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暗躍 2

儂は、遠出をするときは、いつも山伏姿ときめておる。

今回は、新宮から伊勢に出て、船で三河に渡って、遠江から坂東を行く予定にしておる。

坂東もすっかり山猿に靡いてしまったようじゃが、昔を省みれば、何かしらの争乱はおこっておる。つまり兵火があがる下地を常に孕んでおる。


儂は、遠江に入ると、すぐに蒲御厨にある範頼の屋敷に転がり込む。

「叔父上、お久し振りです。こちらにはどういったご用で?」

範頼が近習に酒の用意を命じながら尋ねる。

「うむ…儂ももうよい年じゃからな。各国にある我ら源氏所縁の地でも訪ねて歩こうかと思ってなぁ」

儂は、昔を思い出す様な素振りをみせる。

「そうですか…ここは、私の生まれ育った所。ゆっくりして下さい」

範頼が人の良い笑顔を見せる。


「ところで…諸国を歩いておって、義仲の噂が芳しくないの」

儂は、範頼に酒を注ぎながら話す。

「はぁ…根も葉もない噂でございましょうが、一つ消えたらまた次と…義仲殿も頭の痛い事でしょう。義仲殿に従っている武士達も浮き足だっているようです」

範頼は、酒を口にしながらため息をつく。

「うむ…人の口に戸は立てられぬというからな」

儂は、そう答えながら内心北叟笑む。

「悪いことは続くらしく、あの巴御前が病に倒れたとか…」

「何!それはいかんな…範頼、折角、我ら源氏が作った泰平の世じゃ。ここは、義仲殿の力になってやらんか?」

儂は、少し驚いて見せた後、範頼に話し始める。

「それは、私に出来る事ならなんなりと」

範頼が儂に酒を注ぎながら答える。

「うむ。では、義仲にこう言うがいい。『私が下野に赴いて、かの地の武士を押さえます。奥州がいつ掌を返してくるか分からないので、監視も兼ねて』とな」

「私が、下野にですか?逆に義仲殿の疑心を呼ぶのでは?」

範頼が不安な顔をする。

「あの頃とは、状況が違う。下野で最大の力を持っていた小山は、今は力を削がれている。逆に足利が力をもっている。足利が義仲に背いたらどうする?上野は、義仲の父で儂の兄、義賢の地盤があった所だから良いとして…もし、足利の動きに亡き頼朝の支持武士だった比企らが息を吹き返せば…」」

儂は、範頼に詰め寄る。

範頼は、腕を組んで考える。

「それを、未然に防ぐ為に下野行きを申し出るのだ。坂東は数多の武士がおる。火の手が上がってからでは遅い!」

儂は、じっと範頼の目を見る。

ふむ…と、範頼が頷く。

「叔父上のご忠告、ありがたく。早速、義仲殿に申し上げてみましょう」

範頼は儂に酒を注ぐ。

「じゃが、義仲には儂の名を出すなよ?要らぬ知恵をつけたと痛くもない腹を探られるのは、ごめんじゃからな」

儂は、酒を飲み干して明るく笑う。


範頼が、義仲に使者を出したのを確認して、儂は範頼の館を発った。

さて…次は、相模と伊豆じゃな。先行している手の者達と、情報の擦り合わせをせねばな…


儂は、伊豆の三島に入ると、手の者を集める。

「範頼は、下野に行く。後は、伊豆、相模でな…」

儂は、手の者を見渡しながら言う。

「噂と偽文を流せ。伊豆、相模では、『密かに頼朝の遺児、大姫が実父ちちの仇を討ちたいが、女の身、遠く信濃にいるので果たせぬ…どうしたら良いかと悩んでいるとな』」

儂の言葉に、手の者が無言で頷く。

「それから、大姫宛に文を出せ…『伊豆に来い、母に育った姿を見せてくれとな』」

儂は、次々に指示をだしていく。

「後は、範頼じゃ…範頼が下野に入ったら、義仲との間を裂く、文を坂東や甲斐の武士どもに出しまくれ…そして、噂を徹底的に流し、義仲と範頼を反目させろ…多少時がかかっても構わん。伊豆に姫が来たら…捕らえよ。後の仕上げは儂がする」

儂は、冷たく言い放つ。

「相模、伊豆、武蔵の『頼朝派』だった武士どもにもう一つ、噂を流せ。『義仲が粛清の機会を狙っている』とな」

儂は、ニヤリとしながら言う。


坂東での段取りはついた。後は、西じゃな…

新宮に帰るか…

東の次は西だが、あの『物の怪』達の相手は疲れるが仕方ない。

儂の計画に必要だからな。


山猿・女狐…儂を舐めるなよ!





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