2 悪魔幼女ゲット(合法)
出オチだけど、やれるだけやります!
このキングカープっていうのはどう扱えばいいんだろう。
<キングカープを使用しますか? はい・いいえ>
また、スマホに表示が出たぞ。
ためしに、「はい」にしてみるか。
魚が私の前に出現した。
「あっ、魚だ。いや、そりゃそうか。でも、ここ、陸地なんだけど……」
しかし、その魚はなぜか空中――といっても足下の低いところだけど――を泳いでいる。普通の魚ではないらしい。そっか、この子はエレメンタルなんだな。
すると、そこに通りかかった少年が「あっ」という声を出して、キングカープに視線を送った。
「すごいや! お姉ちゃん、精霊使いなんだ!」
「え……そういうことになるのかな……。君はこの子、見えるの?」
「うん、キングカープっていう、いろんなところを泳いでるエレメンタルだよ。どっちかというと水辺によくいるんだけど」
ああ、井戸の横にいたな。
せっかくだし、この少年にいろいろと聞こう。
「精霊使いって、こういうのを飼ってる人のこと?」
「そうだよ。精霊使いは精霊にバトルをさせて、それで精霊使いを倒すんだ。そうすると、相手から賞金をもらえるの。冒険者パーティーに所属してない精霊使いはそれでごはんを食べてるんだよ」
マジか。こういうの、飼ってる奴がたくさんいるのか。
完全にゲームと同じだな。けど、そうすると……。
「このキングカープっていう子は、その……弱いよね……?」
「ぶっちゃけ、あまり強くないよ。あと、けっこういるから、いつのまにかゲットして精霊使いになっちゃう人もいる」
「どういうこと? 無意識に仲間にすることなんてありえるの?」
私の質問が頓珍漢だったのか、逆に少年が不思議な顔をした。
「だって、エレメンタルは人間に捕まえられるまでは目に見えない存在だから、狙って捕まえるのは難しいでしょ。有名な精霊使いでもどこにいるか探すのは容易じゃないんだから」
あれ? ということは、私がスマホで発見したのって一種の反則技なのか……。
よし、このスマホでできるだけエレメンタルを増やそう。ここがどういう世界かまだわからないけど、天国ではないらしいし、強くなったほうがいい。
「ちなみに、エレメンタルはどういうところにいるのかな?」
「お姉ちゃん、初心者なの? 精霊使いにしては初歩的なことばかり聞いてくるけど……」
けげんな顔をしながらも少年は教えてくれた。
「人間が多いところに精霊もふらふらやってくる傾向があるそうだよ。あと、神殿とか聖なる場所にもよく出るらしいね。何もない原っぱとかには、全然出ないね」
そこらへんもゲームに準じてるな。
「ありがとう。参考になったよ」
私は少年にお礼を言って、もう少し町をぶらつくことにした。
足下をキングカープが泳いでいる。ずっと、この子を出すのもどうかと思うし、戻しておくか。
<キングカープを戻しますか? はい・いいえ>
やっぱりこういう選択肢が出てきたな。さあ、戻れ。
キングカープは消えた。画面は所有エレメンタル一覧に変わる。
<キングカープ 1>
よしよし、だいぶ意味がわかってきたぞ。
私は町の中をスマホを見ながら歩いていった。
人通りも日本ほど多くないし、車も牛に引かれてる荷車ぐらいしかないから怖くない!
けど、あんまりエレメンタルいないな……。
ううむ、強いエレメンタルを見つけないと、いろいろと困るのだけど。
ずばり、この世界のお金がないのだ。
食べ物も買えないし、宿にも泊まれない。それは困る……。
そして、町をぶらついてたら、ヨーロッパの聖堂みたいなものが見えてきた。
宗教施設はいる可能性が高いぞ!
しかし、寺院らしき建物の前にこんな看板があった。
「精霊使いの皆様へ。寺院内でのエレメンタル探しは参拝者の方のご迷惑になりますので、ご遠慮ください」
げっ、これも日本と同じじゃないか……。
逆に言うと、この書き方は中にエレメンタルがいる可能性が高いということだ。
よし、遠慮して入ろう。
どうせ、誰もスマホでエレメンタルを探してると認識なんてしないんだから、ばれないはずだ。
そうっと、頭を下げながら堂内に入ると、スマホをかざす。
すると、参拝者が座る椅子で寝ている子がいた。見た目は10歳ぐらいの女の子だ。こんなところで寝るとは罰当たりだと思ったが、お前が言うな感がすごい。
でも、なんか黒い翼が生えてるぞ。もしかして、エレメンタルか?
そうっと近づいてみる。
<アークデーモンをゲットしますか? はい・いいえ>
やっぱりエレメンタルらしいぞ。
よし、参拝者も今はほかにいないみたいだし、タッチしてみるか。
ぽんと手を置いた。
<アークデーモンをゲットしました!>
よし! 捕まえた!
ここでエレメンタルを出すのはまずいし、寺院の外に出てからアークデーモンを出現させた。
「わわわっ! なんで人間に捕まったのじゃ! 寺院ではエレメンタル捕獲禁止のはずじゃぞ! ずるいぞ!」
エレメンタルに文句を言われた。
「まあまあ、ゲットできたってことはルール上はOKということでしょ。あれ、あなた、しゃべれるの?」
「わらわはエレメンタルといっても上級精霊じゃぞ。国によっては恐ろしい悪魔と見なされてすらおるんじゃ。言葉をしゃべるぐらいできて当然じゃろう!」
「そうなんだ、見た目は悪魔みたいな翼の生えた幼女だけど」
「悪魔みたいなのではなく、悪魔そのものなのじゃー!」
おいおい、すごくかわいいぞ、この子。
本当にかわいいので、ぎゅっと抱きついてみた。
「わーっ! 何をするのじゃ! エレメンタル虐待じゃー!」
「私、こういう妹ほしかったの」
「わらわは人間なんて低俗な存在の妹にはならんのじゃー!」
「照れちゃって、かわいいな~」
「この小娘、人の話を聞いておらんな……」
やっぱり、この世界は天国かもしれない。