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永宮未完 挑戦者編  作者: タカセ
剣士と決闘
42/119

弱肉強食③

 狙いを維持できる最大限まで加重。

 羽の剣がケイスの闘気を貪り喰らい、牙を剥き出す。

 硬質化し超重量を纏った刃が空気を切り裂き、風切り音を奏でる。

 肉体が破綻する紙一重ギリギリまで酷使した突きが、ゴーレムの胸部へと突き刺さる。



「がぁぁっ!」



 確かな手応えを感じたケイスはさらに闘気を送り込む。

 限界を超越した超重量に肘関節がきしみ、膝が崩れそうになるが、それは敵も同じ。

 刀身が生み出す加重が、石で出来たゴーレムの表面を力任せに押し切る。

 しかし低身長のケイスから巨大なゴーレムへと繰り出した突きは、絶対的な長さが足りない。

 表面装甲に食い込んだ部分は爪ほどの短さであり、押し切れたのは拳一本分の長さで、止まってしまう。

 ゴーレムからすればひっかき傷ほどの僅かな損傷。

 現にゴーレムは反撃してきたケイスを意にも止めず、足元の蜘蛛糸に絡め取れた石斧を捨て、己の腕より新しい石斧を分離させると、再度振り上げて、追撃の態勢をとろうとしている。  

 さらに重さを増すことも出来るが、これ以上の加重にはケイスの身が耐えられない。

 しかしそれだけの長さと深さがあれば、この剣士と剣には十分だ。

 


「重量解除!」



 右腕から送り込んでいた闘気へケイスは意思を込める。

 ケイスの意思に合わせ刹那の間もなく、羽の剣に込められた超重量が消失し、元通りの羽一枚の重さへと変化した。

 だが刀身は金剛石の堅さを保ちすらっと伸びたまま。

 ケイスの意思である斬り殺すという人刃一体の意思をその形で示す。

 剣士が望み、剣が答えた今、羽の剣が宿す能力を少しずつ掌握し始める。

 剣先をゴーレムの体内に残したまま、右手首の返しで柄を打ち上げる。

 突き上げていた刀身の向きが切っ先を支点とし、突き降ろす形へと、その重量変化を最大限に発揮する真逆の形へと変化する。

 だが短身のケイスから羽の剣の柄は頭上遥か高く、再加重をするには手が届かない。

 しかしケイスの左手には剣がある。剣士にとって己の肉体と変わらない剣がある。

 ゴーレムの攻撃によって四肢を掠め抉った無数の傷から流れ出る血が、左手に握った剣を赤黒く染めあげる。

 肉体である刀身があり、熱く滾る血が通うならば、それは既にケイスの腕その物。

 左手の剣をケイスは頭上高くへと突き上げる。

 突き上げた左手の剣の切っ先と羽の剣が柄が合わさり繋がった瞬間に、己の全てを喰らえとばかりに、熱く燃える丹田と心臓を無限に躍動させ全身全霊の力を絞り出し、闘気を最大まで高め剣達へと、己の腕へ送り込む。



『跪け! 石ころが!』



 ケイスの濃厚な闘気を受け、再度加重を始めた羽の剣が吠える。

 声なき剣のままに吠える。

 食らいついたゴーレムの身体を、その超重量で押し潰さんとばかりに吠える。

 力任せに石をたたき斬る破砕音という名の咆哮が轟く。

 ゴーレムの巨体を支える太い柱のような左脚部にヒビが入り膝から砕け折れ、ケイスの脳天を狙って振り下ろされた石斧は大きく狙いをそれ、ケイスの右手側に落ちて、石畳に突き刺さった。

 大岩と変わらない分厚く堅い胸部を、まるで泥沼のようにずぶりと突き刺さった羽の剣は柄元まで沈み込むだけでは飽き足らず、胸部から脇腹へと一気に突き抜ける。

 左足を砕かれたゴーレムが傾き負った深い傷がケイスの眼前へとさらけ出す。

 割り斬られた胸部の奥底に隠された空洞。そこには光を放ち躍動する心臓が、ゴーレムを動かす起動魔法陣が鎮座する。

 ゴーレムを動かす魔法陣は、物質に刻み込まれた実体型魔法陣では無く、魔力により生み出された仮想型魔法陣。

 実体型ならば器である物質を破壊すれば事足りるが、仮想型は魔力の固まり。

 実体を持たない魔力へと、魔力を纏わぬ剣で切り込んでも、素通りするだけでダメージを与えることは出来無い。

 魔力を持たず、捨てたケイスにとっては、破壊はかなわぬ敵。

 だがそれは数日前までの話。

 ケイスの手には切り札が、対魔術戦を考え、新たに手に入れた剣がある。

 剣こそ剣士にとっての力。

 ケイスは無手となった右腕で その新たな力を、剣を胸元から引き抜く。

 指間にそれぞれ一本ずつ短剣を携えつつ、柄元の留め金を指の筋肉だけでずらす。

 狙いはゴーレムの胴体に切り開いた大穴。

 右腕の一降りの勢いと、五指それぞれを精密に動かすことで、四本のナイフを寸分違わず、ゴーレムの胴体に開いた穴へと間髪入れず滑り込ませる。

 再度無手となった右手はそのまま振り降ろし、先ほど離した羽の剣へと。

 ゴーレムを斬り抜け込められた闘気を使い果たし初期重量に戻った羽の剣を中空で掴み、僅かな闘気を注いで適度な重さと硬質化させる。

 左右両腕に揃った両剣をケイスは己の眼前に並べ、いまだ全てを絡め取る蜘蛛糸の海が広がる足元へと剣を突き立てた。

 流れるような動作で反撃から防御へとケイスが移行した直後、天を割く様な轟音と共に爆発が起こり、ゴーレムの胴体に深々と開いた傷から石つぶてを伴う爆風が吹き荒れた。

















「何!? 今のなに!?」



 観客席で光球の群れを操りケイスに情報を送っていたセラは慌てふためき、突如爆音と共に濛々と舞い上がった爆風に包まれた闘技舞台中央を指さす。

 ルディアの手助けによって剣を受け取ったケイスが、二度目の石斧を流し反撃に出たところまでは見えていたが、その僅か1,2秒後には、ケイスとゴーレムの姿は舞い上がった分厚い噴煙の中に姿を消していた。



「俺が作った改良型ナイフか? あの馬鹿至近距離で使ったのか?」



 セラの横で戦いを見守っていたウォーギンも立ち上がり、驚愕の色で顔を染める。



「ウォーギンさん! ナイフって対魔術士専用とかっていってた奴のこと!?」



「あぁそうだ。あいつにはインディア砂鉄製の核に包んだ魔力吸収物質やら爆発性のある火龍薬なんかを詰め込んで、柄を吹き飛ばすと同時に周囲に撒き散らかして、魔術攻撃や結界の類いを無効化する仕掛けを施してあるんだが、ケイスの奴、自分も巻き込まれる至近距離で使いやがった」



 魔力を持たず魔術を使えないケイスの手持ち武装であれほどの爆発を引き起こせるとなれば、思い当たる物はケイスに頼まれ制作した対魔術戦用投擲ナイフしか無い。

 大量のリドの葉やカイラスの実を精錬し制作した、高純度魔力蓄積触媒を柄元に納めて、通常時に魔力を吸収しない様に軽量で頑丈なインディア砂鉄で作った核に包み密閉保管。

 核を破る為には、刀身を固定していた留め金を外して、ナイフが当たった瞬間の勢いを撃鉄に用いて、強い爆発力を持つ火龍薬を衝撃で暴発した様に仕込んだ特別製。

 周囲に拡散された高純度魔力蓄積触媒が、周囲の魔術や結界を象る魔力を無差別に吸収し無効化すると同時に、爆発の威力をもって器であるナイフやインディア砂鉄核を無数の刃へと換え、周囲に飛ばす攻防一体化した特殊兵装となっていた。



「た、対魔術戦ってそういう意味!? でもあの爆発の威力って!?」    



 ウォーギンがあげた構成物質の名にはセラは覚えがある。ありすぎる。

 つい先日に戦い大損を喰らったサンドワームが用いていた複数の砂弾に他ならない。

 ケイスは別々だったそれらを全てまとめ上げ、一つの剣としてのアイデアを作り上げた様だが、いくら何でもあの威力は強すぎる。

 元々は対ラクト用に考えていた武器だろうが、あの爆発力は対人戦で用いる程度を越えていた。



「あそこまで強くなったのはこっちも想定外だ。複数使った上に、ゴーレムの表面じゃ無くて中で同時に爆発させやがったな」



 今の爆発の勢いは制作者であるウォーギンの想定を遥かに上回る。

 半密閉空間かつ複数同時使用したことで、威力が飛躍的に跳ね上がっていた様だ。

 ケイスの狙いはおそらくゴーレムの体内中枢に隠された魔法陣。

 高純度魔力吸収触媒を持って魔法陣その物をかき消す狙いだった様だが、その代償は大きすぎる。

 体内で爆発した爆風は唯一の出口である割れ目に殺到していた事は、今も濛々と立ちこめる爆風によって巻き上げられた砂埃が、前面方向に深く伸びている形を見れば判る。

 割れ目はナイフを投げ込んだケイスの眼前。

 闘技場を揺るがすほどの爆発の威力を、ケイスは真正面から受け止めたことになる。

 いくらケイスといえど無傷ではすまな……

 噴煙を突き破り小柄な影が勢いよく飛び出てくる。

 その影はクルクルと空中で回り、二人と同じように呆然と噴煙を見つめていたルディアの側へと着地した。

 それは全身を己の体から流れ出る血と砂埃で汚しながらも、ぎらぎらと目を輝かせた一匹の化け物だった。

 足を捉えていた蜘蛛糸は、拡散された魔力吸収触媒によって消失していたのだろう。

 


「……化け物だったな、そういえば」



「……そうでしたね」



 心配した矢先に飛びだしてきた小さな怪物の姿に、アレには心配や杞憂など無駄骨である事を今更ながらに悟った二人は唖然と声を交わすしか無かった。














「むぅ。思ったより強かったな。口の中まで入り込んできた」



 ルディアの横に飛び下がったケイスだが、脱出で力尽きたのか着地と同時に膝をつき顔をしかめると、血と砂が入り交じった唾を吐き捨てた。

 全身に数えるのもバカらしいほどの無数の傷を負い血と砂埃で薄汚れ、むき出しの四肢は爆風の熱に焼かれた火傷で赤く腫れ上がり、肩で息をする満身創痍状態だ。



「あ、あんた! 大丈夫なの!? この馬鹿! 無理して立とうとするの止めなさいよ!」



 それでも両手の剣を支えにして立ち上がろうとするケイスを見て、ルディアは慌てて横に膝をついてその小さな身体を支える。

 しかし己の体を支えてくれたルディアに対して、ケイスは眉を顰める。

 だがそれは不機嫌そうというよりも、拗ねた子供らしい表情だ。



「ケイスだ。なんでさっきは呼んでくれたのに元に戻るんだ。あと馬鹿はいらないぞ。私は馬鹿では無いからな」



 ようやく名前で呼んでくれたのになんで戻るんだと、ケイスは甘えの混じった我が儘を告げる。

 その目を見ればもう一度名前を呼んでくれと如実に語っていた。



「そんな文句をいっている状態じゃないでしょうが!? 馬鹿なこといってないで大人しくしなさいケイス!」 



 深手を負っているのに何を言ってるんだこの馬鹿は。

 頭痛と同時に怒りを覚えつつも、名前で呼んでやらなければいつまで文句を言い続けてきそうなケイスの様子に、諦めたルディアは名前で怒鳴りつける。

 こんなある意味で単純な馬鹿相手に、いくら過去が不明で怪しいからといって必要以上に警戒していた自分自身が馬鹿馬鹿しくなってくる位の単純馬鹿だ。



「ん。それで良い」



 名前を再び呼んでくれたことが心底嬉しいのか、極上の笑みを浮かべたケイスが満足そうに頷き、全身の力を抜いて支えているルディアの腕へとその身を預けた。

 ルディアの忠告に一応耳を傾ける気はある様だ。



「ルディ助かったぞ。剣を届けてくれたおかげだ」



 ルディアの腕に身を預けながらもケイスは未だ収まらない爆風の中心へと目を向け、睨み付ける。

 腕に掛かる重さは軽い。それこそ子供の重さだが、その目に宿る強さは子供のそれでは無い。

 ケイスの目線の強さに惹かれ、ルディアもその視線の先を追い、砂煙の向こうへと目を向ける。

 濛々と立ちこめる砂煙が徐々に薄れ、巨大な影がうっすらと姿を見せ始める。

 その姿はすでに人型はしていない様に、ルディアには見える。

 見ればその足元にはゴーレムから砕け落ちたらしき巨大な石塊がごろごろと転がっている。



「……勝ったの?」



「まだ判らん。ルディ。私が預けたミズハのお土産があったな。出してくれ。場合によってまだ戦わなければならん」 



 ルディアの問いかけにケイスは即答し、失った生命力を補う為の食料を求める。

 警戒心を緩めず、油断せず、戦いが続く場合に備え既にケイスは次を見据えている。

 譲らない、譲れないラインは一歩たりとも譲歩しないケイスに戦うなと言っても無駄。

 理解と諦めの境地に達したルディアはバックの中に手を突っ込み、

 


「ほら」



 腰のバックにいれていた紙袋を取りだしたルディアは、肉串を一本取り出してケイスの口元に突き出す。 

 行儀もへったくれも無いケイスは目の前に突き出された肉串に大口を開けてかぶりつき、むしゃむしゃと食べ始めたかと思うと、すぐに飲み込んでしまう。

 傷つき薄汚れていてもそれでも意志の強さと整った顔立ちは、光差す様な美少女然としているが、その行動が全てを台無しにする。

  


「うぅ……口の中がヒリヒリしてしっかりと噛んでいられない」


 

 どうやら口の中も切っている様でピリ辛のタレが傷口にしみていたかったのか少し涙目になりながらもケイスは再度口を開く。

 次の串を寄越せという意思表示のようだ。

 大食漢のひな鳥に餌をやっている様な気分になりながらルディアが串を出すとケイスはすぐにかぶりつき、ちょっと咀嚼して飲み込む。

 これを数回繰り返している間に、ゴーレムを覆っていた砂煙がようやく薄まり、その姿を表す。

 両膝をついて膝立ちになったゴーレムの上半身は半分ほどが吹き飛んで、右側は原形を留めているが、左半身には大穴が開いていた。

 爆発の勢いに負けてもぎ取られた左腕と、握っていた石斧がその足元に一つの石塊として転がっていた。

 半壊したゴーレムの胸部には、所々が消失し薄れ掛けた積層型仮想魔法陣。 

 ゴーレムはもう動けそうも無く、心臓部である魔法陣があの状態ではすぐに構成が崩れ消失するだろう。

 ようやく気を抜けそうだと息を吐こうとしたルディアの腕の中でケイスが再稼働を始める。

 ルディアは気づかない。

 だがケイスは気づいた。

 壊れかけた魔法陣は外装部のみ。

 その内部。核となる部分は未だ健在だと。








 


「ちっ! しつこい!」



 ケイスは舌打ちをし、身を預けていたルディアの腕の中から跳ね起き、胸元に残っていた投擲ナイフ二本のうち一本を引き抜き、留め金を解除する。

 あれだけの高濃度魔力吸収触媒でもゴーレムを象る魔法陣を全て消失できなかった段階で、少なからず予想はしていたが、それでも中心核にはダメージも無しとは。

 後付けの外装部に廻っていた魔力を吸収しただけで飽和状態になり、それ以上の魔力吸収ができなかったのか?

 それならまだいい……もし中まで届いていても、全部吸収できなかったのだとしたら。

 脳裏によぎる予感を留めつつも、迷うこと無くケイスは腕を振るう。

 風切り音を奏でナイフが飛翔する。

 ゴーレム胸部の内装部に当て再び爆発を巻き起こし、魔力吸収物質を飛散させ今度こそ消失させる。

 ケイスの殺意を纏ったナイフがゴーレムを喰らい尽くそうと牙をむき出し威嚇する。

 その殺意に反応したのか、それとも改良が終わったのか?

 薄れていた魔法陣が激しく光を放ちながら形を変え、周囲のがれきや石塊が飛来するナイフよりも遥かに早く動き初め、瞬く間にその姿を戻し再生を初めていく。



「ルディ!私の後ろに下がれ!」



 ルディアの腕を抜けたケイスは、復活したゴーレムに唖然としているルディアを庇う様にその前に飛びだした

 ケイスは見ていた。

 再び隠れた魔法陣の姿を。

 変更された術式を読み取っていた。

 それは先ほどまでケイスが苦戦した術式。

 だがそれが今姿を変えた。

 より最悪の形に。

 ナイフが届くその前にゴーレムが再び元の姿を取り戻し、立ち上がろうと膝を立てる。

 その全身は先ほどまで違い、僅かに発光しうっすらと光る線が何かを形作っていた。

 時間にすれば僅か。

 だが決定的に絶望的に後れたナイフが再生したゴーレムの石造りの表面装甲に当たり、先ほどよりも遥かに小さい規模ながら、爆発と爆風を撒き散らかす。

 立ち上った砂煙を切り裂き二つの影が飛ぶ。

 それはケイスの身を何度も抉った石で出来た棘だ。

 

 

「やらすか!」



 ケイスは二対の剣を振り、己に向かっていた石棘を二つたたき落とす。

 数も少なく、距離があったからまだ良いが、これがもっと近く、数も多ければ、二対の剣があろうとも全てを防ぐのは到底無理だったろう。



「今のって!?」



「石矢の盾だな。先ほどまでは石斧にだけ付与していたが、ゴーレムの奴め。己の全身を魔術装甲で覆った様だ」



 今の攻撃の意味を悟ったらしきルディアの問いかけに、ケイスは隠すこと無く真実を伝える。

 再生したゴーレムの表面を覆うのは魔法陣。その術式は『石矢の盾』

 物理攻撃を完全無効化し、受けた衝撃を、石矢としてはじき返す防御術式であり、魔力を持ってしか破壊できない耐物理攻撃用防御魔術。

 投擲ナイフの中に収まっていた魔力吸収触媒のおかげで、その効果を少しは無効化できたのか、爆発の勢いの割に反射された石棘の数は少なかったが、それでも破壊するまでには至らない。



「お爺様。いけるな」




 己の剣に語りかけ、意思を確認する。



『無論だ。しかしどうする気だ? 我は剣となりはてた身。魔力はお前が作らなければ抵抗する手段は産まれんぞ。そこの娘の魔力を使おうとしても無駄だな。第一切り裂けたとしても、あれの核はお前の血を触媒としておる。龍の血をな。そのナイフ一本で喰らい尽くせるわけは無かろう』



 魔力を剣に通して魔術結界を無効化して切断する技など、ちょっと名の知れたそこらの流派にならいくらでも転がっている。

 だから表面を切り裂く手、倒す手などいくらでもある。普通ならば。

 しかしあのゴーレムを形成する心臓部に宿るのはケイスからこぼれ落ちた血だとラフォスは指摘する。

 世界最高の魔術触媒にして、膨大な増幅効果を持つ龍の生き血。

 その血が生み出す魔力、魔術は、半壊したゴーレムを一瞬で修復し、無限に近い時間を稼働する力を与えていた。

 相手は物理無効装甲を張った巨大ゴーレム。

 ケイスの攻撃は全て弾かれ、返される。

 例え羽の剣を持ってしても、その超重量が物理攻撃である以上は届かず、はじき返される。

 しかもその核はゴーレムの体内奥深くであり、膨大な魔力によって切り札すらも無効化された状況。

 ケイスの刃が届かず、通用しない。

 絶望的状況が姿を現す。

 だがそれがどうした。

 ケイスには諦めるという言葉はない。  

 ケイスは会場全体をざっと見渡し、己が使える物を、勝つ為に必要な物を見いだす。

 ラクトが使用していた魔具。

 観客席で立ち上がり興奮した様子を見せるウォーギン。

 大声で叫き逃げろと手を振るセラ。

 闘技舞台の端で何とか結界を維持しながら、マークス親子を守っているライ。

 そして自分の背後で息を呑んでいるルディア。

 自分の手に握られた剣へと姿を変えた前深海青龍王ラフォス・ルクセライゼン。



「ふん。その程度で私に勝てると思うな石塊が」



 今の自分は一人では無い。

 今の自分は一人孤独に迷宮を彷徨っていた龍ではない。

 全ての知識を動員し、ケイスは一瞬で勝ち筋を見つけ出す。



「ルディ! 私に手を貸せ! 勝つぞ!」


  

 無い物は補う。

 自らが憧れ、目指す人達はそうしてきた。

 探索者を志し、剣を振るう剣士であるが自分が負けるはずが無い。

 傲慢かつ傍若無人な強き意思を持ってケイスは勝利を予告した。

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