8 子供をしつける
その日、滝からの帰り、ものすごく多くの人にじろじろと見られた。
「あれって、なんてエレメンタルだ?」「すごく珍しいよね……」「ドラゴンの一種なんじゃないか……」「あんな子連れて、精霊使いとして憧れるな……」
そっか。カープドラゴンってものすごい存在なんだな。
「当然のことですね。ボクはドラゴンのはしくれですから」
ドラコはすましながら歩いている。
「ドラゴン系のエレメンタルは精霊使い垂涎の的ですから。強く、そして品格もある。これぞドラゴンなのです」
「本当にはしくれじゃがな」
すぐにアッカがけなす。
「カープドラゴンなんて分類上、ドラゴンにするしかないから、仕方なく加えておるような居候みたいなものじゃ。男爵身分の奴が自分は侯爵や伯爵と肩を並べると言っておるようなもんじゃな」
「何を言うか! お前なんてただの悪魔じゃないか!」
「悪魔で何が悪いのじゃ!」
また、ケンカをしようとしているな。
私は二人の頭にぽんを手を載せた。
「ケンカは禁止だよ。同じチームみたいなものなんだから、相手を受け入れなさい。違いを受け入れること」
「姫には逆らえません。わかりました……」
「しょ、承知したのじゃ……」
なかなか手のかかる子たちだ。でも、かわいいから許す。
「じゃあ、アッカ、先輩として私たちの方針をドラコに教えてあげて」
「うむ。心得た。わらわは先輩じゃからの。なにせ先輩じゃからの」
やたらと先輩を強調したな。
「いえ、ボクも一緒に旅をしていたのだから、わかりますよ。むしろ先輩という点ならボクです」
「あっ、そうか。カープキング時代の記憶があるもんね。どうも、見た目が違いすぎて忘れちゃうんだよね……」
まさしく魚が美少女になったようなもんだもんなあ。
「ボクとしてはこのまま姫には覇道を突き進んでほしいと思います!」
やけに気合いを入れてドラコは言った。
「まず、ボクがいればたいていの敵は鎧袖一触! しかも、露払いぐらいはこのアッカという者もやれますし。各地の管理者を倒して、最強の精霊使いを目指しましょう!」
「その管理者って何?」
初めて聞く概念だ。
「ああ、管理者というのはそれぞれの地域を統括している有力な精霊使いのことです。彼らを倒すと、腕章をもらうことができ、すべての腕章を手に入れると、この国最強の精霊使いと言われている国家管理者たちと対戦する権利が与えられるのです」
どっかで聞いたことあるようなシステムだな。
「『国家管理者たち』ってことはラスボスみたいなのも複数いるわけね?」
「はい、国家管理者は四聖と呼ばれ、四人いるということです。ただ、さらにその上に誰かいるという話も……」
この発言で実はいなかったということは多分絶対にないと思うので、実質ラスボスの手前のボスが四人いて、ラスボスが最後にやってくるということになりそうだ。
「けど、ぶっちゃけ、あんまり戦う気ないんだよね~」
「なっ、姫、どういうことですか……?」
私は両手で二人を一緒に抱え込む。
「だって、こんなかわいい妹たちができたら冒険なんてどうでもいいじゃない!」
「あの姫……ボ、ボクは抱擁はうれしいのですが……あくまでも騎士として戦いに赴いてこそ……」
「な、なんで妹扱いするのじゃ! わらわのほうが偉大な存在なのじゃ!」
う~む、あまり歓迎されてないな。
「じゃあ、抱擁がうれしいって言ってるドラコだけ」
ドラコを正面からぎゅっと抱きしめてやる。まさに五歳ぐらい離れた妹って感じのサイズでちょうどいい。
「嗚呼、姫、いけません、こんなところで……。ボクの姫への愛はあくまでも高潔なもので……」
「おい! ハルカ、こいつから離れたほうがよいぞ! ていうか離れろ!」
こうするとアッカも抵抗してくるんだよね。これはこれで楽しい。
「ふん! 抱きつかれたくないって言っていたんじゃないのか」
ちょっとにやっと笑うドラコ。顔は見えないけど声でわかる。
「ハルカ、この女、ちょっといかがわしいのじゃ! だいたい高潔とか自分で言う奴は信用ならん! 離れたほうがよいぞ!」
「となると、代わりにアッカに抱きつかないといけなくなるけど、いい?」
「う、うう……。わかった、それで我慢してやるのじゃ!」
とことん素直じゃないな。だが、それがいい。
今度は私はアッカに抱きついた。
「どうじゃ。抱きつくからには気持ちいいのじゃろう……」
「うん、最高だよ」
「姫! 悪魔に抱きついたりしてはいけません! 心が穢れます!」
ドラコのほうも止めに入る。素晴らしい三角関係だ。
その日、マプレトの町に戻ってきたら、大男に遭遇した。
「おお、また絶妙な年頃のエレメンタルじゃねえか!」
あっ、ロリコンの人、ドラコに興奮しちゃってる!
「なっ……。この男からは屈折した情熱を感じます……。姫、この男は何者ですか……?」
「ええとね、少なくとも私にとっては無害なんだけどね」
「はぁ、はぁ……。十万ゴールド出すからデートしてくれ!」
ドラコが私の後ろに隠れた。
「姫、すいません……ボクはエレメンタルとは戦えるのですが、危害を加えてこない人間と戦うわけにはいかず……お許しください……」
これだけ強いドラコがガチでふるえるってこの人、ある意味とんでもなく強いのでは。
「ドラコ、一日デートしてやればよいのではないか、くっくくく」
「お前、何をふざけたことを言っているんだ!」
おっ、またケンカか? それはよくないぞ。
「ケンカする子はホラットさんとデートさせるよ」
二人ともぴたっと黙ってしまった。
今度からこれでしつけることにしよう。
◯◯モンの赤・緑・青が懐かしいです。コロコロコミックの申し込みで青も買いました。