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探り合い(2)

「お願い事があるんだけど……それを、依頼という形で頼む事って出来るかしら?」

「依頼ですか」


リシアの代わりに、シラーが考え込むようなそぶりを見せた。


普通科の生徒に依頼を頼まれたという話は、今まで聞いたことが無い。シラーも同様なのだろう。


そもそも依頼は集会所や役場で承るものだとばかり思っていたリシアも、少し答えあぐねる。


「学苑を経由した形なら、問題は無いと思います」


歯切れ悪く、シラーは答える。


「ただ、同一の生徒からの依頼は一度までかもしれません」

「あー……自作自演の防止?」


セレスの言葉に、リシアはひやりとする。考えもつかなかったからだ。


知人に頼むなり偽名を使うなりして簡単な依頼を出し、それをすぐに受領すれば、依頼をこなしたという評価が加味される。これを何度も繰り返せば細々と素材を集めるよりも楽に点数を稼ぐことが出来るだろう。


だが真っ当ではないと思うし、少なくともリシアは納得することが出来ない。


「学苑側も行政側も、そこら辺は目を光らせているはずです」

「……当然と言えば当然だけど。でも、私の依頼はこれが初めてだし、特に問題は無いと思う」


シラーの言葉に暫し考えるようなそぶりを見せ、それでも諦めきれないようにセレスは呟いた。リシアに向き直り、溌剌と微笑む。


「実際に頼めるかは、まだわからないけど……花を見繕ってほしいの」

「花?」


リシアの脳裏に疑問符が咲き乱れる。


「日持ちがして、出来れば封筒や小包に収められるくらいの大きさの花を良いんだけど、中々思いつかなくて」

「それなら」


少し困り顔で、シラーは嗜めるように口を挟む。


「お抱えの庭師や花卉の業者に頼んだ方が良いのでは」

「迷宮の花がいいの。手紙にも書いたし」


目を輝かせながら、令嬢は自身の希望を述べる。ユリやバラなどの「普通の花」を贈るという選択肢はセレスの中では既にないのだろう。


一方、リシアは考え込む。以前のキノコ狩りを引きずっていることもあるが、そもそも「迷宮に咲く花」で、この令嬢のお眼鏡に叶いそうなものが思い浮かばない。スミレはすぐに萎れてしまうし、カマクビソウは独特な形状が万人受けはしない。いずれも魅力的な植物ではあるが……。


「どなたにお贈りするのですか」


シラーの質問に、途端に令嬢は目線を泳がせはにかむ。


「……夫。ジオードは中々迷宮に入る事が出来ないみたいだし」


セレスの返答を聞いて、シラーは目を細ませた。その様子を横目で見て、僅かに不穏なものをリシアは感じる。


しかしすぐにいつもの温和な雰囲気を取り戻したシラーは、後輩のいじましい姿を見て頰を緩ませた。


「なるほど、それで花を。確かに思い合う二人が贈る品としては定番ですね」


些か冗長な言葉を聞いて、セレスを目をそらす。赤く染まった上頰を見て、リシアは令嬢の傍若無人とも言える振る舞いに隠れた一面を垣間見た気がした。


「でもまずは、講師の判断を仰いだ方がいいでしょう。僕も生徒からの依頼というのは初めて聞いたので」


そう言って、シラーは迷宮科棟を指差す。


「講師室はわかりますか?」

「ええ。さっき立ち寄ったから」

「エリス・アンナベルグ先生がまだいらっしゃるはずです。その講師に聞いてみてください」


そこまで告げて、少し不安げに眉をひそめた。


「もし良ければ、僕がついて行きましょうか。エリス先生は少し……話しかけにくい方なので」

「あら、そんな人には見えなかったけど」


令嬢は首をかしげる。


既に講師と会っているようだ。アキラとリシアの関係について多言をしてくれていないと良いが。内心落ち着かない様子で、リシアは動向を見守る。


「さっきの男子生徒がその先生に呼ばれてるって、言ってなかったっけ」


それまでセレスとシラーの会話に興味が無いように立っていたアキラがそう呟いて、ついと視線を動かす。


「あの人」


思わずリシアは、アキラの視線の先へと目を向ける。


待ち人だ。何故か裏庭の方面から悠々とやって来た班員を見て、リシアは咄嗟に周囲の三人の反応を見る。


「また会ったわね」


セレスが肩をすくめる。アルフォスの事も知っている様子だ。いったい何処まで知っているのだろうか。アルフォスが班員である事も、しばらく共に迷宮にいけないとアキラに告げた事も知っているのなら……。


「あの、私。待ち合わせをしていて」


思わず、リシアは上ずった声をあげる。ただただ、この場から立ち去りたかった。


ちらりとアキラの方を見る。いつも通りの無表情と、夜色の瞳。その瞳をまともに見つめる事ができず、リシアはすぐに顔を背ける。


「それじゃ」


アルフォスの方へ足早に向かう。去り際に視界の隅で、アキラが何事か言いたげに唇を開き、すぐに真一文字に結んだ。


なんだろう。


一瞬リシアは足を止め、僅かに見返る。しかし既にセレスとシラーの会話が始まっており、アキラはそれに付き合っているようだった。


逆に取り残されたような寂しさを感じて、リシアは再び、三人に背を向けた。

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