6 キングカープの滝登り
翌日から私とアッカは精霊使いと戦ってお金を稼ぐことにした。
そんなにみんな決闘に参加してくれるものかと思ったが、問題はなかった。この世界では精霊使いにとってエレメンタルでバトルをするのは一種のスポーツらしく、安い賭け金で気軽にやるものであるらしい。
相場は一回三千ゴールドぐらい。それで一日七、八回対戦を行って、すべて勝ったので、そこそこお金は貯まった。
とはいえ、その収入だけで生活していかないといけないので、儲かっているという意識はまるでない。これが全財産で帰るべき家もないわけだから、ものすごく貧乏と言っていいぐらいだ。
アッカは自分が強いと言ってるだけあって、敵のネズミやハトやヘビみたいなエレメンタルに圧勝していった。
ただ、体が小さいだけあって、疲れるのも早いらしく、一日中戦うと、夕方には私におぶられて宿まで帰るぐらいだった。
「あ~、今日はよく寝れそうなのじゃ……」
「頑張ったもんね。ゆっくり休んでね、アッカ」
「別に実体化を解けば、ハルカがおぶる必要性もないのじゃぞ? なんでおんぶするのじゃ」
「戦わせるだけ戦わせて、あとは消えていいよっていうのはひどいと思うんだよね。あなたは妹みたいなものだから」
「勝手にわらわを妹にするでない……。じゃが、その心づかいは褒めてやらんでもないぞ」
アッカもまんざらではないのだろう。
周辺の精霊使いと戦いつつ、少しずつ行動範囲を広げていくか。
「だんだんと北に行こう。そこにメルダの滝っていう滝があって、エレメンタルの修行をしてる人もいるらしいし、数日後にはそこに――」
くうくう、とアッカは寝息を立てていた。
「そっか、眠いよね。ぐっすり眠って」
私は知り合って二日目の妹をおんぶして宿まで戻っていった。
私達はじょじょに北の方向を目指して、途中で出会う精霊使いと対戦を行っていった。
精霊使い同士は惹かれあうので、すぐにわかる。
この世界、かなりの数の精霊使いがいるようだが、強いエレメンタルをなかなか見つけられないらしく、ドラゴンや怪獣みたいな見るからに強そうなのを出す奴はいなかった。出てこられても困るけど。
なお、一度キングカープにも戦わせてみたが、ヒレで叩くぐらいしか攻撃ができず、敵のネズミにかじられていた。しかも、敵のネズミが電気を出す奴だったらしく、属性的にも相性が悪かったようで、瞬殺されてしまった。
※本当に殺されたわけではないです。
戦闘自体はアッカが電気を出す黄色いネズミを撃破して、私の勝利で終わった。
「そうそう、言い忘れておったが相性というものもあるからのう。同じ程度の実力なら相性の差が勝負に直結しかねんぞ。わらわのようにぶっちぎりで強ければ問題ないがのう」
「わかった。キングカープを使う時は気をつけるよ」
「キングカープは相性以前に弱すぎるのじゃ」
そして、本格的にメルダの滝を目指して四日目。
その付近の精霊使いをだいたい撃破して、私達は滝までやってきた。
ちなみにスマホ持ってうろちょろしていれば、、エレメンタルもちょくちょく見付けるのだが、ネズミやハトのエレメンタルを捕まえても、あまりかわいくないので捕まえてはいない。どうせならもうちょっとかわいいのにしたいし、絶対に戦力にもならなそうだしな。
かなりの高さを誇る滝のあたりでは精霊使いが滝行をしていた。
精霊使いが滝に打たれてもエレメンタルは強くならないと思うが、精神的なものなのだろう。
「おぬし、精霊使いであるな。いざ、尋常に勝負!」
向こうから勝負を挑んできたな。望むところだ!
「じゃあ、賭け金は五千ゴールドでどうですか?」
「ああ、問題ないぞ」
私達は滝の真ん前で勝負をはじめる。
こちらは当然アッカだ。
「ふん、またひとひねりにしてやろう」
一方で敵の修行者――滝行中なので、上半身裸で寒そうだ――はもじゃもじゃの草みたいなエレメンタルを出してきた。もじゃもじゃの奥につぶらな瞳が見える。
見た感じ、たいして強そうじゃないな。これなら楽勝だろう。
しかし、私が甘かった。
そのもじゃもじゃ植物は、戦闘直後からきれいな歌声で歌いだしたのだ。
♪~♪~♪~
「ま、まずいぞ……これ……は、ねむ………うた……」
アッカがよろめいてその場に倒れてしまった。
しまった! 眠らされた!
「さあ、今のうちだ、モージャ!」
雑な名前だなと思ったが、もじゃもじゃはムチみたいなものを出して、ばしばし寝ているアッカを叩く。
ひどい! だけど、これもエレメンタルバトルなのだ。
「どうしよう……アッカ、早く起きて……」
けど、そんなことを願っている間にアッカがどんどん傷つけられていく。
もう見てられない!
「戻れ、アッカ! 代わりにキングカープ!」
私は一度アッカの実体化を解いて、キングカープを出した。
ただキングカープは草系との相性が明らかに悪そうだった。
あっ、これ、一撃でやられるんじゃ……。
「ははははは! キングカープなら眠らせるまでもないな! モージャ、水分を吸い取ってやれ!」
もじゃもじゃの触手みたいなムチをキングカープは避ける。
おっ、意外と機敏だぞ!
でも逆に言えば避けるぐらいしか生き残る道がないんだよな……。
このままじゃいずれやられる……。
キングカープはそのまま攻撃を回避し続けて、滝のほうに向かっていった。
まさか、滝を登って逃げるのか?
もじゃもじゃも滝に突っこむのは嫌なのか、遠距離からどうにかムチを当てようとしている。
これ、逆転の芽はあるのかな……。
「モージャ、放っておけ。そのうち、力尽きて降りてくるだろう」
たしかに滝を登りきるなんて無理だよな……。
しかし、キングカープは滝の中を強引に登っていく。
少し流れに負けて落ちてもまた努力して、さっきより上に行く。
これ、登り切れるのでは!?
「いけ! キングカープ!」
ついに私は手を握り締めて応援していた。
そして、キングカープがついに滝のてっぺんにまで登った時――
キングカープがピカーッと発光しだした!
次回、キングカープがまさかの変身です。