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永宮未完 挑戦者編  作者: タカセ
剣士と探索者の街
58/119

剣士と初めての痛み

 港湾都市ロウガ。

 大陸中央部を源流とし、東部海へとトランド大陸を貫く大河コウリュウの河口と、緩い曲線を描く半三日月状の半島の根元に位置する、その大都市は、古来より国際貿易港として知られている。

 半島を狼の牙に見立て、コウリュウをその狼の口に例えたという逸話が残っている暗黒時代に滅亡した東方王国時代の名称『狼牙』を今に受け継ぐ。

 海洋貿易、河川貿易の拠点であるという事以外にも、ロウガを表す2つの特徴がある。

 1つはこの街が、近郊に『始まりの宮』と呼ばれる探索者になるための特別迷宮を持ち、数多くの若者が、この街で探索者となり、長く拠点都市として選ぶ探索者の街。

 もう一つは、かつての『狼牙』は暗黒時代の始まりを告げる火龍王が最初に襲来した都市であり、そして暗黒時代の終焉である火龍王が討伐された地でもあった事だ。

 ロウガ近郊の地底カルデラ湖。

 龍王湖の名称で知られる赤龍王が没した地こそが、大陸各地で半年に一度。僅か三日間だけ出現する探索者となる為の試練が与えられる、永宮未完特別区『始まりの宮』の発生地点の1つであった。

 











「ルディアちゃん。次の依頼書とレシピ。抽出をたのむよ」


 

 長い白髪をフードに押し込んだ老婆の皺だらけの手が、持ち込まれたばかりの依頼書と一緒にレシピを差し出す

 御年90過ぎ。お伽噺の老魔女といった雰囲気のある未だ現役薬師である老店長フォーリア・リズンの特製レシピを見て、バイト薬師ルディア・タートキャスは頭を悩ませる。



「このレシピだとさすがに火が足りなくて同時進行ができませんけど、どうしますか?」  



 簡易用調合ランプまで動員したテーブルの上の惨状を再確認し、これ以上は場所が取れないと途方に暮れる。

 薬剤で所々焼けたりシミが付いた年季の入ったテーブルの上には、これでもかとばかりに数十個以上のフラスコやら、ビーカーが並べられ、火に掛けられている。

 ふつふつと煮立つビーカーの中では様々な触媒が入れられて成分を抽出されていたり、また別の密閉されたフラスコ内では抽出した成分を混ぜ合わせたりと、せわしない事この上ない。

 普段ならば薬の誤調合や、取り違いが起きかねないこんな無茶はルディアはしないのだが、今ばかりは背に腹は代えられない。

 ロウガの街は迷宮『永宮未完』の下級迷宮と一部の特別区を除いて侵入が不可能となる自然閉鎖期と呼ばれるこの時期がかき入れ時となる

 始まりの宮前のこの時期は、迷宮へと潜れなくなった探索者達の大半が、街へと帰り、装備を揃え直したり、新たなパーティメンバーを募ったり、解散したりする改変期。

 普段はフォーリア1人でもぼちぼちと回せる下町の小さな魔術薬屋も、バイト助手が必要となるほどに注文が殺到し、てんてこ舞いといったところだ。



「あぁ。それじゃ4と14番。あと18から20番までの瓶を一度下ろして冷却処理に回そうかねぇ。もう一度抽出するのに一手間が必要になるけど、その辺りの薬は一度冷ましてからの方が不純物が沈殿しやすくなって薬効が良くなるんよぉ」



 分厚い眼鏡をクイッとあげてテーブルの上を見回したフォーリアが、それぞれのフラスコやビーカー内の状態を見て、火から下ろせる状態の物を素早く判断して指示する。

 


「はい。4,14、18から20ですね。冷却は東方式の水冷でいいでしょうか?」



 フォーリアの処方はロウガ伝来の東方式。

 一方でルディアの基礎は生まれ故郷の氷大陸式。

 年中雪に覆われたあの地では冷却といえば、火から外した後は逆に下がりすぎないように布などでくるんだりしてあら熱を徐々に下げていくが、温暖な気候で水量が豊富なロウガでは水冷式が主となりその温度管理もまた違ってくる。

 


「そうだねぇ。水冷で5分ごとに3℃下げていってもらえるかい。その後は4、18は35℃。それ以外は28℃で安定させておくれ」



 この辺りの判断や、温度帯の見極めはまだルディアには出来無い芸当。

 フォーリアの指示に従い、瓶を下ろして中身を冷却用容器に移してから、水槽を改良した魔具へと薬瓶を入れて、銅板に魔術文字を刻み込まれた札を入れて魔具に魔力を通す。

 火魔術と水魔術の混合魔法陣がうっすらと輝き稼働を始める。

古びて年季の入った水槽魔具はあり合わせの材料で作られているが、問題無く稼働しているさまに、ルディアは呆れ混じりに感心させられる。

 この魔具はルディアが、トランド大陸中央部カンナビスの街で一年ほど前に出会った魔導技師ウォーギン・ザナドールの作だ。



「しかしこの魔具はよく出来てますね。これで学生時代の試作品っていうんだから……要領よくやってれば今頃中央でバリバリに活躍してたでしょうに」



 ロウガで暮らしていた学生時代に作ったそうだが、作られて20年以上経っても現役な辺り、さすがは自他共に認める天才魔導技師といったところだが、現在その天才魔導技師は、カンナビス事件の余波で地元に戻った今も魔具業界から絶賛干され中。

 カンナビスで別れた後、とある目的が出来て大陸各地を旅をしてきたルディアと違い、ウォーギンは生まれ故郷であるロウガの街に戻っていた。

 ロウガは初めてのルディアは、色々と用事があったのでウォーギンに連絡を取ったのだが、再会して開口一番『飯奢れ。金が無い』だから目も当てられない。



「要領よくやれってのはギン坊は無理だろうね。昔気質の職人気質だから、足の引っ張り合いが日常茶飯事の中央じゃ、やってけないだろうってのは、知ってる連中はまぁ予想してたよ」



 ウォーギンを昔から知っているというフォーリアは笑ってそう断言し、ルディアも納得せざる得ない。

 良い物を作るが納得しなければ、どれだけ売れそうでも没にする。

 基本的に商売っ気が無い上に、致命的に世渡りベタなのだ。

 ウォーギンが干されている理由も、あの事件の後にカンナビスゴーレムに関する研究が、管理協会によって禁止されたことに由来する。

 禁止されたからといっても、物が物。

 伝説のゴーレム生成魔法陣から得られる成果を狙い、水面下で接触してくる魔導技師のお偉いさんもいたらしい。

 そんな不届き者に対してウォーギンはにべもなく断っていた。

 曰くあれは人の手に負えない。そんなもんよりもっとまともな物を研究したほうがよっぽど建設的だと。

 ウォーギンがいわんとするところは、実際にあのゴーレムに襲われたルディアにも理解出来るし、全面的に賛同する。

 だが実際にあれを目撃していないので納得しない連中も多く、しつこく勧誘をされたウォーギンはついに面倒になって、全面的に管理協会に投げてしまったのだ。

 山ほどの証拠と合わせた実名付きの告発という形で。

 協会から禁止された研究に手を出そうとしていたその魔導技師や所属する工房には、所属国や魔導技術士ギルドから厳重注意や莫大な罰則金を課せられたが、その怨みは告発者であるウォーギンへと返って来ていた。

 大抵の魔具は製作にしろ修理にしろ色々と特別な工具や材料もいる上に、魔具が持つ危険性故に流通にも制限がかかり、各国から委託された大陸全土にわたる魔導技術士ギルドが品質保持や安全管理を行っている。

 そんな強大なギルド内の一部とはいえ、有力者を敵に回したウォーギンには圧力が掛けられ、材料、機具が入手できず、ギルドを通した仕事も来ずという困窮状態。

 フォーリアの店のような昔からの知り合いの伝手で細々とした魔具の修理で食いつないでる現状だ。

 普通なら魔導技師としての将来が完全に閉ざされたと悲観しよう物だが、幸いというべきか本人が『なんとかなんだろと』あまり深刻で無いのが唯一の救いだろうか。

  

  

「今日仕事明けに会う予定なんで夕飯でも奢っておきます。ここバイトの紹介料と情報収集代代わりに」 



 死なれても困るので、週一か二回くらいでルディアは、ウォーギンに食事を奢っている。

 フォーリアの店を紹介してくれたのは、他ならぬウォーギンだ。

 現場で磨かれたフォーリアの対応力を間近で実地で学べる上に、賃金までもらえるんだから、ルディアは感謝の一言というのも大きいが、ある人物の情報を依頼している手間賃という一面もある。

 


「あぁ。ルディアちゃん待ち人さんいたんだったね。早く見つかると良いね」



「……待ち人っていうか、とりあえずぶん殴りたい娘です」



 どうにも誤解されているような気がするが、再会を望んでいるのは間違いない。

 ルディアがウォーギンに頼んだ情報収集。

 それは1年前に生死不明でルディアの前から姿を消した1人の化け物風美少女。

 ケイスに関する噂話だった。
















「ロウガから一週間ほど歩いた所にあるカノッサ峡谷。ここであいつらしいのが目撃されている。グリフォンに襲われた商隊の前に忽然と現れた黒髪のガキがいて、そのまま剣をグリフォンにぶっさして谷底に一緒に落ちていったらしい」



 安くて量がある事が売りの大衆酒場。

 始まりの宮前で街に戻っている探索者や、仕事帰りの労働者たちで混雑した店の奥まった席で、テーブルの上に広げた地図の一点をウォーギンが指さす。

 カノッサ峡谷には大河コウリュウに繋がる支流の1つが流れ込んでいる川があり、山道沿いの古い街道が通っている。

 今は通り易い新道も出来ているが、山裾を大回りして遠回りになるために、山賊や魔獣等が出没して、多少危険だが、近道狙いや足の速い荷を運ぶ商人などがよく使っている道になる。

 


「ここ? あの馬鹿。なんで北の端から南に行ってるのよ」



 ロウガ近隣国地図に新しい目撃情報を書き込んだルディアは頭を抱える。

 行動が読めない。その一言に尽きる。

 カノッサ峡谷前に、ケイスらしき『傲岸不遜で大剣を振るう化け物じみた絶世の美少女』が目撃されたのは、この地図で北にあるヘイズライ湿原で10日ほど前。

 その湿原で真夜中に狩りをしていた猟師の一団が、のたうち苦しむ大蛇を発見しおそるおそる近づいてみると、その腹から剣が突き出され中から消化液と血に塗れた少女が出て来たという怪談じみた噂だ。

 呆気にとられている猟師一団にその化け物は『卵だけはいるからもらっていくが、後はくれてやる』とだけ言い残して走り去ってしまったとのこと

 ヘイズライ湿原から、ロウガまでなら早馬なら四日もかからない位置にある。

 とうの昔にロウガにたどり着き、あの傍若無人な性格から騒ぎの十や二十は起こしていてもおかしくないはずだが、今のところその気配は無く、距離的にはむしろ遠ざかっている有様だ。

 無論、ここ半年くらいで東部地域で目撃されたというか、眉唾な噂話にあがるようになった謎の少女。

 それがケイスだという前提の話ではあるが。

 

   

「さぁな。ただ距離を考えると迷走しているっていうより目的があって移動してる感じだけどな」



 頭を抱え込むルディアを尻目に、ウォーギンは稀少な栄養補給の機会だとばかりに、頼んだ料理をガツガツと食べている。

 ウォーギンの言う通り、目撃された日数の開きを考えれば、ヘイズライからカノッサまで最短距離でも通らないととてもたどり着けるものではない。



「でもその前の前が、ロウガまであと1日の中央旧街道の宿場町でしょうが。なにやってんのよ、ほんとにあの馬鹿だけは」

 


「しかしまぁルディア。お前さんも執念深いというか律儀だな。一応あいつは死んだって話なんだがな」



「あんたも信じてないでしょ。あの馬鹿がそう簡単に死ぬなんて……第一よ」



 皮肉げに笑うウォーギンの顔を指さし、ルディアはあり得ないと眉をしかめ、テーブルの上の蒸留酒のグラスを手に取ると、怒りと共に一気に流し飲んだ。

 傍若無人で、常識が無く、心身共に異常な化け物を、ケイスを、ルディアはこの一年追い続けていた。

 ゴーレムと死闘を繰り広げ、深手を負って意識を戻さず心配していたかと思えば、目を覚ますと同時に、揉め事を起こして、止めに入ろうとしたルディアは気絶させられ、気づいたときには、遺言として金貨を残して死亡しました。

 ゴーレムに乗っ取られていたらしく、街中で無差別に暴れたり、偽物が多数出現したり、さらには上級探索者竜獣翁が出張ってきました。

 その竜獣翁の炎に焼かれ骨すら残さず死んでしまったと……普通なら死んでいる。死を疑わないだろう。

 ルディアも最初は信じた。あれだけ人に借りを作らせておいて、勝手に死ぬなんてと柄にも無く落ち込みもした。

 しかし、しかしだ……それもカンナビスから離れて一週間の短い間の話。

 

 

「この目撃談の多さはなんなのよって話よ! あちらこちらで騒ぎ起こしてる黒髪の子供って明らかにあの子でしょうが!」 



 ボイド達やファンリアキャラバンの者達と別れ、カンナビスの街から旅立ったルディアが目指したのは東だった。

 工房に滴した水や土地を探すという漠然とした目的以外、特にこれといった目的地も無かったので、ケイスが生前に向かっていると聞かされたロウガを代わりに見てやろうかという程度の軽い感傷。

 しかしそれが失敗だった。大失敗だった。


 山の中で大熊を殴り倒している子供がいた。


 大木に道を塞がれて難儀していたら、黒髪の少女が偶然に通りかかり、大剣でばらばらに斬って道を空けた。


 旅人の少女に街道沿いに出現する山賊団に困っていると誰かがこぼしたら、2、3日後にその少女が戻ってきて、山賊頭の首を置いていった。


 出てくるわ出てくるわの眉唾な信じがたいエピソードの数々が、すれ違った旅人や、立ち寄る町村で噂として流れているのだ。

 酔っ払いの戯言か、大げさな与太話だと、普通は思うような荒唐無稽な話。

 だがケイス本人を知るルディアには笑えない。

 あれと同じ思考と戦闘能力を持った人間がこの世に2人もいてたまるか。

 とりあえずあれこれと募っている文句を言ってやろうと思い、その噂を追って追跡の旅をはじめたのだが、



「なんで私の方が先にロウガに着いてるのよ! どこで油を売ってるのよあの馬鹿!?」


 

地図に書き込んだ与太話めいた情報のどこまでが真実かは判らないが、噂話の発生場所と時期を結んだ線が描く、あまりに無軌道ぶりな一本線をルディアは忌々しそうに睨み付けた。

 まるで幼児が適当に描いたかのようなあちらにいったかと思えばこちらにと主体性が無く、何度か逆走している部分すらある。

 その所為で噂は多いがケイス本人をルディアは確認が出来たことは一度も無く、さらにはあちらこちらで出てくる噂を追うという非効率な追跡のせいで、禄に稼げもせず旅資金さえ怪しくなる始末だ。

 仕方なくケイスの目的地であるロウガに先回りしたはいいが、それもすでに三ヶ月前の話。

 通常ならカンナビスから、ロウガまでは長旅とはいえ、ゆったりしても4ヶ月もあれば着く。

 それなのに一年近くが経ってもまだケイスはロウガには姿を見せていなかった。


















「……くっ」



 宵闇に覆われた暗い森の中。

 街道を離れ木々の間を疾走するケイスの姿が有った。

 木々を跳び移る度に痛みに顔をしかめケイスが押さえる脇腹は、服が切り裂かれどす黒い血で染まっている。 

 肩に刺さるのは痺れ薬が塗られた毒矢。

 筋肉で傷口を締めているから出血も最小量で、毒も全身には回っていないが、それ以外にも無数の手傷を負った満身創痍の状態だ。

 木を蹴る力は弱く、フラフラと足元もおぼつかない。

 地上を走った方が楽だが、それでは血痕を発見されやすい。

 逃げるのは性に合わないが、そうも言っていられない。



『娘。どうする? 追っ手の気配は今のところは無いが、あやつらはお前が向かうロウガの街を拠点とする探索者だったな。このまま街に向かうのは危険では無いか?』



「あんなのを探索者と呼ぶな! ぐっ……っ今の状態じゃまともに戦えない……腹痛が酷くてまともに闘気が作れない……宿場町に戻れないならば、ロウガに行って医師か、薬を手に入れるしかあるまい」



 ケイスが肩に担ぐ羽の剣に宿る龍王ラフォスは、末娘を気遣ってその重量を最大まで軽くしているが、それでもきついのかケイスの息は荒れ気味だ。

 全身の傷は酷いがこの程度ならケイスにとってはよくある怪我。

 十分に栄養と休養を取れば2、3日で支障は無くなる。

 だが問題はその化け物じみた回復力を発揮する為に必要な、肉体強化の力である闘気だ。

 ケイスは丹田と心臓の二重変換を持って膨大な闘気を生みだし、その戦闘能力を振るっている。

 だが今のケイスは生まれて初めて味わう類の腹部の鈍痛に身体をむしばまれ、丹田でまともに闘気を発生させることが出来ずにいた。

 心臓の方は無事だが、あちらは本来は魔力変換機能を司る器官。

 それを丹田から生み出した闘気をもって、無理矢理に機能を変えている。

 痛みに耐え何とか生み出した僅かな闘気は、全身強化に回しているので、心臓から闘気を生み出す量には到底足りていない。

 


「お爺様…………頭痛がする……呪詛の類いでも夕刻の戦闘で仕掛けられたのか」


 

 腹部や頭部に棍棒を叩きつけられたような激しい痛みと、ずっと続く針で刺されるような痛みに集中が続かない。

 夕刻の戦闘で相手は現役探索者という輩4人。

 狭い室内で不意を打った攻撃だから普段のケイスならば、その一瞬で片が付いていたはずだ。

 だが今日は勝手が違った。

 一番の手練れと見積もった一人目の首を撥ねたまでは良いが、そこで刺すような腹痛が始まり、攻撃を続けられず窮地に陥り、危うく返り討ちに遭うところだったくらいだ。

 


『お前が斬り殺した者を含めて呪師の類いはいなかったな。純粋に毒か、日頃の不摂生がたったのではないか。せめて火は通せと何度も言ったであろう』



 血の気が多いせいか、獣じみているせいかどちらか判らないが、ケイスの普段の食生活が狩った獲物をその場で食べるという野性的な事が要因ではないかとラフォスは指摘する。

  


「今まで平気だっ……ぐっ一度降りる……お爺様。ロウガは……東はどちらだ」



 言葉を交わすのもきつくなってきたケイスは、樹上移動を止めて地上へと降り立つと片膝をついて息を整える。

 身体が重い。頭も痛い。関節が軋み、吐き気すら覚えてくる。

 全身から冷たい汗が噴き出すが、ケイスの目に闘志は消えていない。

 あのような巫山戯た輩に、自身が目指す道を汚すような輩共に、探索者を名乗らせていてたまるか。

まずは治療だ。その後に残った連中を全員始末してやる。



『そのまま真っ直ぐに進め。今のお前でも日が昇るまでにはたどり着けるであろう』



 ラフォスを杖代わりにして、ケイスはゆっくりと山道を進む。

 戦闘を行ったのが、あと1日でロウガにつける宿場町だったから、まだ良かった。

 自分の身体に起きた異常を、生まれて初めて体験する痛みに苛まれながらも、ケイスは自分は運が良いと無理矢理に思い込み、なんとか気力を振り絞っていた。

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