パンの種
「ミ~ユ!パン作ろっか!」
「パン?」
私がぼうっとテレビ画面を見ていると、
ツルヤがいつも以上の満面の笑みで帰ってきた。
「そうっ。もしかして食べたことない?
出来立てはやわらかくて美味しいんだよ!」
ツルヤが言うのなら間違いない。
早速作ってみよう。
「まず、パン種をつくるため
強力粉、砂糖、塩、ドライイースト、ぬるま湯を入れま~す」
私はツルヤの言うとおりに袋から次々に取り出しツルヤに渡した。
(パン種?パンは木になるのかな…?)
「ありがと~。
軽量カップも取って貰っていいかな?」
こくんと頷き戸棚から、
メモリの書かれているカップを取ってツルヤに渡した。
「よし、こねるよ~。」
材料を入れ終わったツルヤは直接手でこね始めた。
…楽しそう!
「本当に生地になるのかな~。ねぇ、ミユ…!?
あれっ、ミユ!?どこ?!」
「イス…」
「あ、ああ。そっちにいたの
って危ないよ?気をつけてね」
ツルヤがいるカウンターからじゃ、
私がイスをとりに行った姿が見えなかったようだ。
「このくらい平気。」
イスをツルヤの隣において、
そのイスに乗ってボウルを眺めた。
「ん?やってみる?」
私がその言葉に激しく頷くと、
ツルヤは嬉しそうに笑ってボウルを私の方に置いてくれた。
「どーお?」
「おもちの水分多いばーじょん!」
「そっかそっかぁ~!」
…五分くらい経ってさすがにあきた。
腕も疲れた。だって意外と重いんだもん。
「あとは俺がやるから。ミユは…テレビ見てて!」
「…わかった!」
~~~~~
「パン種できた!」
「植える場所も確保!」
ツルヤが作ったもちもちのパンの種を私はお庭に植えた。
「水をあげよ~」
「お~!」
パンを植えた辺りの土に水をあげ、
しばらくまっているとかわいい二つの芽が生えた。
「ツルヤ!芽が出たよ!」
「うん。出たね~。」
「早くできないかなぁ~!」
パンの実がなるのが楽しみだ。
不思議と体も軽いし、今なら何でもできる気がする。
~~~~~
チンッ
オーブンのなる音に私は目が覚めた。
…体が重い。やっぱりこっちが現実だった。
(良い匂いがする…)
「ミ~ユ!できたよ~!」
「…良い匂い……。」
「おっ。よかった~。」
手のひらサイズ六個の丸い形のものから
良い匂いが香ってくる。
香ばしいような、甘いような。
「熱いからね。
キッチンペーパーに挟んで、気をつけて食べてね」
ツルヤの言葉に頷き、
渡されたキッチンペーパーにパンを挟み。
熱を冷ますため息を吹きかてから一口食べてみた。
「はふい…」
私が思わずそういうとツルヤがあっちの方で、
転がってる気がするけどそれは気にしないで置く。
(外はちょっと硬いけど、なかはふわふわしてて、
何も入ってないのにご飯みたいに甘い…)
「美味しい?」
「うん!」
「そう。よかったぁ~」
ツルヤは私に優しい笑顔を向けてから、
残り五個のうちのひとつを食べた。
家の庭ではかわいい二つの芽が生えていた。