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道中(3)

 飴色の米と肉、艶やかに煮込まれた乾果の詰まった紙箱をお互いに覗き見る。


「浮蓮亭だ」

「うん」

「一目でわかるほどお世話になってるのねえ」


 納得するリシア達を見て微笑みながら、アガタは付属の木匙で米を一口頬張る。


「ん、美味しい!お米久しぶりだわ」

「アガタさんとこもお米食べるの?」

「お米とか蕎麦とか、穀物を煮て食べることが多いの。パンもあったけどね」


 粥のことだろうか。エラキスでは軽食や付け合わせとして食されることが多いが、アガタの出身地では主食として食べられているように聞こえる。ところ変われば、ということか。


 一方、浮蓮亭提供と思わしき弁当の米は蒸してある。以前食べたチマキなるものに少し似ている。


 アキラもよく米を食べると言っていた。パンが馴染み深い者の方が、ここでは少数派のようだ。


 ほんの少し茶の風味のする乾果を齧っていると、セリアンスロープが立ち寄ってきた。


「ご一緒しても?」


 女学生二人とアガタ、共に声を張る。


「大歓迎!他の方々は?」

「まだ弁当を貰えてないみたいでね。先に三人分取ろうとしたら断られてしまった」

「余分に取る人がいるんでしょうね」


 一人分の場所を空けると、するりとケインは収まる。ふかふかの尻尾が間に挟まった。


「もしかして浮蓮亭の弁当かい?」

「たぶん、この味付けは浮蓮亭です」

「そうかあ。私がもらったのは別のところのようだ。ネギを使ってないらしい」


 蓋を開け、匂いを嗅ぎながらセリアンスロープは耳を小刻みに動かす。


「命に関わるものね」

「最近はうっかり口にすることも減ったんだ。異種族に配慮した店は増えてる」


 弁当を配る際の言葉を思い出す。きちんと確認を取っていた。


「尾花堂ってところ、大手なのかな」

「最近よく聞くよ。慣れてる感じだったし、仕出しや配給の仲介で今後も声をかけられるんじゃないか」

「食事の仲介をする組合があるっていうのが、個人的には驚き」


 アガタの言葉に頷きつつ、セリアンスロープの食べる弁当を覗き見る。細かく裂いた肉を挟んだパンと甘味が詰められていた。


 ぴくりと耳が動き、思わず目線をそらす。リシアの視線を咎めたわけではないようだ。セリアンスロープは振り向き、手を振る。


「お疲れー」


 弁当を片手に、夜干舎のハルピュイアとフェアリーがやって来た。誰が言うでもなく輪を広げる。


「と言っても、まだ全然目的地遠いけど」

「だからこそ休憩は大事だ。ところでどんな弁当だった?」

「魚の揚げ物入ってた」

「パイですね」


 包みを開け、互いに中身を確認する。その様子がどこか微笑ましくて、リシアは目を細めた。


「どこの仕出しかな」

「おそらく糸杉軒だと思います。衣に香草が入ってますし、パイの折り目が装飾的なので」

「食べ歩いてるんだねえ」


 三者三様の食前の祈りを捧げ、食事を始める。時計を見つつ、リシアも目前の弁当に集中する。


 足音が無遠慮に近づいてきた。背後に気配を感じて、身を捩る。


「あ、今食べてるんすか?」


 覗き込むように口を出す青年に、ひとまず頷き返す。


「はい。マイロさん達の食事は」

「俺らは次の休憩で食べようかと。まだ腹減ってないんで」


 ブレッチャーは近くにはいないらしい。青年は周囲の顔ぶれを眺め、割り込むように膝を立てた。


「知り合い?」


 異種族の固まる空間に気圧されたのか、苦笑いを浮かべつつ青年は尋ねる。女学生が頷く前に、セリアンスロープが声をかけた。


「ああ。彼女達とは集会所が同じでね。仲良くさせてもらってるよ」


 夜干舎のケインだ、と片手を差し出す。少し間を置いてマイロは握手を交わした。ケインとハロが一瞬目を合わせる。


「先程うちのハロから聞いたよ。マイロ君だったか」

「そうっす。あ、もしかして貴女が代表すか」

「よろしく」


 頭を下げつつマイロは頬を緩める。


「君は個人で?」

「いや、灰ノ月会っていう組合に所属してます。代表どこ行っちゃったかなー」


 わざとらしく辺りを見回し、再びケインと向き合う。


「長い道中、お互い頑張りましょ」

「ああ」


 話を早々に切り上げたような気がした。


 その場を離れたマイロの背中を見送り、輪に戻る。


「警戒されてしまったな」


 セリアンスロープが肩を竦める。


「耳と尻尾があると大変だね」

「やだ、そんなことがあるの?」

「私達とまやかしは切っても切り離せないからね」


 以前、役所で起こった事件の後にケインが呟いていたことを思い出した。異種族が多く交わる社会だからといって、偏見が無いわけではないのだ。寧ろ、多種族社会だからこそ、軋轢はリシア達には想像もつかない規模なのかもしれない。


 複雑な思いを抱えたまま、食後の甘味と思わしき飴かけの堅果に取り掛かる。


「でもさ、それで警戒するのって向こうも後ろめたいことがあるからじゃない?」


 平然と言い捨てるハロの頬を、ケインはつまむ。


「これ」

「いった」

「そうやってすぐ勘繰る」


 手を離した後、ハルピュイアは囀るように文句を告げる。その文句を聞き流しつつ、リシアは空の紙箱を折りたたんだ。

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