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活動報告

「スペサルティン卿にお話を伺いに行きたいと思っています」


 かしこまった様子で、マイカはシラーに告げた。定例の班活動報告で唐突にそう告げられ、シラーはほんの一瞬目を丸くする。


 それ以上に驚いたのであろうゾーイは、無表情のまま天を仰いでいる。


 一応口止めはしといたんだろうな。


 同輩の姿を見て、シラーは同情する。


「世間話ではないだろう?」


 念の為確認する。ゾーイに聞いたつもりだったが、先にマイカが口を開いた。


「はい。班活動のこれからを、ご説明に向かいたいと思います」

「それはゾーイや、僕でも出来るんじゃないかな。こういうのは代表が挨拶に伺うのが筋だと思うし」

「では、私も同席させていただけませんか」


 マイカは小首を傾げる。隣にかける男子の班員が、ぽかんとした顔で聖女の顔を見上げている。話なんかかけらも頭に入っていなさそうな顔だ。彼はしばらく採集組のままでいいだろう。


「同席は構わないよ。班の話だけをするのなら」


 釘を刺す。もっとも、彼女は自分が刺されたとも思っていないかもしれないけど。


 ゾーイの報告で、彼女の執心がどこに向いているのかは知っている。だからこそ、あまりスペサルティン卿には近づけたくない。女公爵が真に関心を持っているのは第六班ではないと、シラー自身わかっているからだ。


「この日程については後で三人で決めよう。次は各係の進捗を聞こうか」


 話を変える。マイカは不機嫌そうな顔をするわけでもなく、言い切ったような表情で席に着いた。後先考えない聖女だな、と内心毒付く。


 マイカをどう片付けるかも、そろそろ考えなくてはならない。採集組に置くには影響力が強すぎる。いつぞやの同輩のように、丸め込まれておかしな行動を取らされては困る。かといって側に置くのも、これまでの苦労を考えると遠慮したい。ゾーイをこれ以上弱らせるのは気の毒だ。


 もっとも、今すぐという話ではない。


 あの普通科の少女を巻き込んだ後だ。


「最近は迷宮科におかしな人目もあるし、動きづらいね」


 世間話のようにシラーは呟く。そこかしこで同意と不満が噴出した。


「いくら王府肝入りの事業と言ってもね」

「私達迷宮科が頑張ってるから、あの駅も占有できてるんでしょ?」


 占有と言うには力不足だが、駅の掌握に学苑が噛んでいるのは事実だ。迷宮科の生徒を優先的に使うことで、外部の冒険者を寄せ付けないようにしている。


 その一方で、冷遇する。これは王府というより、他の「貴石」達の意向なのだけれど。最近は衛兵も絡んでいるようで厄介なことこの上ない。


 衛兵は冒険者を、ひいては迷宮科を警戒している。自身の業務を奪われると考えているようだ。そこは適材適所、迷宮では存分に迷宮科を活用してくれとシラーも考えている。一方で街中の業務をやる気は無い。それだけの話だとは思うのだが。


「遠征については……随分と待たせている。申し訳ない」

「いいえ。班長が悪いわけではありませんよ」

「エリスせんせが首を縦に振らないだけですよ」


 目下の課題である遠征についても、今のところは不満は出ていないように見える。もっとも、班員のほとんどは遠征なんて本心では行きたくないのだろう。


 実のところ、彼らは将来を悲観してはいないのだとシラーは思っている。迷宮科に投げ込まれても、家が傾きかけても、いつかは理由もなく状況が好転すると思っている。そう思う彼らに王が用意した最終処理場が、この迷宮科なのに。


 そんな場所で、シラーが使い潰しても何ら問題はない。


 そう思って班を運営してきている。


「さて。食事の時間がなくなってしまう。そろそろ解散しようか」


 ゾーイに目配せをする。殆どの班員がその場に留まり軽食を持ち出す中、同輩と副班長が近寄る。


「ほんとに、スペサルティン卿に会いに行くのか」

「いつかは話したいと思っていたし。僕の口から言わないと、正確なところは伝わらないだろう」

「力不足ですまん」


 珍しく気落ちした様子のゾーイの肩を叩く。


「苦労は察する。ただ、こうやってスペサルティン卿にお目通り叶ったのは君とマイカの功績だ」


 問題は、マイカはその功績を「班」のために使う気は一切無いところだ。


「今後も監視を頼むよ」


 そう告げると、ゾーイは心底不満げな顔をした。こんな顔をするのも珍しい。決して笑いはしないのだが。


「マイカを呼んで、日取りを決めよう」


 席に着いているはずの聖女を探す。


 どこにもいない。


「おや」

「腹減ってたのか?」


 呑気にそう言うデーナの隣で憮然とする。一言もなく出て行くとは。それも、自身が言い出したことなのに。


「日取りだけ決めて、後で伝えよう」

「それが良さそうだ」


 ゾーイの提案を聞いて肩をすくめる。


 そして、念のため尋ねた。


「どこに行っていると思う?」

「普通科じゃないかな。最近転入してきた子に執着している」

「ああ」


 問題を起こさないでほしいが。


 流石に王妹の縁者に喧嘩を売るのは、降りかかる火の粉も大きすぎる。


「やっぱりというか、リシアの関係だ」


 ゾーイは付け加える。


「マイカは、リシアをもう一度歌姫にしたいんじゃないか」


 は、と鼻で笑う。


「彼女に何の利点が」

「さあ。聖女様の考えることはわからん」


 確かに、彼女の考えはシラーにもわからない。誰よりも不気味な振る舞いを見せる聖女を思い、シラーは歪む口元を覆った。

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