表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
327/422

到着

 道のりは長く、されども最後は至る。


 辿り着いた「最前線」は、リシアの想像を超えた世界だった。


「……街?」


 通り過ぎる荷車を目で追いかける。並び立つ街灯、複層階の建築物、交わされる威勢のいい言葉。地下であることを忘れてしまうような光景が広がっていた。


 下手したら、エラキスよりも活気がある。同じように天井の岩盤を見つめるアキラに、頬を上気させながら話しかける。


「すごいね!こんな場所だと思わなかった」

「確かに最前線だ。冒険のための場所」


 そう答えるリシアも夜色の瞳を輝かせている。初めての「最前線」に興奮する女学生二人を、ブレッチャーが手招いた。


「こら、迷子になるぞ」


 一行からはぐれまいと二人は後を追う。


 広場というには手狭な、倉庫にも似た一画で一団は足を止める。


「九時二十分……余分な足止めがあった割には早く着いたな」


 シルトの発言が人集りの中で響く。冷や汗をかいていると、再び碩学院の代表は声を上げた。


「一日目の旅程はこれにて終了となる。明朝八時に再び此処に集合するように」


 続いていくつかの注意点が並べられる。


 夕食は尾花堂が用意してあること。

 休憩所内での問題に碩学院は一切責任を持たないこと。

 中途での依頼放棄には然るべき手段を取ること。


「以上だ」


 その一言で今日の「勤務」は終わったようだ。周囲の冒険者達が気が抜けたように隊列を崩す。


「はあ、長丁場だった」


 マイロの言葉と共に肩の荷が地に降ろされる。


「だいひょー、泊まるところ探しに行きましょう?」

「ここで寝泊まり出来るのは休憩所の大部屋一択だ。ほら、さっさと場所取ってこい」

「怪我人に酷くないすか?」


 不満げに荷を引きずるマイロと目が合ってしまった。途端、青年は距離を詰めてくる。


「そういえば、学生サン達は泊まるとこどうするんすか?」

「夜干舎の皆さんと約束していて」


 一息で言い切る。マイロは一瞬肩をすくめて、すぐに笑顔を浮かべる。


「じゃあ大部屋ってことっすね!色々話とかしましょー」


 そう言ってひらりと手を振り、去っていく。確かに大部屋ということは彼等と一緒になる可能性も高い。


 だが、あの目は怖かった。リシアに向けられたものではないとしても。


 ため息をつきアキラを向く。


「夜干舎と合流しよう」

「うん」


 応じたアキラと共に夜干舎の面子を探す。


 耳や尾羽を見つける前に、声をかけられた。


「そうだ、嬢ちゃん達。ここは素材の売買も出来るから手放しちゃってもいいんじゃないか」


 夜干舎ではなく灰ノ月会の代表からの言葉だった。


「殻にはまだ肉が入ってるから換金できないけどな」

「あ……どうしよう。胃石は嵩張るものではないけど」


 悩むリシアを尻目に、ブレッチャーは店頭を彷徨く。素材の買取をしている場所は一箇所だけではないのだろう。同じように陳列窓を覗こうとして、セリアンスロープに呼び止められる。


「リシア、アキラ!」


 休憩時よりもくたびれた様子の夜干舎一行が、増えた荷物と共にやって来る。


「はあ、疲れた。ひとまずお疲れ様」

「お疲れ様です」

「学士達はまだ話し合いがあるみたいだ。とりあえず寝泊まりする場所を確保……」


 息も絶え絶えにそう告げるケインの肩にかけていた皮袋がずり落ちる。水を含んだ重たい落下音が響いた。


「いやあ、ハロ、張り切ったね」

「ケインも細々採集してたんでしょ。僕が獲ったのはクズリくらいだし」

「荷を軽くしましょう」


 ライサンダーが皮袋を拾い上げる。彼の荷物も、迷宮に入る前より膨れ上がっていた。


 先程のブレッチャーの言葉を思い出し、店頭を指差す。


「この辺で素材を買い取ってくれるかもしれません」

「前線での買取か……良心的ならいいんだが」


 苦笑いを浮かべるケインを見て、リシアは警戒する。


 これまで、「炉」を除いた素材の売却は浮蓮亭を通して行ってきた。直接のやり取りというのは、シノブ以来かもしれない。


 無論、碩学院相手とは訳が違うはずだ。


「私達は毛皮やら植物が主だが、君達は」

「甲殻はまだ売ることができなくて、とりあえず胃石を買い取ってもらえたらと」

「ん、そういえば蟹を獲ったんだったな。胃石ということは薬局系か」


 ふむ、と息をついて耳を忙しなく動かす。


「手分けしよう。ライサンダー、君は女学生と一緒に薬局か薬問屋を探してくれ」

「はい」

「ハロは私と武具関連の店に」

「あー、じゃあライサンダーに胆嚢とか渡せばいい?」


 代表の指示のもと、即座に組合員は荷解きをし渡し合う。アキラと二人きりで未知の通りを彷徨うことにはならずに済んだようだ。


 安堵したのはアキラも同じらしい。緩んだ雰囲気と共に、フェアリーの背中を見つめている。


「良かった、ライサンダーさんが一緒で」

「うん」


 首を縦に振った後、アキラはフェアリーに話しかける。


「よろしくお願いします。ご一緒させてください」

「こちらこそ」


 ギクシャクとしているようで淡々と交わされる不可思議な会話を横目に、リシアも会釈をする。


「それじゃあ、また此処で落ち合おうか」


 毛皮を抱えケインは確認する。


 一同は頷き、二手に分かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ