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特色

 ウワバミを一匹。ネズミを十匹。ガマを二匹。トカゲを三匹。


 駆除した生物の爪や皮の一片を一つずつ数え上げ、受付嬢は笑顔を浮かべたまま台帳に記入していく。


「……危険生物の駆除、こちらの内容で完了でしょうか?」

「はい」


 頷く。返答の後、提出用に切り取った生物素材の一部は袋に詰められ、別の職員に持ち去られた。


「今回の報酬です」


 銀盆に乗った紙幣を受け取る。


 深々と礼をすると、受付嬢もまた上品な角度で頭を下げた。


「またのお越しをお待ちしております」


 以前リシアの危機を救ってくれた受付嬢はそう言って、別の冒険者の対応に向かう。変わりない姿にリシアは安堵した。


「今回は赤紙幣二枚と、陶貨四枚ね」


 既に分けられていた報酬をアキラに渡す。ありがとう、と同輩は恭しく受け取った。


「浮蓮亭に預けた素材分は待つとして……今日もお疲れ様!これからどうする?」


 明かり取りから差し込む光はまだ朱色だ。前回中途半端に中断していた駆除依頼を、成果を鑑みて早めに切り上げて報告したのだ。


 リシアの問いにアキラは頷きながら答える。


「浮蓮亭に行く。夕飯」

「じゃあ私もついて行こうかな。今日のうちに報告して、ちょっとおやつも」


 そんな会話をしながら早々に役所を後にする。用がないなら長居をする理由は無い。


 先日の出来事はリシアの中で尾を引いている。衛兵側からは学苑を通して謝罪の文書が送られてきたとはいえ、以前のように衛兵と接するのは正直考えられない。今日も衛兵長がいないか気を張りながら訪問しているのだ。


 自然、足がはやる。


 役所を出て麦星通りへと降りる。雑踏の中で、見覚えのある一団とすれ違った。


 覆面のセリアンスロープと豪奢な尾羽のハルピュイア。異種族二人は会釈をして、再び人混みに紛れる。リシアもまた少し遅れて会釈を返し、既に見えない後ろ姿を目で追った。


「仕事かな」


 夜干舎のことを心配するわけではないが、組合の名声というものは学苑にいるリシア達にはなかなか聞こえてこない。地図の瀝青出版や設営のスレート商会などごく一握りの組合ばかりが有名だ。これらは学生も目にする機会が多く、おそらく王府ともただならぬ関係ではないのだろう。ではそこまで漕ぎ着けるにはどうすれば良いのか。


 夜干舎だけではない。リシア達の将来に関わることでもある。


「組合が有名になるには、強みが必要だよね」

「強み?」

「ここだけは他の組合に負けられない特色。最速で地図を出せますとか、薬草集めに特化してますとか」

「似たり寄ったりだと埋もれてしまうから、ってこと?」

「そう。あるいは価格帯で差別化とか」


 そういえば「相場」というものもよくわからない。役所の採集依頼はどれも似たような報酬額だし、浮蓮亭で見かける依頼はピンからキリまである。


 学苑で最低限のことは学んでいるものの、リシアはまだまだ素人だ。いつかは班ではなく、組合に所属する冒険者になるというのに。


「シラー先輩は、そういうこと既に考えてたりするのかな」


 ぽつりと第六班班長の名を出す。即座にアキラが口を開いた。


「たぶん、考えてると思う」


 たぶんとは付いていたものの、確信しているであろう口振りだった。


 これまでの発言からしてシラーに好印象を持っていないアキラですらそう言うのである。シラーの才覚にリシアは改めて感心した。


 第四十二班には方針がない。それがここ最近新たに出てきた悩みだった。


「以前、バサルトさんが言っていたでしょ?討伐専門になるのかって」

「うん」

「討伐、採集、地質調査とやってきたけど……この中で私達の特色と言えるのって何かな」


 リシアが尋ねるとアキラは考え込むように黙した。沈黙の間も二人は足を止めない。


「冒険者の仕事って、他に何がある?」


 返ってきたのは問いだった。一瞬言葉に詰まり、脳内の手帳をぱらぱらと捲る。


「一般人の警護、施設の保全、救助、測量……真面目なのはこんな感じかな」

「真面目じゃないのは」

「ズルとかそういうわけじゃないよ?一攫千金を狙える仕事もあるけど、危険過ぎるし……遺物収集とか」


 アキラの目の色が変わったような気がした。


「確かにそれは、勇気がいるかも」

「以前の遺物は本当に運が良かったんだと思う。アレを狙って襲うなんて考えられない」


 講師ですら勧めないのだ。命がいくつあっても足りない行為なのだろう。


「そっか」


 アキラは小さく告げる。その声音がどこか寂しげで、リシアは思わず同輩の目を見つめる。変わりのない無表情に、憂いの色は無かった。


「特色については、正直まだわからない」


 質問の答えだ。


「でも、まだやってない依頼がたくさんある。一通り冒険者の仕事をこなさないと、見えてこないんじゃないかな」


 アキラの言葉に頬が上気する。


 逸りすぎたか。


「確かに……まだやったことの無い仕事か」


 幸い、これから向かう場所にも依頼は来るし、本職に質問もできる。そこで今の話をもう一度考えてみよう。


 いくらか歩みが遅くなる。少しだけ肩の力が抜けた。

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