暗躍 4
おまたせしました。本編再開です。
伊豆に入る前、駿河のとある荒れ寺で、配下の山伏達と合流する。
「坂東の様子はどうじゃ?」
儂の問いに、山伏達は順々に答えていく。
「武藏は、比企が…」
「下野は、足利と小山が…」
「常陸で、佐竹が…」
ふむ…、結局、山猿に叩かれた者達か。あとは、南で火が上がれば山猿を叩けるな。
「それから…これはまだ噂の段階なのですが」
山伏の一人が儂に言う。
儂は、先を話すように促す。
「上総介が兵を集めはじめていると…」
ほう…やはり源氏の下になりたくないか…これは、使えるかもしれんな。
「よし、儂の文を持って行け。山猿討伐の暁には上総一国を任すと伝えよ」
上総、常陸、下野、武蔵…ふむ、山猿を叩く包囲網ができるか。
儂は、笈から筆を取りだし書状を認める。
「さて…『姫』はどうしている?」
儂は、別の文を認めながら尋ねる。
瞬間、山伏達の顔が曇る。
「何かあったのか?まさか、死なせたのではあるまいな?」
儂は、皆を睨み付ける。
『姫』がいなければ、東国での挙兵に齟齬をきたす恐れがある。
実は…と、山伏の一人が儂に結果を話す。
『姫』は、何者かに連れ去られた後、『産みの母』の北条政子の元に転がり込んだらしい。
頼朝の『正室』と『娘』が一緒なのは好都合だが、一体誰が、儂の手から『姫』を奪ったのか?
「それで『姫』達は今どこに居る?」
儂は山伏達を見回す。
「三島大社に滞在しているようです」
山伏の一人が答える。
「ふむ…では、儂の文を持って足利、比企らの元へ走れ。すぐにでも兵をあげろとな。三島から『姫』は、信濃に帰るはず…また襲ってはまずいかもしれん。監視だけしておけ。儂は、西の報せが来てから三島に向かう」
儂は、これからの段取りを皆に伝えて旅装を解いた。
「『姫』は三島に滞在したままか?」
山伏の報告を受けて儂は呟く。報告にきた山伏が頷く。
儂は少し考える。『姫』はすぐにでも信濃に帰ると思っていたからだ。
「あるいは…どちらかが体調を崩したか?」
儂は、またぽつりと呟く。ありえる事だ…信濃から出たことのない姫が伊豆まで来たのだ。疲れと張り詰めていた糸がきれたのだろう。
そんな事を考えていると、一人の山伏がやってくる。
「光家様、行頼様より…」
そう言って、笈から書状を取り出す。
儂は、書状に目を通す。
「ふむ…讃岐平家の一部が合流したようじゃ。知盛や教盛らの子供や郎党どもらしいが」
儂は、笑みを漏らしながら言う。
「よし…光家に伝えろ。京に使者を立て、叡山と朝廷を揺さぶれと。急げよ」
儂は、山伏に命じる。山伏は、一礼するとすぐに立ち去る。
「さて…西も動いた。あとは、『三島』か…」
儂は、一人呟く。
恐らく、坂東で兵火が上がるだろう。
範頼も姫も儂の傀儡にしてしまえば良い。
ふふっ、かつての後白河院のように…儂が事実上源氏を取り仕切る。それが、今は亡き兄達にできる儂の『復讐』…
父為義の末っ子として産まれた儂は、誰にも相手にされなかった。皆、幼かった儂の事など目もくれなかった。儂はそれが悔しい。挙げ句、甥達にも『戦下手』と思われるようになった。だからこそこうして見返してやろうとこの計画を立てた。まぁ、頼朝が義仲に倒され、平家も分裂したのは計算外だったが…あの頃、もう少し乱が続いていれば、儂は熊野から畿内に勢力をのばせたのだが…
まぁ、いい。恐らく女狐は信濃で床に臥せたままだろう。しっかりと心を折ってやったからな…ましてや、『姫』が女狐の元におらんのだからな。
山猿だけなら、儂の口でどうとでもできる。
翌日、儂は『三島大社』に向けて歩き出す。
儂の思い通りに世が動く…なんと気持ちの良い事だろう。
儂の足取りは、軽い。
「義仲の後は、義経か…京育ちなら御しやすいわ」
儂は明るく青い空を見上げて呟く。




