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 ほんの一時会話が途切れた。合間を見計らっていたようにリシアは本題を切り出す。


「アキラ。依頼の許可を取ったのだけれど、いつ行く?」


 想定内の言葉に頷く。同時に心が踊った。何よりも待ち望んでいた冒険に、迷宮に再び行くことができる。


「今日にでも」

「きょ、今日?」


 そう答えると、リシアは慌ただしく抱えた鞄の中身を探り出した。


「……まだ用意できてなくて、昨日の」

「あ、ごめん」

「ううん、迷宮に行く前に買えばいいから」


 急ぎすぎたか、と冷静になる。しかし友人はアキラを責めることもなく、手帳を開いて何か予定の修正や数字を書き込んだ。


「元々、放課後に買いに行く予定だったの。それ以外は準備できているけど、アキラは?」

「一度家に寄りたい」

「じゃあ二ヶ所、いや三ヶ所寄り道して迷宮ね」


 手帳を閉じて少女は同輩を見つめる。


「楽しみだった?」


 そうリシアに問われて、自身の口角がほんの少し上がっていたことに気付く。素直に頷くと、リシアは少し考え込むように目を逸らして、合点がいったのか微笑んだ。


「新しい防具や剣も、実地で慣れたいもんね」


 無論、そういう理由もある。


 ただアキラの高揚の中で、そういった「理由のある喜び」はほんの僅かな割合しか占めていない。多くはただ、目的地が迷宮であるというだけで自然に生じてくるものなのだ。


 何故こんなにも惹かれるのか、アキラ自身にもわからない。これまでの言動を振り返る限り、リシアや他の冒険者達も同じ衝動を抱えているというわけではないのだろう。


 その差異に違和感を覚えはしても、不安は無い。これまでもずっとそうだった。


 だから今日も深く考えることなく、突き動かされるままにリシアの言葉に頷いた。


「寄り道もあるから、すぐに行こうか」


 そう告げるなりリシアは歩き始める。その後にアキラは付き従った。


 廊下の向こうを見据える。


 もう誰も、二人に興味を示してはいないようだった。


「投網って、どこで買えるのかな」


 先日リシア達と相談して決めた「野生動物の動きを止める手段」の入手先について尋ねる。


「たぶん罠を売る店でも扱っていると思うけど……値段も確認しなきゃ。あそこ結構、強気なの」


 真面目な顔でリシアは再び鞄を覗き込み、財布を取り出す。


「共用資産の出番」


 もちろん、異論はない。


 学苑を出て制服通りを行く。目当ての店は裏道にあるのか、途中リシアは細い路地を指差した。


「この先に、学苑御用達の店があるの」

「こんなところにもあったんだ」


 普段帰り道として使ってはいても、細部を見ることはあまりない。少し前までは自分とはかけ離れた世界だった場所だ。


「迷宮科が設立してからできたお店」


 説明するリシアのあとをついていく。言葉通り、あまり古くもない構えの店が現れた。軒に吊るされた籠罠を見上げ、アキラは立ち止まる。


「専門店?」

「ええ。迷宮科の生徒が使う罠は、ほとんどここのだと思う。きっと儲かってるはず」


 ちょっと待っててとリシアは手で示す。頷いて外の罠を眺めつつ、友人の買い物を待つ。


 目当てのものはすぐに見つかったらしい。棚の間を真っ直ぐに歩いて、勘定台へと向かう。手にしていたのは漁で使う投網とそう違わないものだった。


 アキラが住む集合住宅前の水路でも、時折投網を投げる者がいる。コイやナマズが獲れたら良い方で、大抵は一口で食べられそうな小魚だ。もっとも彼らの目的も、大物ではなく釣り餌に使う小魚のようだが。衛兵に見つかって追いかけ回されているのもままある光景だ。


 てっきり投網は水辺でしか使わないものだと思っていたが、そういうわけでもないらしい。山間部では網で鳥や獣を獲ることもあるそうだ。またジオードでは市井の捕物で網を使うと、スフェーン家の執事が言っていた。無駄に傷つけることなく捕縛できるというのは、確かに捕物では重要だろう。


 つまり、「動きを止める」という一点においては網は古今東西各地で評価されているのだ。


 勘定台のリシアの様子を伺う。店番らしき青年と、何やら交渉をしている。指を曲げたり伸ばしたりしているところを見ると、どうやら値切っているようだ。このあたり、リシアはアキラよりも逞しいところがある。折角の共有資産を大切に使いたいという思いもあるのだろう。


 無事交渉は終わったようだ。


 会計を終え、どこか満足げな表情で出てきたリシアを迎える。


「買えた?」

「ええ。標準の大きさを一枚。あまりにも大きすぎるのは手に負えないと思って」


 紙袋の口を開ける。真新しい網が覗いた。


「どこかの小通路で少し練習しましょう」


 執事からある程度使い方は教わっている。だが実際に網に触れるのは今回が初めてだ。練習の提案はありがたい。


 一方で、少し気になった。


「今日で、間に合うかな。急かしといて申し訳ないけど」

「この依頼、一日で済ませる必要はないの。期間内に討伐数と証拠を報告すればいい」


 手帳を取り出し、挟まれていた依頼書を差し出す。確かに、そのような旨が記されていた。期日もまだまだ先だ。


「だらだら続けるわけにはいかないけどね」


 今回の依頼で手応えを掴んで、迷宮科の依頼にも手をつけるのも良いだろう。一先ずキノコ狩りのように期限の心配はないようだ。


 それでも、再び突発的に急がせてしまわないように、アキラは自省した。

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