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永宮未完 挑戦者編  作者: タカセ
第二部 挑戦者と始まりの宮
114/119

挑戦者達の連携

 暗闇の中、周囲を取り囲む赤黒い光は徐々に大きく、そして数を増していく。瞬く間にその数は40を超え、なおも増加は止まらない。


 都市の灯りという感じではない。鼓動するかのように点滅を繰り返し、徐々に大きくなっており、この主が生物だと直感が告げる。  



「斬り込むか?」



 まだ遠く敵の正体はわからぬが、自分に出来るのは斬れることだけ。ならば相手が動く前に剣の届く距離に、自分の間合いに踏み込むために、ケイスは突撃をかけようとするが、



「待て。魔力を使うのは控えていたが、事態が事態だ。即席地図を作る」



 吸魔樹の活動を活発化させる懸念が有って控えていたが、多少の距離が空いたのもあり、ファンドーレが背中の羽根を振るわせ周囲に魔力を放出していく。


 マッパーがよく使う障害物による魔力減少反応を利用した地形調査魔術で把握した周辺地図を、光球を変化させ線描地図で目の前に出現させる。


 短時間製作なのでそこまで広域な地図ではないが、それだけでも大小の路地が交差する複雑な都市構造と、破壊された建造物や、突き出た根が石化して出来た石柱によって、塞がれた箇所が無数にあるのが見てとれた。



「瓦礫であちらこちらが塞がれ、相当に移動しにくい構造になっている。移動しながらの戦闘よりもここに篭もった方がまだマシだ。今のうちに脱出路を探すからアレはどうにかしろ……それにしてもあちらで横倒しになった残骸は物見塔か? 換気のためというよりも陽光を取り込むための天窓らしい物もある。しかし上には地下墓地もあった。ならここは元は地上にあった埋没都市と……」



 この状況下でも研究心が勝るのかファンドーレは脱出経路を探すため地図を拡張しつづけながらも注視しているが、戦闘職の二人は今判る範囲内だけをパッとみただけで頭に叩き込み、ほぼ同時に動き出す。


 地下室の出入り口は、破壊された倉庫とおぼしき建物に繋がっていた。倉庫の天井は崩れ落ちて跡形もないが、三方には半壊はしているがまだぶ厚い石の壁が残って遮蔽物となっている。



「私が上を抑えて全方位を監視します。入り口をお願いします」



「うむ。心得た。サナ殿に任せるぞ」



 翼を持ち機動力のあるサナが遊撃を務め、もっとも戦闘慣れしているケイスが一番の弱点である入り口を塞ぐ。


 現状でもっとも適した陣形を自然に取れたのは、皮肉なことにフナムシに斬り込んだケイスの暴挙が原因。あれだけの乱戦をくぐり抜ければ、自然と互いが得意とする距離や戦闘法が嫌でも判るというものだ。


 サナの場合は、空を得意とする翼人故に、足場が無い状況での戦闘にも特性があり、任せておける。


 入り口を塞ぐように立ったケイスは最初に引き抜いた一本以外の、背中にくくりつけていた剣をはずして、壁の横に投げ置く。


 本音を言えば全部を試したいので、持ったままでいたいが、さすがに10本ともなると身動きの邪魔になる。必要となれば隙を見て変えれば良い。 



「お爺様。正体はわかるか?」



(判らぬ。ここは火龍の力がある所為で感覚が鈍りおる)


 

 水龍と火龍の相性は悪い。それこそ天をも恐れぬ唯我独尊、傍若無人なケイスでさえ、枷を外せば、互いを食い合う血を完全に抑えきれず死にかけるほど。


 先代深海青龍王とはいえラフォスが宿るのは、羽の剣に用いられたかつての肉体の極々一部。逆に火龍は石化死したとはいえ、その骸が数えきれぬほどの数天を覆っている。どうしても能力が抑えられてしまうのは仕方ない。 


 正体が判らぬのであれば、判らぬなりのやり方がある。


 右手にクラーケンから得た貫通力重視の細く長めの爪の剣を持ち、左手には数が少なくなってきた防御ナイフを引き抜き逆手に持つ。両肩の幅に足を開き、均等に重心を預けた、足を止めた防衛の型を取る。


 軽量かつ小柄なケイスの戦闘法は、基本的には移動しながらの一振り一殺。足を止めた籠城戦はあまり採用しない。


 だがそれは得意、不得意と言うよりも、大局的には好みの問題。


 防御、防衛重視で足を止めるとなれば、斬れる数も減り、時間も掛かる。毎回毎回突っ込むのは、敵は即座に斬りたく、殺意が高すぎるケイスの好み故の戦い方でしか無い。 


 ケイス達が戦闘準備を整えるとほぼ間もなく、赤い光が一斉に動き出し始める。


 まるで熟して樹から落ちた林檎のように光は一斉に次々と落下し、地面に落ちた途端に強く光って軽く跳ねる。跳ねた先で何かにぶつかるとまた光って跳ねる。


 障害物の多い都市残骸を巧みに利用し、光の群れが縦横無尽に跳ね返りと強い発光を続けながら、徐々にその速度は増し、そして着実に近づいてくる。どうやらある程度なら跳ね返る方向をコントロールは出来るようだ。


 数多の光を追い続けていれば反応が遅れる。残像を景色として捉え、最接近している光のみに、注視を次々に切り変えていく。 


 その速度が捉えきるのが難しいと感じるほどに早くなってきた瞬間、光の1つが反射角度を急に変えて、ケイスを目がけて右斜め方向から突っ込む。


 不意を突いたつもりなのだろうか。だがケイスは即座に反応し、僅かに足捌きをして、ひと抱えはある大きさとなった光の軌道を読み取り、右手の突きを繰り出す。


 切っ先が光にめり込む。


 光の正体は赤黒く発光する粘液と即座に目視で確認。


 しかし粘液の表面を、剣は突き破れずスライムの表面を突いたかのような弾力で、その威力は大半が打ち消されつつある。


 さらにめり込んだ切っ先が、異常に堅い何かに触れる。おそらくこれがこのモンスターの本体。だが威力の落ちた突きではその外殻を突き破れない。


 限界まで突き込んだのか粘液がまた強く発光し、一瞬半透明になり弾性が弱くなりその中身を晒した。


 光る粘液の中に隠れていた物、それは中央に星形の穴が空いた特徴的な甲羅を持つ亀だ。どうやらその穴が粘液の出現箇所なのかぽこぽこと気泡が湧いている。


 発光が弱くなると共に粘液がまた濁り、同時に弾性を最初よりも強く取り戻し、剣を押し返してきた。


 刹那の観察、思考で正体、特性を読み取ったケイスは、右膝から崩れ落ちるようにして体を入れ替え、押し返された威力を受け流しつつ、別方向へと跳ね飛ばす。


 ケイスの突きの威力を喰らって速度を増した粘液亀は、別方向から迫ってきていた別の亀と正面からぶつかり、両方とも強く発光しあらぬ方向へと弾かれる。


 跳ね飛ばされた二匹の亀は勢いよく都市の残骸に何度もぶつかりながら、徐々にコントロールを取り戻し、群れの中に戻る。 



「サナ殿! 気をつけろ。弾力を持つ粘液の中に堅い甲羅を持つ亀がいる。闇雲な突きは止められる。躱すか、風で受け流せ!」



 触れた甲羅の強度は、今の突きで突き破れないならば、並大抵の技では通用しないと判断し、上空のサナに警戒の声をあげる。


 ケイスの忠告にサナが返す前に、その声で亀の群れが反応したのか、両者に向かっていくつも跳んでくる。


 高速で迫る粘液に包まれた亀の群れ。だが彼らは1つの失敗を既に犯している。


 それはケイスに一度切られたことだ。


 通用しなかった突きであろうともケイスは剣の天才。


 言葉ではなく、剣を交えなければ他者を理解出来ない、剣の申し子にして、異常者。


 千の言葉を交わすよりも、万の時を過ごすよりも、たった一振りの剣でケイスは、彼らの特徴を読み取り対処を思いついている。


 軽く跳躍して宙に跳ねたケイスは空中で、突っ込んできた最初の亀を左手の防御短剣で受け止める。


 その勢いで反転しながら右手を振り別の亀を迎撃した勢いで、最初の亀で崩れた体勢を空中で立て直し。


 さらに最初に受け止めた亀が弾力戻りを短剣の刃の角度を変え調整し、斜め上に弾く。そこにいた3匹目の亀に当て両者を弾く。


 右手で受け止めていた亀はそのまま腕を振りあげ、サナの死角から迫っていた上空の亀の軌道に合わせて放り投げる。


 ケイスの投げた亀とサナに迫っていた亀が空中でぶつかり、また別々の方向へと弾け跳んだ。



「風よ!」



 翼を大きく振ったサナが産み出した吹き下ろしの突風が、全方位から迫る亀の突進速度を抑える。


 どうやらケイスの忠告に対し、サナが自分の役割を牽制役に見出したようだ。


 サナが生んでくれた隙を使い、ケイスは地面に着地し、次に備え体勢を整える。


 受け止め、弾き、別の亀に当て、さらに馴れてくれば、足元の古い石畳、向かい側の廃墟を利用した跳ね返りを使い、途切れること無く迫る亀を次々にはじき返して、入り口から先には一歩たりとも進ませない。


 どうやら亀たちが弾む方向をコントロールできるのは粘液の一部分、短い手足が突きだした方向だけだと判ってからは、さらに効率は上がる。


 上手いこと甲羅側を弾いた箇所に当てれば、剣を当てたときだけで無く、二度目まで跳ばす方向をコントロールができる。


 さらに頭上では回避を優先しながらサナが呼び起こした突風で、亀たちの動きを牽制し、速度を落としてくれているで、さらにやりやすい。

 

 だがそれは防ぐだけだ。亀本体に刃が届いていないので、数は一向に減らない。


 サナが幾度か火炎系の無詠唱魔術を放ち当ててはいるが、粘液が少し蒸発してすぐに消えているので内部までダメージが通っている気配も無い。


 もっと高位の術ならば焼き尽くせるのかもしれないが、そこまでの術となれば無詠唱では難しく、高速移動をする亀達相手では、その隙を見いだせない。


 しかも魔術行使を繰り返しているので、地下の隠し通路を這っている吸魔樹が、どのような反応をしているのか判らないので、あまり時間をかけている余裕も無い


  

「どこかによい退避経路はあるか!? 大規模魔術の行使が出来る場所だ!」



 またも迫ってきた3つの亀を同時に処理してとんぼ返りを打ちながら、ケイスは背後の光球地図を確認し、退避路を探し続けているファンドーレに問いただす。


 数は多いが、ケイスならば防ぐだけはなんとかなる。


 サナもしくはファンドーレが高位魔術の準備をし、その間にケイスが防げばいいのだが、今の立地では下手に破壊力のある術を使えば、周囲の残骸が崩落し巻き込まれる恐れが強い。


 現に使いやすい位置なので、なんども亀を叩きつけた真正面の建物は、石積みが崩れてしまって、使えない。


 唯一幸いなのは崩落の際に巻き込まれた亀の一匹が、瓦礫に埋もれて動けなくなったことくらいか。


 どうやら弾力はあるが、瓦礫を自ら跳ね返すほどの膂力は無いようだ。しかしこの状況では一匹減った所で、さほど変わらない。



「広場らしき場所があれば良いが、大抵が埋まっている。姫! 上空からどこかよい場所は見えるか!?」



「見える範囲内は廃墟のみで、開けた箇所は道路のみです! 大光球をあげればもう少し見えるでしょうけど、ほかの場所の魔物を刺激する可能性があります!」



 滞空位置を次々に変えながら、槍で受け流し、翼が産み出した風で亀たちを牽制するサナからも色よい返事は返ってこない。



「ん、いっその事、建物の崩落で先ほどのように埋めてしまうか……」



 その手も時間をかければ出来るだろうが、地下通路を進んでいる吸魔樹の根が到達するまでに、どうこう出来る数では無い。


 そこまで考えた時にケイスの頭に名案がひらめく。


 跳ね返りのコントロールは最大二回まで。丸くなった亀の粘液は弾力が強いが、上から落ちてきた瓦礫をはねのけれるほどの力はない。


 そして吸魔樹の根が進む背後の地下室とそこからつながる深い通路。 


 

「お爺様。この案だが、構造把握はしたが、なるべく全部の亀の位置を常に知りたい。なんとかならんか?」



 思いついた策の為に必要なのは精密な周囲の地形情報と、その時の亀の正確な位置と移動情報。


 詳細な地図はファンドーレによって作成され確認し、全てを記憶できている。問題は亀の居場所とその跳躍方向と速度。



(また無茶な案を……せめて水があれば水面下の動きで感知できるが無理だ)



「むぅ。仕方ない。ならば無理をする」



 ラフォスの探知能力が発揮できればどうにか出来るが、無理ならばケイス自前の視力、聴力でどうにかするしか無い。まだもう少しは時間がおきたかったが、致し方ない。


 僅かに呼吸を変え、丹田と心臓から闘気を発生させる。



「ぐっ!」



 全身を一瞬で満たした暴虐な闘気が身体を引き裂きそうな力を内部から生み出し、こめかみの皮膚が弾け、口元からもこみ上げてきた血を少量ながらも吐き出す、 


 産み出したのは極々僅かな闘気だというのに、十分な時間を空けていなかったために、ケイスの身体を容赦なく傷つける。


 燃えるような灼熱が全身を焼き、血管を流れる凍える血が体内をぼろぼろに切り裂く。


 だが耐える。ケイスの身体は精神は耐える。


 少なくないダメージと引き替えに産み出した闘気ではとても肉体全体の強化は出来ないので、感覚のみを強化する。


 暗闇動く光を目で捉え、切り裂く風音で聞き、そして……薄紙を隔てた様な誤差はあるが皮膚が亀の発する熱を感知する。

  


「お爺様?」



 異常強化された感覚にはなれているが、ケイスにして初めての皮膚感覚に僅かに困惑を覚える。


 それはケイスの身体が産み出した力とちがい、血が外から感じ取った感覚。ラフォスがケイスの闘気に反応して使ったかと思ったが、



(我では無い。それは火龍の技……火龍の眠る地。僅かなりとも鼓動を保つ者でもおったか) 


「ん。理解した……サナ殿! 今いる位置に地面と平行になった風の盾をなるべく巨大に作ってくれ! ファンドーレ! 地下通路に奴等を叩き込み一気にけりをつけるから、最後に床を崩して地下室ごと埋めろ!」



 熱源探知は火龍の技だと断言したラフォスの言葉に、ケイスはとりあえず納得し頷き、考えるのは後にし、二人へと強い声で簡潔な指示を出す。


 両者が自分の思った通り動いてくれるかなどケイスは意識しない。考えない。考えている時間も無い。


 ただ両者を信じるだけだ。


 なぜならば龍血による闘気発生はケイスの切り札であるが、同時に全てのモンスターにここに龍が居ると知らせる技。


 まして本来の龍と違い魔力を封じ、肉体も傷ついたケイスは著しく弱体化している。迷宮の住民達にとっては、死にかけの龍は、天敵ではなく、最上の贄でしか無い。


 今まで様子を窺っていた者も含めて、一斉に亀がケイスに向かって殺到しているからだ。そしておそらくは地下の吸魔樹の根も。


 切り札は、切った段階で勝負に出なければ、意味はない。


 全方位から一斉に迫る亀達の光を風を熱を感じ、地形情報を読み取り、剣技を組み立てる。


 暗闇の中でケイスに高速で迫る光の群れ。それは端から見ればまるで不気味に輝く夜空の星が、一斉に凶兆を指し示す流れ星に変わったかのような幻想的な光景。


 ならば付けるべき名は、



「参る。フォールセン二刀流新技……凶星流し!」



 妖光を放つ亀を迎え撃つために自ら動いたケイスは、最初の光に剣を合わせ弾き飛ばす。狙いはサナが産み出したであろう風の盾。


 その正否は視認せず、崩れた体制のままで振るえる剣で角度を合わせ、別の亀を剣で捕らえ石柱の1つに当てて、自分の元へとまた戻ってくる角度へと調整して弾き投げる。


 速度も角度も違う亀たちを、ケイスは次々に自分の元へと戻ってくるようにはじき返しながら、途切れなくサナが構える風の盾に向かって弾き投げる。


 そして盾によって跳ね返された亀たちは、なすすべも無く地下通路へと落ちていった。


  








「な、なんて無茶な!?」



 一方でケイスの不可解な指示に困惑し僅かに遅れながらも、とっさに風の盾を作り出していたサナは、魔術師の杖でもある兵仗槍を構え、その先に産みだした不可視の盾を必死に維持していた。


 ケイスが打ち上げた亀が当たるごとに盾が削られるので、常に平面を保つように魔力を注ぎ補修を続けなければならない。


 僅かなズレや歪みでも、亀モンスターは地下室から通路に落ちていかない


 かなり繊細なコントロールが必要なのだが、ケイスが行う剣技の難度と比べれば児戯にも等しい。


 的確な角度で打ち上げられる亀を除き、はじき返した亀はお手玉でもするかのようにケイスは剣と障害物の間を往復させて無力化させているのだが、その数は多く、一瞬でも気を抜けば流れは途切れる。


 さすがのケイスでもかなり無茶をしているのか、反応が徐々に鈍り始めている。だが身体の動きが鈍るごとに、逆にその剣技はさえていく。


 間に合わない、角度があわない、力が足りない。


 サナがそう判断する状況さえも、ケイスは次の瞬間に答えを導き出し、消耗している身体を使い、成し遂げてみせる。


 見た後でさえも何故そうなるのか、何故そう判断したと、理解ができ無い剣が、天才が振るう常人の理を離れた、理外の剣をケイスは行使する。


 そこに感じるのは圧倒的な才能。


 だがそれ以上に感じるのはサナやファンドーレに対する信頼感だ。


 ケイスは指示をした後は一度もサナ達の方を見てもいない。そこに風の盾があるのかと意識さえしておらず、全身全霊をモンスターに向けている。


 自分達が必ず望む通りにやってくれると、強い信頼を抱いていると、その件が如実に語っていた。


 ケイスの真意を未だ理解が出来ていないサナとしては、強すぎる一方的な信頼には困惑を覚えるしか無いのだが、考える暇も、躊躇する余裕も、状況は許してくれない。


 風の盾で跳ね返った亀たちは次々に直下の穴の中に叩き込まれていく。上手いことに通路に落ち、さらに続々に追加が来るので這い出すことも出来ないようだ。



「これで最後だ!」



 5分ほどもの間、休む間もなく剣を振り続けたケイスが、右手の爪の剣を大きく降りきり頭上に向かって弾き飛ばすと同時に力尽きたのか、片膝を突いて地に伏せった。



「ウォーギン達の言う通りに、あいつはつくづく化け物だな。ゴーレム造成魔術を応用して床を崩してうめる。姫はケイスを担ぎ上げてきてくれ。あの位置だと巻き込む」



 いつの間にやらサナの横に浮かんでいたファンドーレが、背中の羽根を揺らしていて、みれば倉庫の四隅に妖精族独特のゴーレム生成魔法陣が描かれている。


 どうやら次々に亀が降り注ぐ中でも、全く気にせずケイスに頼まれた作業をしていたようだ。


 サナが慌ててケイスを拾い上げ空中に戻ると同時に、ファンドーレが石ゴーレムを起動させ立ち上がらせる。


 床の一部がゴーレム化して抜けたことで崩落し、地下室が瓦礫の山に埋もれる。止めとばかりにファンドーレは産み出したゴーレムもその瓦礫の山に寝かせると即座に解除し重しを追加した。



「……ん。あれだけやれば、出で来られまい……ファンドーレ。最初に埋めた一匹の方も処理してくれ。お腹が空いたから、あっちは食べるから粘液を何とかしろ」



 サナの手の中で疲れたのかぐったりしていたケイスは、空腹を訴える自分の欲求に従い、崩壊した倉庫の真正面の瓦礫に埋まったままの亀の生き残りを指さした。



「瓦礫の上から炎で炙って、石焼きにすればどうにか出来るな。しかし甲羅に星形の穴。成獣になれば山ほどの巨体になりダンジョン化するマウントタートルの亜種か幼体の可能性が高い。死骸は研究用に持って帰るから足の一本くらいは残せよ」



「ん~。亀の蒸し焼きか。よかろう。任せた」



 下に降りていくファンドーレを見送ったケイスは、会話の内容はともかく美少女然としたその顔に満足そうな笑顔を浮かべて頷いた。



「食事の前にケイスさん。貴女には怪我の治療が必要です」



 先ほどまで命がけの戦いをしていたというのに、戦闘終了後すぐに通常状態に戻った二人の会話に、常人のサナはついて行けないが、割れたこめかみからは血が流れているケイスを放ってもおけずファンドーレの後を追おうとしたが、



「ん~。その前にサナ殿に頼みがある。助力してくれた者がいるので礼を言いたいので連れて行ってくれ。どうやらすぐにも力尽きそうな気配だから急ぎだ」



 制止したケイスは何故か上空を、石化した龍の一匹を指さしていた。

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