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【幕間】『政子』と『巴』

この段は、政子視点です。

「姫…少し巴様と話があります。二人きりにしてくれませんか?」

私は、姫にそう告げます。

姫は、少し怪訝な顔をしますが頷いて、もう一度、温泉に入ってきますと答えて、皆を連れて部屋を出ていきます。

私は、巴様の隣に向き合って座り直します。

「巴様、大姫を立派に健やかに育てて頂いた事、改めてお礼申します」

私は、丁寧に頭を下げます。

「いえ…私の方こそ、政子様に辛い思いをさせてしまいました。我が子と生き別れになるのは、生木なまぎを裂かれるような思いとか…本当に申し訳ありませんでした」

巴様が潤んだ目で私に謝ります。

「平家追討が成った後、おそらく頼朝様と義仲様の争いになったでしょう…同族相争うは、源氏の宿命。それが、少し早まり…義仲様に天が味方した結果です。一つ歯車が狂えば…立場が逆になり、こうして巴様とお会いする事もなかったでしょう」

私は、巴様に諭すように言います。


「ところで…姫には『想い人』はいないのですか?先程の感じではいるような…」

私は、巴様に聞いてみます。

「姫の周りにいる異性は、主に義高殿と義重殿ですから…ただ、三人は兄妹のように育ちましたので…」

巴様が答えます。

「義高殿、義重殿…いずれも姫にふさわしいと思うのですが」

「幼い頃より、私や義仲様、木曽の自然にも鍛えられていますから、私としても姫の相手はいずれかになって欲しいです」

私と巴様の意見は、『義高殿・義重殿のいずれかに嫁がせたい』という点で同じです。

「今しばらく、様子を見ませんか?」

巴様が微笑みながら言います。

「そうですね…私達の大切な『娘』ですから。恋も姫の思うままさせてあげたいですね」

私も、巴様に微笑みます。


「それよりも…政子様と姫の力を借りなければならない事が…」

巴様が真剣な表情に変わって私に言います。

「さて…何でしょうか?私にできる事など最早ないと思いますが…」

私は、巴様を首を傾げながら見ます。

「実は、大姫に出自を話したのは私や義仲様ではないのです」

「えっ!では一体誰が…この事を知っているのは限られてくるはずです」

私は、巴様の言葉に驚きます。

「新宮十郎行家殿です」

巴様がため息をつきながら言います。

「なるほど…実を言えば、頼朝様も私の父義政も彼を嫌っていました。頼朝様に令旨を届けに来たまではよかったのですが…それからというもの、頼朝様の叔父だというだけで、私の実家にもあれこれと指図はしますし、頼朝様にまで…」

私は思い出したくも無いといった感じで、巴様に言います。

「そこで、行家殿という『むじな』を退治しようと思うのです」

「行家殿を討つのですか?!」

私は、巴様を驚いた表情で見つめます。

「こちらからは、手を挙げません…そのような事をすれば頼朝様の異母弟おとうとの範頼殿や義経殿に疑心を抱かせてしまいます…ですから、向こうから手を挙げさせます」

巴様が私を見ながら落ち着いた口調で言います。


「恐らく…行家殿は、『義朝殿の血筋』に拘るでしょう。でなければ、姫に出自を話したりはしません。範頼殿、義経殿をまとめる『旗頭』として…」

「つまり、姫を飾りとして祭り上げ、範頼殿、義経殿を味方につけて…義仲殿を?」

巴様の言葉に続いて私が言った事を巴様は頷きながら聞いています。

「それで…私にどうしろと?」

私は、巴様に尋ねます。

「姫の母親として、頼朝殿の『正室』として…行家殿の策に乗った振りをして頂きたいのです」

巴様が私に頭を下げます。

「義仲様は、行家殿を討つ『大義名分』が欲しいのですね?分かりました。同族争いは、私達の代で終わらせなければなりません。ですが…」

私は、少し表情を曇らせます。

巴様が、心配そうに私を見ます。

「姫に辛い役目をさせてしまうかと…」

私はぽつりと言います。

「心配いりません。姫は家族想いの優しいです。私達『木曽の家族』を傷つけた行家殿に、内心怒っているでしょう」

巴様は、にっこりと笑います。


この後、巴様と私は姫を呼んで三人で話し、私は伊豆での行家殿の行いを話します。

「巴母様や『木曽の人々』を傷つけたのです…ましてや、頼朝父上や北条の爺様に対しての振る舞い…許せません」

大人しいと思っていた姫が、怒っています。

「全ては、三島大社で…」

巴様は、私達に言います。

「三島大社…頼朝様も篤く信仰されていました。きっと頼朝様と三島の神様が姫を護ってくれます」

私は、姫に告げます。姫も力強く頷きます。


「では…姫、数日の別れですが、我が儘を言って巴様を困らせてはなりませんよ?」

私は、にっこりと笑います。

「私は、もう『大人』です。子供の様に我が儘など言いません」

姫が頬を膨らませます。

「ふふっ、ここに来る前に我が儘を言ったのは誰でしたか?」

巴様がくすっと笑いながら姫を見ます。

姫は、膨らませていた頬を萎ませると、今度は俯いてしまいます。

私は、姫の頭を優しく撫で、巴様に会釈をした後、正礼院と共に宿を後にして、庵へと帰ったのでした。






次回から本編を再開します。

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