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けだもの裁判

作者: 出島優

とある裁判の話です。

原告は、ライオンを中心とした肉食の哺乳類たちでした。

ライオンたちの主張はこうでした。

「人間は”けだもの”という言葉を使う。「人間として情味のない者」、つまり殺しや拷問などひどいことをやった者をそう呼ぶと聞いた。

だが、”けだもの”という言葉には、「 全身に毛が生え、4足で歩く哺乳動物」という私たちをさす意味もあり、むしろそっちが元の意味だそうじゃないか。私たちを人間と同じ言葉で表現するというのは、私たちから見れば立派な侮辱である。よって我々は、名誉棄損で人間を訴える。」


裁判にはかなりの時間がかかりました。まず裁判は、裁判官や弁護士が人間では不公平になるので、緊急措置としてオランウータンとテングザルとワオキツネザルが各役職に就くことになりました。

そして人間は非常に困りました。ライオンたちの要求は、指定した土地の所有権と主権、自治権の獲得、要は国を一つよこせということだったのです。

当然、今までではありえない裁判だったので、人間側は頭を抱えました。法律は人間が作ったものなので、今回の裁判では使えないことになっていました。つまり、話術だけで裁判官のサルたちを納得させなければいけないのです。人間の弁護士たちは、みんな匙を投げてしまいました。


そしてとうとう裁判の日がきました。

口火を切ったのは人間側でした。

「なぜあなたたちは人間と同じ表現をされるのが嫌なのですか?」

「当然、人間は悪い生き物だからだ。私利私欲のためにたくさんの生物を殺し、この地球を汚してきた。そんな生き物がどうして好かれると思う?というかまずお前たちは”けだもの”を「ひどいことをした人」という意味で使っているだろ。私たちがいつひどいことをしたんだ。」

「それは...あなたたちだって生き物を殺すじゃないですか。」

「私たちが殺すのは、自分で食べる分だけだ。そして食べ残したものもすべて自然に帰る。お前たちのようにむやみやたらと殺したりはしていない。きっちり、私たちの生きる糧になってくれた命に敬意を払っている。お前たちはどうだ。服にするため殺した私たちの同胞を、道路を引くために焼き尽くした草たちを、思い出して慈しんだことがあるか?」

「........」


人間は追いつめられてしまいました。人間が生態系と環境を破壊してきたのは事実です。そして、実際に「ひどいことをする」という意味を含んだ、いわば蔑称で呼ばれたら、たとえ相手が獣だとしても、どう思うかを考えてこれなかったのも事実です。人間はあきらめようと思いました。


すると、傍聴席から手が挙がりました。

手を挙げたのは、一匹の若いガゼルでした。ガゼルは、不思議そうな顔をしながら、でも目に涙を浮かべてこういいました。


「僕のお父さんは1年前、ライオンさんに殺されました。その時、僕とお母さんは悲しくて、一晩中泣きました。そしてその3か月後、お母さんも殺されました。今度は人間からでした。みつりょうしゃっていう人らしいです。僕は悲しくて、また一晩中泣きました。

殺される側から見れば、敬意とか慈しみとか、どうでもいいんです。結局殺されて、結局悲しいんだから。そんなことを話してられるのは、きっとあなたたちが殺される側ではないからです。」



「いつだって、道徳を語るのは、強いものだけなんです。」



裁判は、無効になりました。ライオンたちは元住んでいた場所へ帰り、人間側も、裁判所に散らかった抜け毛とフンをかたずけたら、また通常営業を始めました。すべて、元通りになりました。

きっと彼らは、今日もどこかで何かを殺しているのでしょう。

評価、感想いただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上手いですね。人間側と動物側の行動原理って結局、それぞれの都合があって読み手としてはどちらが「自分としては共感できるのか」っていう二極化で物語を読んでしまうのですけれど、そんな意表を突くみ…
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