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集合(2)

 一通り人員の確認は終わったのか、研究員の周囲から冒険者と思わしき集団は居なくなる。シルトと名乗ったドレイクはもう一度書類を眺め、顔を上げた。


「次に配置だが、武器によって分ける。斥候は最前線、近接武器を持つ者が次、我々を挟んで最後尾に射撃武器を持つ者。ひとまずはこれで行く」


 ぼんやりと納得していたリシアの隣で、ハロがぼやく。


「後ろにも近接武器持ちは居た方がいいんじゃないの」


 すぐさま、別の冒険者が声を上げた。


「最後尾にも剣士は何人か入れてくれ。あと耳がいいやつ」

「獣が前からのこのこやって来るとは限らないだろ」

「……そのように調整する」

「あと医療関係は」

「ウチには呪術師もいるんだが」


 段々と声が大きくなる。不安になってリシアは溢した。


「いいのかな、向こうに任せなくて」

「お伺いを立ててんの、これは」


 肩を竦めるハロの言葉を聞いて、再び冒険者達と碩学院のやりとりを注視する。確かにどの言葉もあくまで「問い」と「意見」だ。


「ところで君達はいいの?」


 ハロの大きな瞳がこちらを見つめる。配置のことを聞かれているのだろう。リシアは頷いた。


「私もアキラも近接武器だから、前方に出る」

「あ、そう」

「責任重大だな、ハロ」

「やめてよね。斥候ってそういうもんでしょ」


 顔見知りと話す間に、再度の編成見直しは進んだようだ。改めて研究員が声を張る。


「カコクセン社と穀雨組は後方へ。それ以外の組合に所属する医療関係者と呪術師は碩学院の者と共に」


 辺りを見回す。不満げな顔や声も無く、何人かが頷いて同意を示した。そのことに安堵したのか、微かに研究員が安堵したように見えた。


「今回、碩学院の主な目的は最前線へと至る通路の測量だ。その護衛が君達の任務となる」


 任務の説明に入ったようだ。慌てて書類を取り出し、話を聞きつつ確認する。


「旅程は明日の夕方まで。出発後、十時までに基地に着くことを第一目標とする」


 無論、昼の十時では無いのだろう。時計を片手にリシアは眉を顰める。前線基地までの道程は知識としてはあるが、いざ進むとなると相当駆け足な予定のように思える。だが隣のハロの平然とした様子を見る限り、不安なのはリシアだけのようだ。


 足手纏いにはなりたくない。


 背嚢を背負い直す。


「それでは、第二通路へ」


 シルトがそう告げた途端、周囲の空気が変わる。


 第二通路。未だ踏破の見通しが立たない、深淵へ続く「根」の一。もっとも、最近の調査では方向としてはエラキスに向かっており、地表からもそう離れていないことがわかっている。


 だとしても、相手は迷宮だ。だからこそ張り詰めた空気になるのだろう。


 黙するリシアの顔をアキラが覗き込む。


「緊張してる」

「それは……」


 当然でしょう、と言おうにも、当のアキラはいつもと同じ無表情だ。なんだか気が抜けて、ため息をつく。


「アキラは緊張してないの?」

「してる」

「本当?」

「鼓動が、聞こえそう」


 夜色の瞳に、星が散ったような気がした。


 いつもと同じだ。彼女の「緊張」はリシアのそれとは違う。


 楽しいのだ。


「さっさとしないと置いてかれるよ」


 そう告げるハロの声が離れていく。女学生二人は顔を見合わせ、駅へと向かった。


 冒険者と研究員達の流れに乗り、見慣れない階段を下る。第一通路や第三通路とは様相の異なる壁面を眺めるリシアに、アキラは囁く。


「キノコの……第五通路に似てる」

「踏破中の通路は、似たような雰囲気があるよね。人がよく行き来するから一見綺麗」


 他の通路と違って手入れの行き届いた灯や階段の手すりを指差す。


 一方で、気温だけに起因するものではない冷ややかな空気に満ちている。往来が多いのにどこか寂しい。人を拒絶しているかのようだ。


 他の通路とは違う。未踏破の迷宮特有の空気を感じて、リシアの肌が粟立った。


「ここは瓦斯を通しているのね」


 少し先を歩いているアガタが、灯を見上げ同僚と話す。


「漏れたりしてないよな」

「これが漏れるより、自然の瓦斯溜まりに当たる可能性の方が高いと思うわ」

「だとしてもなあ……」

「文句言うなら、貴方が提案してあげたら?放電灯」

「無茶言うな。それにあれも安全ってわけじゃないんだ」


 同じ工学の研究員なのだろうか。こっそり聞き耳を立てているうちに、一団の歩みが緩慢になる。


「皆、もっと奥へ。隊列を組む。本洞に入ってくれ」


 前方からの声で、階段を下り切った事に気付く。狭い階段から開けた空間に出て、リシアは思わず深く呼吸をした。この本洞の入り口は、どこの通路も大差ない「造り」だ。何か規格でもあるような気さえする。


「近接武器持ちは一度全員前へ。細かな割り振りをする」


 雑踏が響く。シルトの指示を聞きながら、リシアとアキラは人の間を縫い最前列へと進んだ。


 ハロの尾羽がちらりと見えた。これ幸いと隣に立つ。


 シルトを囲み、二十名ばかりの冒険者達が立ち並ぶ。それとなくリシアは周囲の顔ぶれを確認した。壮年もいれば、リシア達と同年代と思わしき少年もいる。性別も若干男性が多いくらいか。


 ……そう判断できたのは、種族が自身と同じドレイクに偏っているからだと気づく。いつか浮蓮亭で聞いた通り、種族によって向き不向きがあるという事なのだろう。


 一つ咳払いが響く。


 一同、視線を研究員へと向けた。

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