9 管理者を倒す
ドラコの加入で大幅に成長した私はその地域を管轄している管理者のところへ向かった。
仁王立ちのマグラという男らしい。
なんでも、目が細くて、寝ているのか起きているのかわからないほどで、よく仁王立ちをしているという。
エレメンタルに関する情報じゃないのかよ!
しかし、管理者クラスと戦う精霊使いはあまりいないようだ。
ユーザーの多くは「近所で誰かと遊ぶだけで楽しい」「彼女が精霊使いだったから自分もなろうと思いました」「流行ってたのでやってみました」などのゆるい層でガチで管理者を倒すぞと燃えているのは一部だという。
日本のスポーツとかもそうと言えばそうだよな。テニスサークルの所属者みんなが夢はグランドスラムですなんて言うことはありえない。
「なあに、問題ないですよ。この騎士ドラコがついていれば百人力です!」
ドラコが胸を張っていたので、それを信じて行ってみた。
管理者のいる建物はちょっと神殿めいたかっこいいところだった。
「君が挑戦者か?」
奥にほんとに仁王立ちしてる人がいた。しかも、目が細い。
「はい、そうです!」
「わかった。では、申込用紙に記入してくれ」
なんか、調子狂うなあ……。
無事に記入も終わった。
さあ、いよいよ管理者との戦いだ!
私はドラコを選ぶ。
「ドラコ、あなたに決めた!」
「お任せください! 管理者クラスになら負けません!」
「えっ……ドラゴン種族なんて使ってるの、君……」
すごく、相手の管理者がたじろいだ。
「はい、そうですけど」
「じゃあ、ダメだな……。こっち、勝てそうにないから棄権します」
マジで!? 管理者が棄権するってアリなの!?
「もともと管理者ってその地域でそれなりに強い人間が選ばれるだけだからねえ。とんでもなく強い人が管理者をしまくったら、四聖への挑戦権なんて誰も得られないでしょ」
そんなのでいいのか……。
「ボクの活躍の場所は……」
少しドラコが意気消沈していた……。
「別にいいじゃん。ドラコのおかげで勝ったのは事実なんだから」
「そ、そう言っていただけるとうれしいのですが……」
「うん。また次の管理者のところに行こう」
だが、それ以降の管理者もドラコを見ると、どんどん棄権していった。
なかには「君、ドラコン種族持ってる子? ああ、じゃあ、腕章あげるよ。ドラゴン使ってるなら、四聖とでも戦わないと実力計れないから」
そんなのでいいのかよ。
こうして私たちはすべての管理者から戦わずして腕章を手に入れ、四聖への挑戦権を手にしたのだった。
「こんなの、おかしいですよ!」
最後の腕章を手にした日、ドラコが荒れた。
「まあまあ……これもあなたの活躍ってことで解釈しよう」
「無理ですよ! 誰かボクと戦ってくださいよー!」
「こういう苦しみもあるんじゃのう。なかなか斬新じゃ」
アッカも少し同情しているらしい。
「しかし、四聖なら逃げだすこともせんじゃろ。最強の精霊使いを決める連中じゃからのう」
「うん、そう思うことにする……」
「じゃが、別に真の最強には程遠いドラコでも天下は狙えるということかのう」
「おい! アークデーモンふぜいが失礼なこと言うな!」
「一般論じゃ。もっと強いドラゴンもリヴァイアサンもおるはずじゃ。そういうのを人間は捕まえられておらんらしい」
そういえばそうだな。
「ちなみに噂じゃと、ミサ・ウィル団という悪党どもが最強のエレメンタルを魔法で作り出そうとしておるようじゃ」
「へえ」
「それで四聖のエレメンタルを狙っておるとかいう話じゃ」
「アッカ…………」
「なんじゃ」
「そういうフラグ立っちゃう話はやめなさい……」
絶対に何か起こるだろ、それ。
●
そんなフラグ的な恐れを感じつつも、私たちは四聖がいるという「精霊使いの塔」を目指すことにした。
この塔の中に四聖という最強クラスの精霊使いがいるのだ。
正直なところ、ドラコはまったく戦闘できていないし、アッカはステータス的にはドラコより劣るわけだし、勝てるかどうかはわからない。
でも、戦う権利を得たことはまぎれもない事実なのだし、やるだけやってやろうと思う。
「ついにここまでやってきたのう」
「いよいよですね。ハルカ様はボクがお守りいたします」
塔の前で、二人とも気合が入っている。
「あなたたちがいれば、きっと最強の精霊使いになれるよ!」
胸を張って、私たちは塔に入った。
その途端、強烈な負のオーラを感じた。
「これが、四聖が放っている空気なの!? これまでの管理者とはまったく格が違う」
しかし、塔の奥に行くと、一人目の四聖らしき女性がうなだれて三角座りをしていた。
「負けちゃった……」
「えっ?」
「四聖はミサ・ウィル団と互いのエレメンタルを賭けて戦って、負けてしまったの……。なのでエレメンタルを奪われたから四聖の活動も休止中よ……」
えええええええっ!