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計画未満

 「奥ゆかしい」友人と普通科の少女のの背を見送り、マイカはため息をつく。また邪魔をされてしまった。もう少し説き伏せたら、リシアは了承してくれたはずなのに。


 リシアのかけていた長椅子に腰を下ろす。手を揃えて置き、項垂れる。やはり、あの少女が居ては、リシアは元の「リシア」には戻ってくれない。いつまでも迷宮に囚われたままだ。


 いつの間にか人がいなくなっていく迷宮科と違って、普通科に流動性はない。彼女が転校していくとも思えない。もう少し王妹が彼女に付きっきりでいてくれたらとも思うが、多忙な王妹には無理な話だろう。


 シラー班長が、もっと強引だったら。


 そんな事も頭をよぎる。班長の端正な姿にはマイカも時折惚れ惚れとしてしまう。しかしどうも、その魅力はアキラには効かないようなのだ。露骨に冷たくあしらわれているし。だから、多少班長が強引だったところでアキラは彼の誘いを袖にして、リシアに着いていくのだろう。


 では、リシアが班長に着いて行ったら。


 班長もそれを念頭に置いて行動している。ただの歯車としての彼女の加入。


 リシアを利用するなんて、酷すぎる。


 そうは思うが、これもリシアを迷宮から引き離す一つの手段だ。第六班に加入すれば、リシアはただの歯車……班員に成り下がる。班長に飼い殺しにされる。それはある意味、迷宮科の生徒としては自由になるということだ。更に今はスペサルティン卿の目もある。リシアは一層、冒険からは遠ざかる。


 そうなれば後は、歌に邁進するほかない。その後の支援などの問題は、リシアに思うところのある女公爵が行うだろう。彼女は意外に心優しく、身内に弱い。 

 まだ時間はある。きっと今季の選出までに間に合うはずだ。


 ふと、中庭の外へ目を向ける。件の班長と先輩方が通り過ぎていった。昼休みの打ち合わせ後に声をかけるのを忘れていたことを思い出して、立ち上がる。


 追いかけるか。


 いいや。先に不義理を行ってしまったのはマイカだ。今追いかけて謝っても、帰り際の駆け込みにしか思えないだろう。


 こちらはまた後日きちんと謝るとして、手土産を用意しよう。


 先回りをするのだ。


 昼休みのことを考えると、まだ日程は決まっていないはずだ。今のうちに、女公爵に班活動の説明と、マイカの「計画」を話してしまえばいい。


 だが、今紅榴宮やスペサルティン邸を訪れても、文字通り門前払いだろう。何か、理由がなければ。


 今日中は無理だろうとマイカは落胆する。だが同時に、一つ案を思いついた。


 訪れるのではなく、招けばいい。


 歌姫候補の都合に、ほんの少し乗じるのだ。リシアの歌を聞かせる場に女公爵を招く。そして改めて、彼女からもリシアに道を正すように説き伏せてもらう。


 これなら、誰もが認めざるを得ない。他でもないリシア自身も。


 リシアには、この道しかない。


 そうと決まれば、リシアをどうにかして「その場」に連れて行かなければならない。


 どうすればいい?

 どう頼めばいい?

 誰を通せばいい?


 普通科棟を見据える。


 リシアに声をかけるだけではダメだ。協力が、必要なのかもしれない。


 中庭を出て、普通科棟へ向かう。


 鍵盤琴の音色が降り注ぐ階段下で、協力者を見つける。


「今、お時間大丈夫ですか?」


 歌姫候補の護衛として、マイカと同じく難題を仰せつかっている衛兵に声をかける。顰めっ面の衛兵はマイカを見下ろし、眉間の皺をより深く寄せた。


「雑談に使う時間はない」

「お昼休み中の、アルミナ様のお願いについてお話をしたくて」

「どうした。相手が捕まらないのか」


 鼻で笑う衛兵に、言い訳も出ない。一応、その通りだ。


「すぐに逃げられてしまいますから」

「幼馴染が聞いて呆れる」

「貴方は、どのようにお声かけするおつもりで」

「役所の受付の者に頼む。迷宮科なら、近日中に向かうだろう」


 目を丸くする。


 少し意外な回答だったからだ。


「顔見知りではあるから声もかけやすいし、エメリー様にも繋ぎやすいだろう」

「直接お声かけはしないのですね」

「同じ轍は踏まん」


 首を傾げる。途端、衛兵は失言でもしたかのように口元を手で覆った。


 リシアに降りかかった、諸々の事件のことを思い出す。


 気をつけるだけ、反省するだけこの衛兵はマシかもしれない。


「いい手段だと思います」

「正直なところ、関わってほしくない」


 続いた言葉に、どう返すか迷う。


 冷たく衛兵はマイカを睨みつけた。


「何を考えているかは知らんが、ここの令嬢を利用しようとするな」


 そう告げて、上階を見上げる。


 突然のことにマイカは立ち尽くし、困ったような笑顔を浮かべる。


「そんな、利用だなんて」


 それきり衛兵は、目を向けることも言葉を返すこともなかった。


 間違えてしまったと、マイカは猛省した。

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