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セリアンスロープが、耳をせわしなく動かした。


「君達は肉食の、それなりに大きい動物を倒したことはあるかい?」


突然の質問に、リシアとデーナは顔を見合わせる。続いてアキラの方にも目を向けると、彼女もまた視線をリシアの方に向けてきた。

リシア個人で駆除できた肉食動物というと、精々ヒドラくらいだ。アキラと動きを止めた先史遺物は……そもそも動物かも怪しい。


「ヒドラ、とか」

「クズリなら何匹か。ケラは、肉食ではないんでしたっけ」


リシアの返答に続いて、シラーも答える。生徒の返事にケインは重々しげに頷いた。


「なら大丈夫だろうが、無理はしない方が良いぞ」

「もしかしてクズリがうろついてますか」

「少し気が立った臭いがする、ってだけだよ」


先程の小通路の一画を思い出す。


巣の主はいなかった。恐らく、縄張りを巡回しているのだろう。


膝丈以上の大きさの動物を相手にするのは難しい。誰かの言葉が耳に響く。


「もしもクズリに出会ったら、逃げるようにします。安全が一番。そうでしょう」


シラーはそう告げて微笑む。先程の判断といい、班員や同行者の安全を第一に考えて行動しているのがよくわかる。


自信を持って判断を下せるようになりたいものだ。リシアの「理想の班長」像に具体的な目標が加わる。


「それでは、私達は先に行くよ。また浮蓮亭ででも会おう」


セリアンスロープが尻尾と手を振り、通路の奥へと進む。フェアリーも軽く頭を下げて、代表についていった。


必然、シラー一行もそれに続く。


隣の小通路に差し掛かったところで、ケインは立ち止まり、振り向いた。


「……なんだ、君らもおんなじ方向に行くのか!奇遇だね」

「と言っても、もう一本先の通路までですけどね。僕たちは」


そうして、どこか気まずそうにシラーは言葉を濁した。迷った末に決めたのか、一つ提案をする。


「……そこまで、一緒に行きませんか」


シラーの申し出に、小さく声を上げた者がいた。誰だろうか。だがこの場にいる全員が、声を漏らしかねないほど意外な提案ではある。


リシア自身、勝手な想像ではあるが、シラーは冒険者とは馴れ合わない性質だと思っていた。正直驚きを隠せないでいる。


このまま本職冒険者たちの跡を黙ってついていくのも妙ではあるが。


「うん、ご一緒させてくれ」


一方のケインは二つ返事で快諾した。この返答自体は、普段浮蓮亭で見かける彼女の人柄から鑑みても、至極もっともな答えだった。


「良いのですか」


しかし、背後に立つフェアリーはこれを良しとしないようだった。どこか訝しげに呟いた組合員に振り向き、代表は気を緩ませるように笑った。


「大丈夫大丈夫。どうせ進行方向は同じなんだから」


そうして、セリアンスロープはゾーイの隣に歩み寄る。


「隊列とかはあるかい?」

「はい。貴女は……真ん中がいいかと」

「そうしようか」


ケインはシラーとマイカの間に入る。少女が僅かに後ずさると、金色の瞳が細まった。


「よろしく」


愛想よくそう告げる異種族に、マイカは小さく何事か呟いた。


「ライサンダーはどうする?後ろの方がいいかな」


ケインの言葉に、改めてフェアリーの服装を見る。そういえば、彼は夜干社においてどのような立ち位置にいるのだろうか。以前小迷宮で会った際、代表は「腕が立つ」と言っていたが。


「最後尾に行きましょう」


フェアリーは即座に返答する。


「前だと、邪魔になります」


彼の巨躯を見上げて、リシアは納得する。確かに前が見えない。


一方で、一番最初に彼等と出会った時のことを思い出す。確かライサンダーの得物は、短剣だったはずだ。蟲に刺さったままのそれを取り返すために戻ってきたと言っていたのだから。


本当に最後尾でいいのか。


何となく気になったが、心に止めるだけにしておく。


「よろしく」

「よろしくお願いします」


デーナとライサンダーが挨拶を交わす。前方で初対面の二人も挨拶を終えたようで、一行は進み始めた。


「君達の依頼は……もしかして、王女様とやらの」

「あれ、どうしてわかったんですか」

「んふふ、結構良く話すんだ」


そう言ってケインは振り返り、浮蓮亭仲間の二人に向かって手を振った。反射的にリシアも手を振り返す。


「僕は植物や花についてはどうも疎くて」

「おや。慣れている感じがしたけどね」


背後でデーナが咳き込んだ。振り向くリシアに小声で弁解する。


「悪い、気にしないでくれ」


そう言って、噴き出すのを堪えるように再び咳き込んだ。


「我々は花と言ったら、薬か碩学院に売りつけるかだ。匂いとかには惹かれるが」


すん、とケインは微かに鼻を鳴らす。


「ハッカかあ」

「良い匂いですよね。迷宮に慣れると、すっかり消毒液の匂いに紐付けされてしまいますが」


前方ではケインとシラーの会話が続く。一方リシアの背後では、デーナがライサンダーを質問責めにしていた。


「えっとアンタ、確かフェアリーって種族なんだよな?」

「はい。こちらではそう呼ばれています」

「へー。じゃあクニの言葉ではなんて言うんだ」

「クニ?……ああ、故郷のことですね。私のような形質を持つ種はエルヴンと言います」

「あ。じゃあここら辺で言うフェアリーって、総称なのか。そりゃそうか」


その後も質問は続く。なかなか興味深い応答に耳を傾けながら、リシアは前を歩くアキラを注視する。


ほんの少し、アキラがこちらを振り向いた。


声をかける間も無く、纏めた髪をそよがせて前を向く。


アキラも話の内容が気になるのだろうか。彼女を呼び寄せようとして、今は六班との課外中である事を思い出す。


勝手な行動は許されない。


点る灯の感覚が少し長くなって来た頃、目的の小通路の入り口が見えてきた。


ゾーイが手にした灯を掲げる。


「暗い」


アキラがぼそりと呟くと、腑に落ちないような表情で班長は頷いた。


「ここは学生がよく通るから、灯が点されていないということは無いはずだけど」


シラーが首を傾げている間に、ゾーイが小通路に一歩足を踏み入れる。中の燭台に火を点すつもりなのだろう。


「気をつけて」


鋭い声が響いた。皆の視線が一斉に、赤銅の耳に向く。


「血の臭いがする。中に、いるぞ」


ゾーイが怪訝な顔をした、その瞬間。


牙を剥いた獣が、暗闇から飛び現れた。

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