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 程なく、アムネリスが戻ってきた。


 その後に着いてきたセリアンスロープの姿を見て、リシアは目を見開く。向こうもまた気まずげに笠の縁を下げた。


「抜けたのは二人でしょう?一人足りないと思って」


 しれっとアムネリスは告げる。勝手に連れてきてもよかったのか、と心配するリシアの心中を察したのかウゴウは口を開いた。


「碩学院に話はした」

「暇していたものね」

「ふん」


 鼻を鳴らし、片手を差し出す。


「よろしくお願いします」

「は、はい。よろしくお願いします」


 道中、よく上手く隠れていたものだ。これもまたまやかしの為せる技なのだろう。感心しながら手を握る。


「ずっと居たんですよね……?」

「ああ。もっとも、連れの子には早々に見破られていたようだが」


 次はアキラへと手を差し出す。軽く会釈をして二人は握手を交わした。


 まやかしが効きにくいアキラには、ウゴウの動向もよくわかっていたのだろうか。


「そうなの?」

「いるのは分かってたけど、ケインさんとの事もあるから」


 少し言葉を選ぶように、アキラは尋ねる。


「あの、ケインさんと配置一緒でしたよね」

「渡りに船でしょう?気まずそうだったもの」

「そこまで大人気なくは」


 小言を飲み込み、ウゴウは女冒険者の元に向かう。大きな尻尾に隠れて二人のやり取りはよく見えなかった。


「私ほどじゃないけど、ウゴウも荒事は得意なの。安心してね」


 耳元でアムネリスが囁く。その辺りの心配も無かったと言えば嘘になるが、本題はそこではない。


「何か、気になりましたか。彼女」


 小声で問うと、複眼が睨め付けるように光を帯びた。


「貴女はまた別方向に聡いのねえ」


 口端が裂ける。


「前線でずっと一人なんて、普通じゃないわ」


 率直な言葉にぎょっとして、アニュイの方を窺う。まだセリアンスロープと挨拶をしているのか、こちらを気にする様子は見られなかった。


「一人で生きていけるほど迷宮は甘くない。でも、時々彼女みたいなヒトがいる」


 最初から一人というわけじゃないのよ。


 フェアリーの囁きの意味を考える。一人になってしまった、ということか。


 無論、理由の想像が付かないほど察しが悪いわけではない。そしてその理由も、所詮「きっかけ」に過ぎないということもわかる。


 アニュイには、独りでいる事への焦りが見受けられないのだ。発端がどうであれ、今の彼女は望んで現在の状況にいる。


「何かおかしな動きがあったら、すぐに言って」


 ただ頷く。隣のアキラを見上げると、どこか神妙な様子で同じように頷いた。


 腑に落ちていない。


 そんな気がした。


 笛の音が響く。


「最終確認を行う。人が回るので、配置場所で待機」


 遠くでシルトがそう告げた。左翼にあてられた五人が、それとなく距離を詰める。


「抜けた奴は他にもいるみたいだ」


 ウゴウが呟く。低い唸りが混じった言葉に、アムネリスは肩をすくめた。


「最近はそんな冒険者ばかりね。昔はもう少し……」

「昔」


 思わず声に出してしまったリシアにフェアリーは笑いかける。


「ふふ、昔話、聞きたい?そうねえ、折角だからケインのお話とか」

「やめておけ」


 払うように小手を振る。先程の唸りとは打って変わってため息混じりの声だった。


「聞いてもつまらないだろう」


 指の合間に光る銀細工を注視する。


 正直聞きたい。


「左翼担当は」


 そんな会話をしているうちに、学徒が確認に訪れた。窪んだ眼窩の奥で視線が忙しなく動く。碩学院の学徒はリシア達とは違って、ちゃんとした部屋の寝台で眠れていると思っていたがそうでもないのだろうか。


 名も知らない学徒の体調を不安視するリシアに視線が向けられる。


「学苑四十二班は君達か」

「はい」

「二人、ね。それと夜干舎からも二人」

「私達です」

「ん。夜干舎は二つあるようだが」

「こちらの方です」


 学徒が手にした書類の一部をウゴウは指し示す。生返事をして学徒はアニュイに目を向けた。


「君は個人ね」

「はい」


 書類の空いた部分に何事か走り書きを残し、次の持ち場へと向かう。その後ろ姿をリシアは目で追う。


「あの人、眠れなかったのかな」

「碩学院の学徒って結構多忙よ。夜なべして報告書作ってたんじゃないかしら」


 フェアリーは小首を傾げながら告げる。


「心労もあるのでしょうけど」


 そういえば、遅れてやってきた数学科の一団の中に彼の姿があった。


 嫌な符合にリシアは眉を顰める。鍵盤琴の女の言葉が生々しく蘇った。

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