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永宮未完 挑戦者編  作者: タカセ
剣士と決闘
40/119

剣士と魔法陣

 勝負は一瞬。

 それはほんの一瞬。

 一瞬の攻防で膠着していた勝負が大きく動く。

 呼吸を変えたケイスが一気に攻撃速度を跳ね上げる。

 舞台上の大半を見渡せる観客席からさえも、油断すれば見失いそうになる速度と、視線を眩ます急角度を刻みケイスは怒濤の連続攻撃へ。

 息つく暇も無い一方的な攻撃に、ラクトはゴム鞠のように舞台上を撥ね跳ばされ、打ち上げられた。

 かろうじて体勢を立て直し、魔具をいくつか起動させ、致命的な一撃だけは避けたラクトに対して、ケイスは再度ワイヤーナイフを投擲。

 宙にあるラクトの右足にナイフを絡め捕らえ、ワイヤーを巻き取り引きずり下ろすことで、軽量化の指輪がもたらす回避能力を封殺。

 止めの一撃を放とうとケイスが地を強く蹴り宙へと飛翔。

 誰もがケイスの勝利を確信しかける中、ラクトが反撃を開始。

 羽の剣が持つ重量変化を用い自分の身体を僅かに沈め、ケイスが放った飛び突きを皮一枚で回避。

 ケイスの虚を突いたラクトは、無詠唱、無触媒、陣を用いず魔術を使用する奥の手を用い、発動させた初級魔術のマジックロープでケイスの左手と羽の剣を縛り付ける。

 さらに即座に羽の剣へ闘気を注ぎ、生み出た超重量を持ってケイスを地上へと落とし束縛してみせた。

 ケイスの最大の武器は、ラクトの視認可能範囲内から軽々と抜け出すその速度。

 自慢の足を奪われうつぶせの態勢で地上に落ちたケイスはもがき、拘束から逃れようとしたが、いくらケイスといえど、大岩よりも重くなった羽の剣と繋がったままでは、その場を動くことが出来ずにいた。

 だがラクトも右足をワイヤーで拘束され、もう片方の端はケイスが先ほど地を蹴った位置にハーケンで固定されている。

 ケイスが落ちた場所からは若干離れていて着地することになるが、ここが千載一遇の機会と判断したのか、ラクトは立て続けに魔具を起動させた。

 左手の指輪型魔具から炎を呼び出し、折れ曲がった杖に付与し振るって反転しながら可燃性のワイヤーを叩き切り束縛から抜け出す。

 反転することでケイスの姿を捕らえたラクトが、軽量化の効果を解除と同時に自分の背中側で空気弾を炸裂。

 無理矢理に軌道を変化させたラクトが、ケイスの直上から炎を纏った杖を振り下ろし、猛禽のように襲いかかっていた。

 しかしラクトの攻撃が当たる直前に、ケイスも動いていた。

 いつの間にやら両足で抱えていたナイフをラクトに向かって突き出すという奇策を持って迎撃態勢に移項していた。

 それはわずか10秒ほどの攻防。

 ケイスが目にもとまらぬ速さで動き出して僅かの間に、クルクルと回る走馬燈のように展開が目まぐるしく変わる戦いは、決着を迎えていた。










 

 

「……く、くそ。化け物かよお前。絶対勝ったと思ったのに、あそこから攻撃してくるか普通?」



 身を守っていた結界が光の粒子となって消失していく様を見ながら、ラクトは片膝をつき乱れた息と共に悪態を吐く。

 ラクトの身につけたラメラアーマーには、ケイスが起死回生の一撃として繰り出したナイフが装甲を突き抜け突き刺さっていた。

 結界によって阻まれ鎧の下に着込んだ肌着の上で留まっているが、ナイフの刺さった位置は爆発するように早く打ちならされる心臓の直上。

 実戦であれば今の一撃で自分は死んでいた。

 心臓を鷲づかみにされた感触に、熱い身体が急速に冷えていく悪寒をラクトは覚える。

 背中からの攻撃で見えていないというのに、見事に勘で合わせてきたケイスの実力にラクトは改めて驚嘆していた。     



「むぅ。失礼なことを言うな。私が化け物というならお前はどうなる。見事に私の首を叩きつぶしてくれたでは無いか」



 満身創痍なラクトに対して、逆立ちをした体勢のままでケイスは僅かに息を乱していながらも涼しげな声で答える。 

 ケイスのナイフがラクトの心臓を穿つとほぼ同時に、ラクトの振り下ろした杖もケイスの背中から首に掛けて致命的な一撃を加えていた。

 結界が無ければ自分は首を叩き折られていたと、さしものケイスも認めるしか無い。

 ケイスを拘束していたマジックロープが、その身に纏っていた結界と共に光の粒となって消えていく。

 それと共に、頭部を覆っていたフルフェイスタイプの兜が、ラクトの振り下ろした杖によって鎧と繋がっていた留め具を破砕されていたのか、カランと音をたてて落ちた。

 兜と共に落ちた留め具の破片がケイスの首筋に突き刺さり僅かに皮膚をなぎ血が一、二滴、付着する。

 僅かながらも先ほどまで無かった肉体の損傷は、結界が完全に消えきった確かな証拠だ。

   


「っと。ようやく消えたか。むう少し首元を切られたな」


 

 腕の力だけで跳んだケイスがクルリと回って、ラクトから距離を取ると、今できた切り傷をごしごしと袖口でこすってから笑顔を見せた。

 先ほどまでの戦闘に狂った笑顔では無く、憑き物が落ちたように晴れ晴れとした顔だ。



「ひとまずは賞賛させてもらうぞ。ラクト・マークス。あそこでまさか無詠唱で術を繰り出してくるとは思っていなかった。見事だ」



「へっ。ざ、ざまあみろ。予想していなかっただろうが」



「ふむ。右手の魔具を壊しておけば十分だと判断した私の計算を超えてきたからな。完全に不意を突かれた。羽の剣を使ったのも計算か?」



「そこまでやれるか。アドリブだっての。本当は地上に縛って拘束魔具をぶち当てる予定だったっての」



 首を左右に振ってならし肩を回しながら身体を確認するケイスの質問に対し答えながら息を整えたラクトが立ち上がる。

 


「ん。そうなのか。お爺様の入れ知恵かと思ったが違ったか」



「聞きたかったんだけど、どういう意味だよ。その剣のことをまるで人扱いしてるのはよ」



 ケイスによって破壊された魔具はベルトに付けていた物が四本と右手の指輪類。

 他は魔力消費は激しいがまだ使える。

 残った物を確認しつつ、ラクトは今度は質問を投げ掛ける。

  

  

「……? お前。声が聞こえてないのか。それなのにああも見事に扱ったのか?」



 だがケイスはラクトの質問に首をかしげ、質問に対して質問を返す。



「声? んだよそれ。聞いたこと無いぞ」



 不思議そうに言われても、ラクトはただ説明通りに道具を扱っただけ。

 別段特別な事はしていない。

 胸に刺さったナイフを引き抜き、横に投げ捨てたラクトは先ほどケイスが倒れ込んだ位置に臥したままの羽の剣へと目を向ける。

 込められた闘気が完全に抜けたのか、剣はぐにゃりと曲がっていた。



「むぅ。どういう事だ。お爺様が自ら選んだのでは無いのか?」 


 

 一方でケイスは再度首を捻って腕組みをして考え込み始めていた。











 終わったのか……?

 中級神クラスが多数降りてくる異常事態から始まり、子供同士とは思えないハイレベルな応酬。

 異例ずくめの決闘の立会人を務める火神派神官ライ・ロイシュタルは、疑問を覚えながらも疲労する身体を何とか奮い立たせ雑談を交わす決闘者達へと近づいていった。

 依り代として代行して神術を用いる神官にとって、神の位が高ければ高いほど、数が多ければ多いほど、術行使の時間に伴い生命力を消費していく。

 下級神しか降ろしたことが無いライにとって、中級神降臨は初めてのことな上に、その数が多すぎる。

 その酔いそうなほどに強い神々の気配はまだこの闘技場には降りたままで、闘技舞台と観客席を隔てる遮断結界は健在だ。   



「神官殿。一応確認しておくがどちらの攻撃が先に決まったのだ?」



 腕組みをして考えごとをしていたケイスがライの姿に気づくと、再度無邪気な笑顔をうかべ尋ねた。

 花のような笑顔を浮かべる令嬢然としたケイスが、先ほどまで子供離れ、いや人間離れした戦いをしていた。

 一番近くで見ていたライでさえ、つい白昼夢のような現実感の無さを覚えてしまうほどだ。



「同時です。勝者が決まった段階でその先からの攻撃は全て無効化されます。今回はお二人とも結界が破壊されましたので攻撃は同時に着弾。結果は引き分けとなります」



 その笑顔にどうしても嫌な予感しか覚えないままにもライは答える。

 まさか……まさかとは思うが。



「ふむ。やはりそうか…………ここから先は結界無しの殺し合いになるが続けるぞ。ラクト構えろ。私たちの間に引き分けは存在しない。どちらかが倒れるまでが勝負だと。お前も判っただろう」

 


 ライの予測を真正面からぶち抜き、ケイスはあっけなく続行を宣言し、左手に握っていた剣をラクトに向けて突きつけた。

 ケイスの目が、顔が語る。

 冗談の欠片は1つも無い。

 殺し合いとなることを百も承知で、まだ決闘を続けると。

 狂ったケイスの思考に対してラクトに驚きは無い。

 そうなるだろうと思っていた。

 引き分け等存在しない。

 何故かケイスの言葉が、今のラクトにはしっくりと理解が出来た。


 

「やっぱ。そうなるか……良いぜ化け物。掛かってこいよ」



 息を整え、魔具、身体状況のチェックを終えたラクトはケイスに向かって、折れ曲がった杖を構える。

 刃を交えて判った。

 いや、さらに強く自覚した。

 理由はわからない。どうしてか判らない。

 だが自分はケイスだけには負けられないと。

 心の奥底が、魂がそう激しく訴えている。



「良い言葉だ! 神官殿、続けるぞ! 合図を出せ!」



 兜がとれ素顔を見せたケイスは野生の狼のように獰猛な笑顔で吠える。

 ケイスが浮かべた笑顔。

 その意味は、自分を理解してくれる敵が存在する喜びに他ならない。

 倒したい。喰らいたい。

 獰猛な龍としての本質がケイスを振るわせ、狂わせていく。

 


「ち、ちょっと待てお前ら!? 判ってるのか!? 結界が消えてるんだぞ! 怪我じゃすまねぇぞ!?」   



 だが再宣言を促されたライはたまった物では無い。

 体面をかなぐり捨て、素の声をあげる。

 先ほどまでは結界があっても身を竦むような戦いを見せていた二人。特にケイスだ。

 ケイスが最後の最後に見せた動きは、本気になった探索者を思わせるほどに、獰猛で凶暴な物。

 身を守る結界も無く、あんな攻撃を受けたらラクトの命などひとたまりも無い。

 しかも両者の状態は違いがありすぎる。

 兜を破壊された程度のケイスに対して、魔具をいくつも破壊され満身創痍なラクトとでは、この先の結果など火を見るよりも明らか。

 まともな勝負になるとは思えない。



「見届け人! この馬鹿共を説得しろ! 結界無しで続ける気だぞこいつら!」 



 新米といえどライとて決闘を司る火神派神官。

 ヒートアップした決闘者達が度を超した無謀な殺し合いを選択する場合の対応策も、叩き込まれている。

 壁際の見届け人席に設置していた結界を解除し、見届け人となっているルディアとクレンを呼び寄せる。

 見届け人が決闘を止める権利が生じるのは、延長戦が始まってから。

 しかしケイスの速度では見届け人が止める為の声を発する前に、殺してしまいかねない。



「てめぇラクト! なに考えてんだ!? むざむざ殺される気か!? 十分やっただろうが!」



 結界解除と共に席を飛びだしてきたクレンが、怒鳴り声を上げる。

 確かにラクトはここまでケイス相手によくやった。

 だがそれもここまでだ。

 これ以上は勝負にならないと説得しようとする。 



「途中で止めんなよ親父! こいつだけには負けるわけにはいかねぇんだよ! どっちかが倒れるまでやり合うからな!」 



 しかしラクトはケイスから目を離さず、背中越しに聞こえてくる怒声に対して怒鳴り返す。

 その声の強さにクレンは戸惑う。

 自分の息子だから判る。

 狂ったのでも、ケイスに引きずられたのでも無い。

 ラクトが本心からケイスとの戦いを、決着を求めているのだと。



「ま、待て! ケイス! 今のお前なら一撃でラクトを倒しちまうだろ!? 止めろ! 頼む! 止めてくれ!」 



「すまんクマ。ラクトが望んでいるし、何より私も望んでいる。喜べ。お前の息子は私も認めるほどの才能を持っているぞ……ルディ。それ以上は近づくなよ。お前でも斬るぞ」



 藁にもすがるつもりでケイスに声をかけるが、ケイスはやる気に満ちた声で返し、ちらりと後ろを振り返り、無言で近づいていたルディアを牽制する。

 ルディアの右手には数粒の魔術薬が握られ、左手には風を呼び起こす印が象られていた。   


「あんた。なんでそこまでやり合う気なのよ……ほんとに殺しちゃうわよ」



 目に込められた狂気的な力に気圧されながらも、ルディアは普段通りに落ち着いた声でケイスに語りかける。

 少しでも正気に戻ってくれればと思ってだが、 



「今のラクトと戦いたいのが、私の願いだからだ」



 ケイスはいつも通りの強気な答えを平然と返す。

 ルディアの手に握られた丸薬の正体はわからずとも意識を奪う類いの魔術薬であろう。

 魔術抵抗力が皆無のケイスでは発動してからでは抗う術が無い。

 だからその前にルディアを斬る。

 本心から望んでいなくとも、後で後悔しようとも、今の自分の願いを優先する為に斬る。 戦いに狂うケイスの精神は、人としての論理を大きく踏み外す。

 己の願いの為に、邪魔する物を全てを敵に回す存在へと。

 









(近づきすぎたかな……しまったわね)



 ケイスを確実に魔術薬の効果範囲に捕らえようと、なるべく接近した事をルディアは後悔していた。

 まさかケイス相手に自分が駆け引きすることになるとは。

 己で引いた貧乏くじを恨みつつもルディアは考える。

 この少女は魔術薬を使おうとした瞬間、自分の両腕を切り落とすつもりだ。

 ケイスの目を見れば判る。

 旅の途中で出くわした野生動物と同じ。

 冗談の通じない本気の目だ。

 何とか気をそらしてその瞬間に魔術薬を使い眠らせられるか。

 ケイス相手に我ながら無謀な事をしていると思いつつ、周囲を探ってケイスの気を引く何かが無いかと探し、ラクトの足元に目を飛ばし、



(あれって……魔法陣?)



 ルディアは、ふと違和感に気づく。

 それはラクトの足元。

 ケイスの兜が転がった辺りに、蛍のようなほんの小さな赤い光が発生して、クルクルと高速で回りながら地面の上に図面を描き出していた。

 その動きは複雑で読み切れないが、魔法陣をいくつも重ねた積層球型複合魔法陣を描いているように見えた。

    


「ねぇ……あんた。兜にもなんか仕掛けしてたの」



 ケイスがウォーギンに頼んでナイフに仕掛けを施しているのは知っていたが、あちらにも何かしていたのか。

 思わず口から出た問いかけにケイスは、



「どういうっ!? ラクト足元だ! そこを離れろ!」



 ルディアの声に己の落ちた兜に目をやったケイスがその顔に驚愕の色を浮かべ、初めて聞いた悲鳴めいた焦り声で警告を発した。



「あぁ?」



 ラクトがケイスの声に足元を見下ろしたときその魔法陣は完成を迎える。



「な、なんだこ!? うがぁぁぁぁぁぎゃぁぁっ”!?」



 ラクトがあげた驚きの声が即座に悲鳴に変わる。

 完成した魔法陣がラクトの足元に広がり、地面の石畳が水のように液体化しその両足を瞬く間に這い上がっていく。



「鼃っ!? ぎゅぁつ?」



 激痛を伴うのかラクトの悲鳴は締め殺される動物のように意味を成さず、その足元で怪しく輝く魔法陣は全てを恐怖で硬直させるほどに恐ろしく禍々しい気配を纏っていた。

 魔法陣から漂うのは龍の気配。

 この世の頂点に君臨する絶対捕食者。

 足元から喰われていくラクトを見ても誰も動けない。

 目もそらせない。

 父親であるクレンも、修羅場をかいくぐった探索者であるライも、ただの薬師であるルディアも。

 ただ見るしか出来無い。

 全ての生物を竦ませ、跪かせる強者の気配に抗えずにいた。

 何が起きたのか理解し、どうするべきかを決断し、戦うと決めた、ただ一人の存在を除いて。



『帝御前我剣也』



 ケイスの声が響く。

 それはルディアには聞き覚えのない言葉。

 意味を理解出来ない言葉。

 それは遥か昔に滅びた国の言葉。

 王を守る一族に伝えられた戦いの言葉であり、誓いの言葉。

 絶対に負けられない戦いに挑む、不退転の決意を示す言葉。  

 自らの好きな人達を、好きな者を守る為に全力を出す言葉。

 剣を授けてくれた祖母に教えられ、亡き母と交わした約束の言葉。

 それはケイスを人に戻す言葉だった。







 倒れ込むように跳びだしたケイスは意識を最大に加速させる。

 有する知識、記憶を総動員し対処方を考える。

 呑まれた部分はどうにもならない。

 全身を呑まれたら、いや胴まで達したらアウトだ。

 石化した部分は戻らない。

 祖母に聞いた昔話ならそのはずだ。

 ならば、狙いはラクトの全身を覆うラメラアーマーの膝関節部。



「邑源一刀流。虎脚一閃!」  



 返した右手手甲を剣の刃元に押し当てケイスは低い体勢で跳ぶ。

 素早い魔獣相手に機動力を奪いつつ懐に飛び込む突撃技。 

 ラクトの足元に広がる魔法陣をスレスレに飛び越えながら、膝を覆う頑丈な膝当てを目がけ、自らの力と勢いのままに突っ込む。

 押し負ければ自分が魔法陣に捕らわれる。

 しかしケイスに恐怖は無い。

 ラクトを助ける。

 自らの剣についてきた者を、天敵を助ける。

 その一心しか無い。

 だから足を竦ませることも無く、速度を落とすことも無い。



「!!!!!!!!!!!!!!!!」



 鋭く重いかまいたちと化したケイスの剣がラクトの膝当てを砕き、次いでその両足を砕き肉と関節諸共に切断し、ラクトが声にならない悲鳴を上げ泡を吹き気を失う。

 飛び込んだ勢いのままケイスは、ラクトに体当たりをしてその身体を抱きかかえ、魔法陣から大きく離れ脱出する。

 ラクトを抱えたままケイスがごろごろと転がる間も、足の大動脈を断たれたラクトの両足から噴水のように血が噴き出し、ケイスの身体を赤黒く染める。

 脱出は出来たがこのままではラクトは失血死する。



「心打ち!」



 自らの闘気を込めた掌底をラクトの身体に打ち込みその心臓を一時的に停止させた。

 一時しのぎにしかならないが、それでもラクトの切断された足から流れ出る血の量はみるみる勢いを無くす。

 強引な手で出血量を抑えたケイスは立ち上がり、ラクトの両足が残された場所を睨み付ける。

 全身を呑まれるのは防いだが、これでどうなるかケイスにも判らない。

 だが心がざわめく。

 怒りが渦巻く。

 殺意が吹き荒れる。

 これは敵では無い。

 自らの心を弾ませる者では無い。

 楽しくない。

 憎悪しか浮かばない。 



「クマ! ラクトを連れて端に避難しろ! ルディは今すぐラクトの止血を! 神官殿は結界をなんとしても維持してくれ! 起動魔法陣の魔力波動が外に伝われば、古い連中も動き出すやもしれん!」



 剣を構えケイスは吠える。

 魔法陣から漂う龍の気配に負けじと、声を張り上げる。

 ケイスの叫びが束縛されていた三者の呪縛を解き放つ。



「な、あん、あんた一体今何!? なに起きたの!?」



 ラクトの両足を切断したケイスがの凶行が、ラクトを助ける為の物だとルディアは本能で理解するが、それでも状況に意識が追いつかず悲鳴じみた声で説明を求める。



「これはウォーギンから見せてもらった魔法陣の完成形だ! 離れていろ! こいつは生物を喰らうぞ!」



「喰らうって!?」



「生物を喰らって核を形作り完成するというカンナビスゴーレムという奴だ!」



 遥か昔。暗黒時代に猛威を振るい、何万者の戦士達の血、肉を喰らい続けた悪名高き魔法陣。

 その名はカンナビスゴーレム起動魔法陣。

 当時の龍王。赤龍王の血を元に作られた魔法陣。

 次代の龍王。ケイスの血を得て完成した魔法陣。



「いいから早く下がれ!」



 完成する前に核を粉砕するしか無いが、中心となる核がどこにあるか判らない。

 ならば……目につく範囲内を全て斬り尽くす。

 斬りかかっていたケイスが、その一撃目を叩き込もうと剣を振り降ろし、



「っ!」



 地面が沸き立ち一瞬で完成した石像がその右腕に持っていた巨大な石斧を振るって、ケイスの渾身の一撃を軽々と受け止める。



「ぐっ!?」



 剣を受け止めた斧の柄から発生した無数の棘が勢いよく打ち出され、ケイスを串刺しにしようと襲いかかった。

   



 



 














 サブクエスト『カンナビスの落日』第1段階発動。


 結界解除時旧ゴーレム群再稼働。


 結界解除条件。


 赤龍敗北。


 もしくは百武器の龍殺し死亡。

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