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探り合い(1)

掲示板に貼られた「班員募集」の文字の前で、リシアは逡巡する。


既にアルフォスという班員はいる。だが、この貼り紙を剥がすのは……まだやめておいたほうが良いだろう。


昨日の事を思い出すと頭痛が酷くなる。どうもアルフォスには自分本位の行動が多い。


やはり、と言うべきか。入学から随分と日が経っているというのに、この時期に班に加入してくるということは一度別の班に加入してすぐに脱退している可能性が高い。どんな「理由」なのかはわからないが。


先日喫茶店で茶を飲んだ時に考えた事を再び思い返す。アルフォスもリシアと同じ境遇なのかもしれない。かつての班員に見捨てられて、班員募集の掲示を見ては落胆する。そんな日々を送っていたのではないのだろうか。


そう考えると、これまでの行いも少しは理解できる。彼には班活動の経験が僅かしか無い。各種課題の手順や班長への伝達など基本的な事が身についていないのだろう。


もっとも、経験が無いのはリシアも同じだ。お互い滑り出しが悪かったのだから、どうにか協力して遅れを取り戻さなければならない。


まずは、きちんと腹を割って話しをするべきだ。


昨夜寝る前に考えた、簡潔な基本事項の説明を反芻する。まず重要なのは、黙って依頼を受けない事……。


「リシア」


聞き覚えのある声に名を呼ばれ、リシアは思わず体を震わせる。辺りを見回すと、すぐ側に眉目秀麗な男子生徒が立っていた。彼の存在に気づいて、リシアは慌てふためく。


「シラー先輩。こ、こんにちは……」

「こんにちは。良かった、元気そうで」


少し心配そうに眉をひそめながら、第六班の班長は挨拶を返した。胸に右手を当て、優雅な礼をする。


「先日……君を助けに向かうことが出来なかった。本当にすまない」


あの、小迷宮での出来事だ。


謝罪の言葉を述べ、首を垂れたまま動かないシラーにどう声をかけるべきか、周囲の視線を気にしつつリシアは考える。


「だ、大丈夫です!今こうして生きていますし、それにシラー先輩達は全然悪くないですし……あの、取り敢えずお顔をあげてください!」


デーナもそうだが、シラーにはアキラやリシアを助ける道理は無いのだ。学苑に戻って報告するなり、回収屋に頼めば手を煩わせることもない。


それなのに、こうして謝罪をするということは、リシア達のことが余程心残りだったのだろう。


シラーの生真面目な部分を垣間見て、リシアは頬を赤く染める。何とか宥めすかして、シラーの面を上げさせた。


「私もアキラも無事ですから。本当に、お気になさらず」

「……ありがとう、リシア」


シラーはどこか儚げな微笑みを見せた。貴公子然とした顔を目にして、リシアはさらに上気し……その笑みがかつての親友にどことなく似ているような気がして、僅かに冷静さを取り戻した。


「お詫び、というのもなんだけど、何か困った事があったら遠慮無く言ってくれ。僕やデーナが力になるよ」


だが続いた言葉に、強張った表情がほぐれる。


力になる。なんと頼もしい言葉か。


「あ……ありがとうございます!」


勢いよくリシアは頭を下げる。慌ただしい下級生の姿を見てシラーは苦笑した。


「ところで、デーナから聞いたんだけど」


シラーは掲示板を一瞥する。貼り付けられたままの「班員募集」からリシアに目を向けて、心配そうに小さな声で囁いた。


「新しく、班員が入ったとか」

「はい。同級生のアルフォスという男子生徒が」

「アルフォスか」


一瞬、シラーの目に濁りが生じた。しかしすぐに、いつもの澄んだ碧眼に戻る。


「彼とはうまくやってる?」

「あ、ええ、まあ……」


目を逸らさないように、リシアは笑顔を作る。一瞬、シラーにアルフォスの事を相談してみようかという気も起きたが、シラーの背後から現れた人影に気付いて、言葉を飲み込んだ。


「リシア」


赤いジャージの少女は僅かに喜色を浮かべてリシアの名を呼び、リシアに向かい立つ男子生徒を見るなり口元を引き締めた。


「……こんにちは」

「やあ。また会ったね」


緊張感を帯びた口調のアキラと、いつもと変わらない朗らかな口調のシラー。二人は向き合い、暫し視線を交わす。


目を逸らしたのはシラーの方だった。アキラの隣に立つ令嬢に気付き、最敬礼をする。しかしすぐに取り繕ったように、頭を下げるだけの礼に変える。


「申し訳ありません。お嫌いでしたね、こういうのは」


はにかんだ微笑みを見て、令嬢は僅かにため息を漏らす。


「……いえ。構いませんわ、センパイ」


そう言って、自身もお辞儀をする。


「もしかして、待ち合わせをしていたのかな?」


シラーがリシアに向き直る。碧眼が細まり、


「また小迷宮に?それとも……これから先史遺物の『処理』とか」

「えっと」


シラーの言葉をかき消すような大きな声が響いた。一瞬リシアは周囲を見渡し、声の主がアキラだという事を確認する。


アキラの夜色の瞳がリシアを捉える。


いいの?


そう問うような瞳だった。


先史遺物の件について、この場で知れ渡っても良いのだろうか。その事を確認したいのだろう。


しかし、頷くことも出来ずにリシアは視線をキョロキョロと動かす。


「……待ち合わせはしていないのだけど、あなたの事を探していたの」


セレスが、シラーとリシアの間に立った。挙動不審な様子の女学生二人の事など意に介さず、リシアを見つめる。

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