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救出

私は、気がつくと粗末な庵の一角に横になっていた。

どうやら縛られたりはしていないらしい。

隣には、皐月が横になっている。

「皐月…大丈夫ですか?」

私は、小声で言う。

皐月は、私の方へ体を向けるとゆっくりと頷く。

私は、ほっとして体を起こす。

「お目覚めかな?」

にやにやした顔の山伏が私を見る。

私は彼を睨みつける。

「別に、二人をどうこうしようとは思わん。だが、女の足で俺達から逃げられるとは思わないことだ」

すっとがっしりした体格の山伏が立ち上がって私に言う。

「なぜ、私達を狙ったのです?」

私は、立ち上がった山伏を睨みながら尋ねる。

「これが仕事だからだ。一切危害を加えてはならんとも言われている。あのお方に、引き渡す前に死なれてはかなわんからな…毒なと入っておらんよ。まぁ…美味いとはいえんが…」

山伏は無表情のまま、私達に食事を差し出す。

狭い板間に、四人の山伏と私達がいる。

多分、他にもいるのだろう。

とりあえず、危害を加えないという山伏の言葉を信じてみる。

実際、私と皐月に食事を差し出した後は、まるで私達を無視するかのようなそぶりを見せている。


あまり美味しくない食事を終えると、私と皐月は外に出された。

「あのお方に引き渡すまでは、自由にしていていい。だが、逃げられると思うな…事実、常に誰かが見張っている」

食事を用意してくれた山伏が私達に言う。

おそらくこの山伏が言っている事は真実なのだろう。それに私達の足で逃げる事もできないだろうし、第一ここがどこかも分からない。

私と皐月はゆっくりと頷きあう。危害を加えられず、食事やある程度の自由が保証されているのであれば、素直に従おうと…むしろ、下手に逆らった方が危険だと…


朝と夜に食事があり、昼間は許可された外で時間を潰す。

夜、眠る前に体を拭けとぬるま湯と布を用意してくれた。

そんなある意味、規則正しい生活が数日続いた。


ある日の夜…

外の騒がしさに目を覚ました私と皐月は、起き上がる。

「大姫!どこです?返事をなさい!」

懐かしい巴様の声がします。

「大姫!どこだ?」

義高様と義重様の声もします。

私は、夢かと思い自分の頬をつねります。

痛さが伝わってきます。

「巴母様!」

私は、あらんかぎりの声で叫びます。

「姫!無事か?皐月は?」

義高様が、私に聞いてきます。

「二人とも無事です!義高兄様!」

私は、また叫びます。もう行家殿に植え付けられた『木曽の人々は他人』という感情など、どうでもよくなっています。

「もう、大丈夫だ…」

月明かりが差し込む板間に義高兄様の懐かしい声が響きます。

義高にい様」

私は、月明かりで見えた男性ひとに抱きつき泣いてしまいます。

「義高殿…私の本気の姿を姫と皐月に見せてはなりません!」

「兄上、姫と皐月を頼む」

巴母様と義重兄様の声が響きます。

義高兄様は、私達を抱き締め視界を遮ります。

私の耳に、おそらく山伏達であろう男性の苦痛に満ちた叫び声が届きます。


暫くすると、外は静かになりました。

皐月が月明かりを頼りに板間に明かりをつけてくれます。

「義高兄様…」

私は、ぽつりと呟きます。

「姫…」

義高兄様が、私を見つめますが、やおら兄様の手が私の頬を引っ張ります。それも思いきり…

「痛い…」

私は呟きます。

義重兄様もやって来ます。私はお礼を言おうとしたのですが、それより先に拳骨が降ってきました。

「痛い…」

私は、頬と頭の両方の痛みに耐えなければなりませんでした。

「大姫…」

巴母様が私の前にやってきます。

私は咄嗟に膝を折って謝ります。

「ごめんなさい…」

その言葉しか出ませんでした。

巴母様が私と目線を合わせるように屈むと私を抱きしめます。

「よかった…無事で」

優しい声で巴母様は言います。


翌日、庵で仮眠を取った私達は、庵を後にします。

私は義高兄様の馬に、皐月は義重兄様の馬に各々乗せられました。

「これに懲りたら、二人旅など信濃だけにしておくんだぞ」

義重兄様が馬を操りながら言います。

私は、恥ずかしくなって俯きます。

「まぁ、そう言うな。今回の旅で姫もよい経験をしたのだから」

義高兄様が、くすっと笑います。

「ところで、どうして私達が居るところが分かったのですか?」

皐月が巴母様に尋ねます。

「実を言うと、松本を出てから駿河の国府迄は姫達は護られていたのですよ」

そう前置きしてから、巴母様は話し始める。

「おぼえていませんか?甲斐国府迄の旅芸人一座と、駿河国府までの隊商を…あれは、私達信濃の誇る『裏天神』と『草』達なのです。ですが、ちょっとした行き違いで駿河から伊豆に向かう姫の護衛をする組が遅れてしまって…あとは、総力を挙げて姫達を探していたというわけです」

「そうだったのですか…やはり、私は巴母様達に護られてしか何もできないのですね…」

私は、ふと寂しい気持ちになる。

「いいえ…姫。ちゃんと歩いたでしょう?皐月と二人で。少しずつでいいのですよ?背伸びも大切ですが、無理をしたら疲れてしまいます。だから悔やむ事はありません」

巴母様が、馬を寄せて私を撫でてくれます。

「さぁ、大姫。前を向いて」

義高兄様が、優しく言ってくれます。

「大姫…あの庵に、姫の『産みの母様』がいます。会っていらっしゃい」

巴母様が指を指します。

「あの…巴母様。母様も一緒に会っていただけませんか?きちんと紹介したいのです。私の口から…『産みの母様』に私をここ迄育ててくれた立派な『母様』だと」

私は、巴母様をじっと見ながらいいます。

巴母様は、少し馬を歩ませて考えた後、ゆっくりと頷いてくれます。


もうすぐ、逢えるのです…『産みの母様』と。そして、きちんと二人の母様にお礼を言うのです。

『私を産み、育ててくれた事』を…





次回、対面になります。

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