝の孫』『頼朝の子』として、源氏の和を乱す獅子身中の虫…源行家。貴方を追討します」

私は、はっきりと行家殿に告げます。

「ふふっ…やれるものならやってみよ。お前のような小娘がいくら呼び掛けようと誰も立たんわ」

行家殿が私を嘲るように言います。が、私はくすっと笑います。

「源行家…大切な事を忘れていませんか?私は『源氏嫡流』の姫でもあるのですよ?そうですよね?巴母様」

私は、部屋の戸に向かって声をかけます。


「その通りです」

「当たり前の事を聞くな」

すっと、戸が開いて巴母様が現れ、その後ろから義仲父様までも現れます。

「義仲父様、どうしてここに?」

私は、驚いて義仲父様を見ます。

「まぁ、その話は後だ…話は全て聞いた。源行家、もう伯父甥でもなんでもない。『源氏の長子の血を受け継いだ嫡流の姫』である俺の娘の願いだ。行家、お前を追討する!」

義仲父様が、睨み付けるようにして宣言します。

「今、ここでお前を討ってもいいんだかな。さっさと新宮に帰ってあれこれ手を打つがいい。お前がどれほど『戦下手』か思い知らせてから潰すとしよう」

義仲父様が、行家殿を冷たい目で見下ろします。

「ふん…その前に坂東で身動きが取れまいよ。その間に儂はみやこを押さえ、逆にお主を追討してやるわ」

行家殿は、鼻を鳴らしながら立ち去ります。


「姫…行家に啖呵を切るとは、やはり『源氏の血』だな」

義仲父様が、私に微笑みながら冷やかします。

「そんな…私は、あの人が許せなかっただけです」

私は恥ずかしくなって、俯きますが、話題を変えるべく父様に、尼母様を紹介します。

義仲父様は、少し硬い表情を浮かべながら尼母様の前に座ります。

少し場が冷たく感じたのは気のせいでしょうか…


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