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 一度、シルトは周囲の人員を見渡す。粗方集まったのか、人の動きが無くなったことを確認して口を開いた。


「まず、先の通りカコクセン社と穀雨組の者は後方へ」


 そう告げると、幾人かが集団から数歩退いた。彼等が先の二団体なのだろう。残った人員へとシルトは歩み寄る。


「斥候は挙手を」


 ハロを含めた三名が手を挙げる。


「君達は最前列へ。いつもの仕事を頼む」

「はーい」


 挙手をした中の一人、そう歳の変わらないドレイクの少女が間延びした返事をする。そして先の団体と同様に、輪から外れる。


「次の列は……ここまで。それから左右に、ここまで」


 切れ目を入れるようにシルトは冒険者達を指し示す。ちょうどリシアとアキラは同じ組に入れたようだった。


「君達は左翼を重点的に。そして君達は右翼だ」


 左翼を任され、リシアは頷く。同時に同じ場所を任された冒険者達の顔ぶれを確認した。


 アキラの他には壮年と青年、そして見覚えのある異種族が一人。彼女と目が合い、手を振られた。


「よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」


 確か、アムネリスと名乗っていたか。華奢な体躯のフェアリーは小首を傾げる。


「お手並み拝見、出来ると良いわね」

「その、何事も無いのが一番かと」

「あら真面目」


 くすくすと笑う。一つ一つの動作がどこか演技がかっていて、リシアは不安になる。何かを観察し、計られているような気がするのだ。


「エラキスもフェアリーが入ってくるようになったのか」


 二人のやり取りを見ていた壮年のドレイクが声をかける。途端、アムネリスの複眼が暗く色を変えた。


「珍しい?」


 リシア達に対してとは異なる、冷ややかな声音だった。賢明な壮年は肩を竦め立ち去ろうとしたが、若いドレイクは興味を惹かれたように尋ねる。


「俺初めて見ましたよ!フェアリーの、しかも女性!」


 そう捲し立て、青年はアムネリスの姿を不躾に見回す。


「なんか寒そうな格好してるんすね」

「おい、こっち来い」


 青年の肩を叩き、壮年は愛想笑いを浮かべる。


「悪いな、挨拶はまた後で」


 冒険者二人は女性陣から離れていく。微かに壮年のたしなめるような声が漏れ聞こえた。


「ありゃ生粋のフェアリー女だ。ああいう手合いは何がきっかけで機嫌を損ねるかわからないから気をつけろ」

「最初っから機嫌悪くなかったすか?」

「異種族だろうが男相手にはそういう態度になるんだよ。習性とか文化みたいなもんだ……そうでなくとも距離感考えろ」


 思わずフェアリーの方を一瞥すると、目が合ってしまった。陶器のような顎が開く。


「教えてあげるなんて、優しい先輩ね」


 複眼は先程リシアと会話していた時と同じ色に戻っていた。


 確かに、あの青年は無神経なところがあった。一連のやり取りの原因も「距離感」という言葉でまとまりはするのだろう。


 一方で、人間関係や仕事に影響が出るほどの拒絶は、彼女にとっても不利益があるのではないか。あるいは既にいくらか譲歩した結果が今のような態度なのか。


 迷宮という坩堝で起きる自己のせめぎ合いを見て、リシアは目の前のフェアリーへかける言葉を考える。


「あの……改めて、よろしくお願いします」


 手を差し出す。


「学苑所属のリシア・スフェーンと言います」


 複眼の遊色が揺らぐ。こちらを睨めつけるような光が、じとりと手を這った。


 外套の下から細い腕が現れる。人形の関節とよく似た接ぎ目と、肌を覆う血脈のような蔦に一瞬目を奪われる。ケインの銀細工とは違う、どこか物々しい気配を放つ装飾だった。


「よろしく。アムネリスよ……あら、そういえば名乗ったことあったかしら。それともケインの紹介?」


 冷たい外骨格がリシアの掌を包む。思いのほか冷ややかで強い力に、僅かに体が強張った。


 同時に、どこかでこの手の感触を既に知っているような気がした。


「もう一人の子は、アキラだった?」

「はい」


 同輩を手招こうとして、すぐ背後で注視していたことに気付く。先程までは感じ取れなかった敵意が周囲に満ちる。


 警戒も当然か。額に傷を作ったのだから。


「よろしくね」


 リシアの手を覆っていた甲殻が、アキラに向かって差し出される。ほんの少しの間アキラはその手を見つめ、握った。


「アキラ・カルセドニーです」


 何かが軋む音がした。


 リシアとの握手よりも遥かに長く、両者は向き合う。アキラの手がじわじわと赤味がかってくるのを見て、ジャージの裾を引く。


「アキラ」


 途端、忍び笑いがフェアリーの纏う外套の下から漏れた。


「……ドレイクって、負けず嫌いな子が多いのね」


 するりとフェアリーの手が滑り抜ける。


「他にも挨拶をしてきたら?」


 口端が吊り上がるように裂ける。離れて行った男性陣を指しているのだろう。頷きつつ、暫し逡巡する。


 貴女はいいのかとか、自己紹介だけでもとか。これ以上何を言っても、余計なお世話にしかならないだろう。


 そう結論付けて、軽く会釈をする。


「挨拶、いこう。一緒に仕事をする人たちだから」


 アキラに声をかけて他の冒険者のもとへと向かう。後ろからアキラも、握手をした手指を曲げ伸ばししつつ追いかけてきた。

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