11 伝説のエレメンタル、ナンチューの逆襲
「くそっ! ボクはこれでもドラゴンの騎士なんだ! こんなところで屈してたまるか!」
傷ついたドラコは意地のようにレッド・ドラゴンに向かっていくが、その都度はじき返される。
起死回生を狙ったデストロイ・ビームもレッド・ドラゴンに回避される始末。
「君のエレメンタルの攻撃は大仰すぎて次に何が来るかすぐにわかってしまうのだよ。だから、かわすのは簡単だね」
タジルが涼しい顔で言う。くそっ! 明らかな悪役に何もできないだなんて……。
「もう、いいだろう。負けを認めて、そのエレメンタルをこっちによこしたまえ。レッド・ドラゴン級ではないが、決して弱いエレメンタルではない。使い道はいくらでもある」
「使うって何に使うのよ……?」
「洗脳したうえで――」
「嫌だ!」
なんで、私の仲間を洗脳されないといけないんだ!
「君は何か勘違いしているようだな。エレメンタルは人間に利用されるために存在しているのだよ。でなければエレメンタルに触れるだけで使役できる理由が説明できないだろう。神は人間にエレメンタルを操る力を授けてくださったのだよ」
「だからって、どうして洗脳だなんて方法をとるのよ! もっと仲良くなって戦ってもらえばいいじゃん!」
「君は椅子の足が低かったら、長くなるように修理してもらうだろう? それと同じことだ。道具は人間が使いやすいようにいじるものさ」
もう、話は全く通じないな。
この男を絶対に許さない。
けど、その力が私にはない。
どうすれば――
「なあ、ハルカよ。この施設にエレメンタルはおらんのか?」
隣にいたアッカが言った。
「エレメンタルって、敵が使っているのがいくらでもいるでしょ?」
「そうではない。まだ連中が見つけてないエレメンタルはおらんのか?」
はっとした。
そうだ。私はスマホを使えば、目に見えないエレメンタルを見つけ出せる!
すぐに操作モードを切り替える。
そして、私は発見する。
部屋の隅でふるえている一人のエレメンタルを。
ふるえているけれど、動物的なエレメンタルとは明らかに違う。はっきりと、タジルのほうを怯えたように見ている。それに姿も聖女のような白い布を羽織った姿だった。
もしかして、あれがタジルが魔法で作ったという最強のエレメンタルなのではないか?
知能が高ければ、タジルから逃げようとするだろうし。
「ドラコ! もう少しだけ粘って! 勝たなくていい! 粘るだけでいいから!」
「姫の命令に逆らうことはありえまえん! 必ず順守いたします!」
「ふん! 少し時間を稼いだところで何ができる!?」
私は走る。あのエレメンタルのところに。
「なんだ? そんなところには何もないぞ? 地の利が不利だとでも感じたか?」
よし、タジルは私の行動を理解していない。
私はそのエレメンタルの少女の前にまでやってきた。
「あのね、私のエレメンタルが、ううん、すべてのエレメンタルが危機なの。あなたの力を貸してくれない?」
そのエレメンタルは不思議な顔をしている。
なにせ人間が自分に気付いて話しかけているのだ。
しかも、一方的に捕らえるのではなく頼みごとをしているのだ。
「お願い! 私は悪いようにはしないから!」
「ついに幻覚でも見えはじめたか。それもしょうがないわな」
なんとでも言ってくれ。たしかにエレメンタルが見えるのなら頼む必要などなく、捕まえればいいと思うだろうな。
だけど、それじゃダメなのだ。
だって、エレメンタルは私にとって友達、あるいはそれ以上の存在なのだから。
迷っていたエレメンタルはやがてゆっくりとうなずいた。
「ありがとう! 君に決めた!」
私はそのエレメンタルにタッチする。
私の『エレメンタルGO』が新しいエレメンタルを表示する。
カープドラゴンep548
アークデーモンep374
ナンチュー ep999
強すぎる! やっぱりこの子は最強のエレメンタルだ!
「ドラコ、下がっていいよ! よく頑張ったね!」
「ですが、アッカではこのドラゴンには……」
「新しい仲間が増えたの! 行け! ナンチュー!」
ドラコに代わって、そこに現れたのは白い衣をまとった少女。
とてもエレメンタルには見えない。
「な、なんだ、そのエレメンタルは? 見たこともないぞ……」
当然エレメンタルに詳しいだろうタジルも首をかしげる。
そっか、あなた、自分が作ったエレメンタルもわからないんだね。
「あなたはある意味、パパ……。だけど、わたしはパパを倒さないといけない……。そういう運命……」
そのエレメンタルの少女が囁くように言う。
「私の名前はナンチュー……最強のエレメンタル……」
タジルが驚愕した。
「なっ……ナンチューをお前は捕まえたというのか……」
「そうだよ、その子はあなたの元から逃げ出したりせずにずっと、父親が何をしているかを見ていたの。本当にけなげな子だよね……」
もしかしたら、ナンチューは父親が自分を愛してくれるかもしれないと、待っていたのかもしれない。でも、それはかなわなかった。
子供を虐待した親に天罰を与えてやる。
「ナンチュー、敵をやっつけて!」
「わかった、ママ……」
ナンチューは私のことをママと呼んだ。