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ヒトそれぞれ

 斜陽の路地から、仄暗い浮蓮亭へと踏み入る。セリアンスロープが一人で食事をとっているのを見て、リシアは目を丸くする。珍しい。


「今日はお一人ですか」


 挨拶もそこそこに声をかけると、ケインは顔を向け微笑んだ。手にしていたパンを置き、手を振る。


「おお女学生。そうなんだ。他の二人はそれぞれやりたいことがあると言ってね」

「お休みですか」

「うん。四六時中一緒にいるわけではないさ」


 まあ、と耳を動かし顎をさする。


「大方ライサンダーは屋台か書店、ハロは……お出かけだ」


 お出かけという言い方に引っ掛かるも、すぐに解消する。「逢引き」を避けたのだろう。いつだったか婦人と共にいるところに出くわしたのを思い出して目を泳がせる。


「今は私も自由時間。と言っても情報収集はしているがね」


 そう告げる手元には、何枚か依頼書が散らばっている。もう一つの夜干舎には負けられないと言うわけか。


「名を上げるにはこつこつ努力をするのが一番の近道だ」


 言い聞かせるようにケインは呟く。結局、そこに行き着くのだろう。


 その言葉を聞いて、役所から浮蓮亭に来るまでの道中に考えていた事を思い出す。


「あの、ケインさん」


 簾前の席に腰掛け、リシアは尋ねる。


「夜干舎はどんな依頼を得意としていますか」

「得意?」

「特色、というか」


 突然の問いにセリアンスロープは膝をこちらに向ける。その姿勢が真摯さを表しているようで、リシアは安堵した。


「実は私達は荒事が得意でね。警護で一応売っているんだ」

「警護ですか」

「駆除も得意だよ。流石に遺物狩りは……今は進んで行こうとはしないが」


 引っ掛かる。


「今は」


 思わず口に出してしまったが、ケインは特に表情を変えることもなく答えてくれた。


「ああ。前の夜干舎は遺物専門だったんだ」


 こともなげにそう告げられ、リシアは身を乗り出す。


「そういう組合もあるんですか」

「うーん、これに関しては前の代表が相当特殊だったからな」


 ケインは腕を組む。


「自律型遺物を狩ることができる遺物を持っていたんだ」


 遺物を狩る遺物。


 その実体を語る事なく、ケインは現在の「夜干舎」に話を戻す。


「そういう経験もあって、ある程度は私も立ち回れるんだ。補助が主だけどね」

「ライサンダーさんが弩を使うのは知っていますけど、ハロさんは」

「それがね、ハロはああ見えて前衛なんだ。多分単純な喧嘩じゃ負け知らずだよ。迷宮の中ではそうもいかないが」


 笑うケインの話を聞いて、以前投網を教えてくれた時の装備を思い出す。確かにあの鉤爪は近接戦の装備だ。


「そもそもハルピュイアという種族自体が、喧嘩っ早くて有名だろう」


 嗄れ声が簾の向こうから補足する。


「性質上、ハルピュイアは闘士、フェアリーは射手、セリアンスロープは呪術師、ドレイクは重戦士と相場が決まっている」

「そ、そうなの?」

「大昔の話ではあるけどね。それこそ種族間で火花を散らしていたころのような」


 ドレイクばかりのエラキスでは聞いたことのない話だ。関心しつつ店主と代表の会話に耳を傾ける。


「斥候なんかもハルピュイアは得意だな。耳が良いし、方向感覚もある。フェアリーは体の構造上ブレが少ないから弓矢の取り扱いが上手い」

「ライサンダーを見てると装填も速いからなあ。腕が四本あるのはやっぱり便利だ」

「セリアンスロープの呪術も種族によって系統が違うと以前言っていたか」

「ああ。私達は人に化けるのが得意で、ウゴウの種族は場を作り出すのが上手い。痛みすらも見せるほどのまやかしが出来るのはテン。後は、自分を騙すのが得意なオオカミだ」

「ドレイクは言わずもがな」

「一番丈夫だ」

「どの種族も長所があるんですね」


 種族単位での特色の話になるとは思わなかったが、興味深く聞く。隣のアキラもどこか真剣な表情だ。


「ところで、特色を聞くと言うことは……もしかして悩んでいるのかい」


 頬杖をつき、ケインはにんまりと笑う。


 女学生の考えることなどお見通しなのだろう。リシアは頬を掻く。


「その、そういうのも考えなきゃいけないかな、と」

「確かに売り込む方向性というのも大事だ。需要は目敏く見つけないと早々に食い荒らされるからね」


 うんうん、とセリアンスロープは頷く。


「だけど、まだ手を出していない依頼もあるんじゃないか?」


 アキラと同じ答えだ。思わず同輩と顔を見合わせる。


「色々試してからでも遅くはないさ。寧ろ、討伐一本なんて決めつけて生き急ぐほうが危ない。幅広くやって、誰も手をつけていないような分野を見つけられたら儲け物。そのぐらいで良いんだ」


 遅くはない。その言葉を幾度も思い返しながら頭を下げる。


「ありがとうございます」

「いやあ、感謝されるようなことじゃないよ。まあ参考程度に」


 そう告げてケインは一口水を含む。


「……ただ、あえて言うなら。迷宮踏破を目的にするような依頼は向いてないかもしれないね」


 特に、アキラは。


 静かな店内に、その一言の余韻だけが残る。アキラは表情を変えることなく黙したままだった。

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