暗躍 3
儂は、新宮に帰る前に、京に寄る。
恐らく、平家はあてになるまい。
棟梁の維盛は、御しやすそうじゃが、重盛が健在じゃからな…。
思えば、『平清盛』という統率力、求心力に優れた人物がいたからこそ、平家は一つにまとまり、あそこまで栄華を極めたのかもしれん。
その頃の儂ら『源氏』は、骨肉の争いに明け暮れておったな…
まぁ、済んだ事を愚痴っても仕方ない。
山猿の許し無く、京に屋敷を持てば疑われるからな…
儂は、いつも京に滞在するときは、東寺に寄宿することにしている。
ここなら、殿上人や山伏がきても怪しまれまい。
「行家…、さる方からの下賜品じゃ。有り難く受けとれ」
僧坊の一室で、儂はとある殿上人と対面しておる。
その殿上人が、差し出したのは『鼓』という雅楽で使う楽器じゃた。
「その『鼓』はな…信濃の銘木を使っておる。今は太平の世。『鼓』を打って余生を過ごせ」
殿上人は、にやりと笑い立ち去る。
儂は、『鼓』をじっと見つめる。
なぜ、わざわざ楽器ごときを儂に下されたのか…儂が雅楽など嗜みとしていない事などお見通しのはずじゃ…
それに、楽器の材の事も…
しばらくして、儂ははたと膝を打つ。
「そうか…朝廷も一枚岩ではないか…」
儂はくつくつと笑い、『鼓』を抱えて部屋を出るとその足で、新宮へと帰っていく。
途中で、手の者と合流し情報を集める。
新宮に着いた儂は、山伏姿を解く。
下野に入った範頼の動きが鈍い…。山猿との仲を割く手が足りぬのかもしれん。
河内や摂津の源氏は、儂の流した噂が効果を見せている。
密かに、儂の手元に文がきている。
「父上…」
長男の光家、次男の行頼が部屋にやってくる。
「熊野はどうだ?」
儂は、光家に尋ねる。
「これまでの権利を保証すれば、味方することもやぶさかではないと…」
光家は答える。
「摂津、河内は?」
今度は行頼に尋ねる。
「こちらも…我等の流した噂により、いざとなれば味方すると…」
にやりと行頼が笑う。
「そうか…ならば我等の足元は固まったの…後は、東の動きだけじゃな」
儂は、そう言いながら息子達に下賜品の『鼓』を見せる。
「これを儂に渡した『物の怪』がな…」
儂は、京であった事を二人に告げる。
「なるほど…『信濃の鼓』を打てとは…『打て』は『討て』ですからな」
光家がくすっと笑う。
「東からの知らせが来たら、儂は仕上げに行く。儂が発ったら挙兵の準備をして整いしだい、兵を挙げて熊野から河内、和泉、摂津と進み、京へ向かえ」
儂は、息子達に指示を出す。
「その後は?」
行頼が尋ねる。
「京を抑えておけば、山猿もおいそれとは攻められまい…後は儂の指示を待て」
儂はそう言って近習に酒の用意をさせる。
「さて…今宵は親子水入らずで呑むか…前祝いかの」
儂の言葉に息子達が嬉しそうに頷く。
数日後…
儂の元に、待っていた知らせが届く。
「間違いなく…『姫』を手にしたのだな?」
儂は、知らせをもたらした山伏に確認する。
山伏はゆっくりと頷く。
範頼の動きが気になるが、まぁ儂が背中を押せば動くじゃろう。
儂は息子達を呼ぶ。
「儂は、これより東に向かう。かねての予定通り事を進めよ。じゃが、挙兵を山猿に気取られぬように、慎重にな」
儂の言葉に息子達は頷く。
儂は、逸る心を抑えながら支度を整える。
このように逸るのは、いつぶりだろうか…
「では…行ってくる」
儂は息子達にそう告げて東へと向かっていく。
今回も、伊勢に出て、船で遠江へそこから伊豆へという段取りだ。
「さぁ…山猿、女狐。勝負じゃ」
儂は、空を見上げながら呟いた。




