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永宮未完 挑戦者編  作者: タカセ
第二部 挑戦者と始まりの宮
112/119

挑戦者と十刃

「ん……むぅ……これもダメだな」



 凍えるほどに冷たい水の中から引き上げた古びた剣を一瞥して、すぐに眉を顰める。


 金属ではあるが、鉄や鋼鉄では無いようで表面にはさび1つ無いが、刀身に大きなヒビが入っていて、今にも折れそうだ。


 柄の方は細めなので、小さなケイスの手でも持ちやすいのだが、さすがにこの刀身ではいくらケイスが剣の天才と言えど、この壊れかけの剣で斬れるのは精々1回、2回がやっとだろう。


 水が涸れかけているので深いところでもケイスの膝下くらいまでの浅さなので地底湖とはとても呼べないが、それなりに広さはある池の大半を探し尽くしたケイスは仕方ないと諦めて、拾った剣を片手に持ちながら、サナ達がいる中心の岩へと戻ることにする。


 たしかにラフォスが感じ取った通り金属製武器がいくつも落ちていたが、激しい戦いでもあったのか刀身の損傷がどれも激しく、使い物になるのは1つも無かった。


 上の戦闘でオーガやオークが使っていた石棍棒などは、高所からの落下で砕けており、こちらもまともな物は残っていない。



「やはり相当古い様式だな。字の解読は出来たか?」



 立てかけた9本の剣の表面を調べていたファンドーレの近くに、最後に拾ってきた剣を同じように並べたケイスは、すり減っていた柄頭を一瞥してから、頭上へと目を向ける。


 岩に突き刺さっていた大イカの死骸は、フナムシたちによって今は綺麗さっぱり消え去り、そこに刻まれた文字と、同じ属種の文字が柄頭に刻み込まれていた。


 ほかの剣にも同じ様式の文字があるのだが、それらは今の時代、世界のどこでも一般的に用いられている共通文字とは、大きくかけ離れたものだ。



「4腕、頭骨も独特の形状のスケルトン。おそらくは西方の虫人族とみていい。虫人は氏族事の発声法が違う孤立言語。その所為で類似文字が無い孤立文字と虫人共通文字の併用を行っていたという。そしてこれらが虫人共通文字でないのだから、十中八、九、消滅文字だ。解読するには、サンプルを集めて数年がかりになるな」



 古字。それも使用種族がとっくの昔に死滅した消滅文字と呼ばれる物だとファンドーレは断言し、お手上げだと解読を諦める。


 消滅文字はトランド大陸では珍しい物では無い。


 火龍侵攻と同時に発生した迷宮モンスターの大増殖による破滅的破壊。


 いわゆる暗黒時代に、トランド大陸から消えた国や人種は、数百以上とも、あるいは数千とも言われている。


 これだけ数がぶれている理由も単純明快で、生き証人どころか、街や国その物が痕跡さえ無く破壊され、東の雄。東方王国のような大国ならまだしも、都市国家規模の小国家、もしくは一種族による閉鎖コミュニティなどは、現存する僅かな当時の資料の片隅に名前の1つでも残っていれば奇跡的という有様だからだ。

 


「虫人か。大昔には多くの氏族をもつ一大勢力だという話だったが、今現存しているのは数氏族だけだったな。むぅさすがに会った事は無いな。サナ殿は付き合いは無いか?」 



「あいにく私もおりません。ただ……お爺様の古い知り合いにいらっしゃると耳にしたくらいでしょうか」  



 探るような目をサナが向けている事には気づいたが、ケイスは無自覚的に頬を膨らませる。


 サナの祖父であるソウセツは、ケイスが会うのを楽しみにしていた探索者ではあるが、今は実力で打ち倒すまで大嫌いになると決めている。


 だからその力を頼るのは不本意だが、だがこの場合は仕方ない。


 自分の好き嫌いで、死者を軽んじるなど、それこそケイスの行動原理に反するからだ。



「うぅぅっ、ならこれをあの男に渡して、虫人に届ける様に頼んでくれ。氏族は違うとはいえ、先達達の墓標を弔うには同種族の者達がふさわしいからな」



 比較的に状態が良く、多く文字が刻まれた剣を1本取ってサナに押しつけるように渡す。


 本来ならば発見した自分が届け、その状況を伝えるのが筋だが、さすがに西方まで赴き、ひっそりと隠れ住むという虫人のコミュニティを探す時間はケイスにも無い。


 だから不承不承ながらも、ソウセツを頼らざる得ない。


 それは判っているが、ただソウセツに負けた気がして悔しいのは変わらない。



「物事を頼むのならば、私が紹介しますのでご自分で、」



「解読不可能な以上ここにいても仕方ないが、私はもう少し武器になる物を探してくる! 二人とも出立の用意をしていろ!」



 言いかけたサナの提案を無理矢理遮り、ケイスは岩場から飛び降り走り去る。


 直接会ったら、とりあえず戦う為に斬りかかるつもりだが、今はまだ勝てない。これ以上負けを積むのは悔しいから、まだ会わない。会うわけにはいかない。


 ケイスからすれば単純明快な理屈なのだが、それは狂人なケイスの理屈。他者から見れば誤解を生む行動でしかないと、まだまだ世間一般との付き合いに疎いケイスは気づいていなかった。








「…………」



 走り去ったケイスを無言で見送りながら、サナは小さく息を吐き出す。


 始まりの宮前に決闘めいた戦いをしたが、今の所サナとケイスのコミュニケーションには問題無い。


 むしろケイスの方はなぜか親愛の情を向けてくれているのは、言葉の端々から気づいている。しかし祖父の名前を出すと、途端にあれだ。


 あまりに判りやすい拒絶の態度に、ロウガの街中でまことしやかに囁かれる噂が、どうしても気に掛かる。


 やはりケイスは、ソウセツの血をひくのではないか?


 厳格な祖父が、若い頃は有能だが破天荒で素行の悪い探索者で、探索に成功する度にその報酬で色街に入り浸って豪遊していたというのは有名な話だ。


 口さがない者などは隠し子の一人や、二人いてもおかしく無いとも。


 あまりに年齢離れした戦闘力、ソウセツに向けてみせる強い敵意、ソウセツの義祖父であるフォールセンの最後の愛弟子、そして何より前期の出陣式に殴り込んできた暴挙。


 サナの知るあらゆる情報、状況が、その根拠無い噂を確信へと近づけていく。


 ケイスがソウセツに敵対的なのは、捨てられた、無かったことにされた祖母や、父もしくは母の怨みでは無いか。


 もしケイスがソウセツの血を引くのであれば身内であり、年齢差的にサナにとっては妹同然のようなものだ。身内同士の争いをサナは、ロウガ王族は望まない。


 だからサナとしては、ケイスの真意を確認して、ソウセツと一度じっくりと話し合ってもらいたいのだが、いまだその足がかりさえ掴めていない状況だ。


 

「姫。あれの行動に関してはあれこれと考えても無駄だと思うが」



 疑心暗鬼で色々と思い悩んでいるのが表情に出ていたのに気づいたのか、時間の無駄だと言わんばかりにファンドーレがあきれ顔を浮かべていた。



「ソウセツ殿とケイスの間に何らかの確執はあるのは確かなようだが、自分が納得するまでは他者の意見など気にもとめないから、放っておくのが最善かつ唯一の方法だろうな」 



「殺し合いになるかもしれないのに、放っておくなど出来ません」



「いくらケイスと言えど、さすがにソウセツ殿相手では、しばらくはまともに戦いなどならないだろう。それこそ余計な心配だな。それよりもだ姫。あいつがいないうちに解読結果を伝えておく」



「ぇっ!? か、解読ができていたのですか!?」



「あぁ。消滅文字だがこの手の古語に詳しいへんた……知り合いがいて、幸運にも教わっている中の1つだった。ただ岩に刻まれた内容が不穏だったので、ケイスには伝えるのを止めておいただけだ」



 ファンドーレがなぜかしかめっ面を浮かべながら、 あっさりと前言をひるがえす。



「不穏? なんて書いてあったのですか」



「文法も違うので要約となるが、『封希望。破壊絶望変化。絶望死経希望有』何が希望か、絶望かは断定は出来ないが、この大岩は人工的にした封印で水源を遮っているのは判った。隙間から僅かに水が漏れて、この水場は作られているので、水源は枯れていない。この蓋である岩を破壊すれば水があふれる仕掛けだろうな」



「水で満たされる……希望はともかく、絶望は吸魔樹が完全復活するという事でしょうか?」



「文面と状況から考えてそうかも知れないが、まだ情報は少なく、何が起きるかは判らない。だから、壊す、壊さないはもう少し調べてからにしたいが、ケイスに伝えれば、壊せば判るなら、壊すとなりかねない。短絡思考馬鹿には隠しておけ。それと俺の指輪がこれの解読成功と共に解除されたが、姫の方はどうだ? 姫も俺と同じく真下に反応があったのだろう」



 人形サイズの小妖精族のファンドーレにに合わせて、極小だが歴とした探索者の証である指輪は銀色に色づき、始まりの宮の試練を突破した事を示していた。


 しかしサナの指輪はまだ透明のままだ。だがそれも当然だ。



「いえ……まだ色づいていません。今は感じるのは上のほうなので通り過ぎてしまったのでしょう」



 ケイスの安否を確かめにいくだけでは、仲間達が許してくれないだろうと思い、試練がケイスと同じく真下にあると嘘をついていたからだ。


 そこにファンドーレも真下だと言うこともあり、飛行能力を持つ二人がケイスを探しに縦穴を降りてきた訳だが、結果は二重遭難という有様。


 サナが指輪から感じる試練のはっきりした方向は無い。全方向にうっすらと感じるのだ。


 この手の感じ方の試練は、迷宮内で何匹のモンスターを倒せという討伐系試練が多いと講習会で習っている。


 だからサナは自分の踏破には、あまり心配はしておらず、ケイスの真意を探ることを優先していた。


 








「お爺様。ほかに金属の感じはあるか?」



(水中にはもはや武具と呼べる大きさの物は無い。だが我を使うにはもう少し時間はおけ)



「ん。だいぶマシになったが、さすがに間を置かないでの闘気生成は控えるぞ。1日、2回か3回といったところだな」



 身体に流れる龍血は、本来の力を解放するための切り札ではあるが、同時にケイスを殺しかねないほどに暴虐。


 超常の力を支配するためには、また超常の力を。すなわち迷宮を踏破し天恵を得て、肉体強化をすれば良い。


 だからそちらは心配していないが、ケイス的に目下の問題は武器だ。



「どうも大イカを倒した時に僅かながら力を得たようだ。このままではお爺様はともかく、ナイフの方も存分に振るえんからな」



 先ほどフナムシの群れを屈服させた戦闘ナイフを引き抜いてみれば、刀身には刃こぼれや細かなヒビがいくつも見てとれた。


 それはケイスにとっては予定外のダメージ。


 フナムシの群れとの戦闘時には今現在闘気強化無しで出せる最大の力と、速度で振るっても、刀身に致命的なダメージを与えるほどにはならなかったはずだが、ケイスが自覚していた最大値よりも、僅かだが上回っていた所為で、余計な力が刀身に加わった結果だ。


 既に長剣は折れ、替えはあるがナイフにも軽くないダメージを負っている。武器となる物を探すのは、剣士として当然の行動だ。



(…………)



 一方で予定外の力の増加に末娘が本格的に迷宮神の思惑に取り込まれたことを悟りながら、ラフォスは真実への口を噤む。


 本来であれば天恵は、迷宮を踏破して初めて探索者にもたらされる超常の力。


 だがケイスは違う。その役目は龍王。むしろ迷宮に属するモンスター側だ。迷宮で敵を倒せば倒すほど、その力を喰らい、その場で上限無く強化されていく。


 クラーケンだけでは無く、微々たる物だがフナムシたちを倒し得た力もケイスは取り込んでいる。


 だから予想外に力を振るえてしまい、それが武器へのダメージへと返っている。


 迷宮【永宮未完】は蠱毒の壺。この世の最強種、龍。その龍の中の龍。龍王を産み出すために用意された褥。


 そして世界の敵たる龍王を討伐する力を、人種が得る過程を楽しむ、神々達の遊戯台。 


 かつて永宮未完が出来上がる前の、討伐されるべき龍王だったラフォスだからこそ知るこの世の真実。


 世界の理を知る者は、知らぬ者に語る事を許されないと知るからだ。語れば迷宮神によって存在事、抹消されてしまう。


 既に自身は終わった者と悟っているので、消滅すること自体に恐れは無い。


 だがどうにも気に掛かる末娘の行く末だけは、許されるまでは見守り、力を貸そうと思っているのもまた事実だ。



(金属では無いが、あれらはどうだ? 大イカの残した爪のようだ。骨ごと喰らう掃除虫共が食い残すほどだ。よほど頑強であろうな)



「ん。あれか。そういえば最初に一撃を防いだときかなり堅い感触が返ってきたな……ん~大いかの嘴は見当たらんから、あっちは喰われたか。なら爪の方が堅いようだな」



 先に落ちてきたオークやオーガどころか、スケルトンたちの骨の1つも水の中には落ちていない。大フナムシたちによって綺麗さっぱり喰われてしまったようだ。


 一番手近にあった爪に近づいたケイスは水中から拾い上げる。


 僅かに弯曲気味だが長さや幅的には大剣ほど。しかしその重さは金属剣の半分ほどに軽い。叩いてみると堅い感触と音が返ってくる。


 

「切れ味は……ふむ。これは斬撃特化と見た方が良いな」

 


 腕を覆っていた金属小手を近づけ滑らせてみると、力を入れていないのにあっさりと傷がつく。爪の方には欠けは見られない。


 下手に持つと手を切ってしまいそうなので、ナイフから引き出したワイヤーと布きれをかませて縛り背中にくくりつけ、ほかの爪も拾いに行く。


 次に拾った爪は針のような形をした細長い円形状で、先端は鋭い。突き刺し用といった形だ。


 さらに次に拾った爪は、片側半分が先端から半分ほどまでに、ギザギザの細かな突起がついたのこぎりのような爪。


 かと思えば、中身に何かが詰まっているのか、先端だけが膨らみ重くなっているメイス状の爪と、10本共にやけに個性が強い作りをしていた。


 形はどれも違うが、共通しているのはずいぶんと頑丈だが、根元辺りが中空になっているのか見た目より軽く、今のケイスの力でぶん回しても、ちょっとやそっとでは損傷し無いだろう。


 しかしどれも持ち手となる部分が無くつるっとしているので、このままでは使いにくい。


 街に戻ってから鍛冶屋に持ってけば、簡易改造で使えそうだが、このままでは、



「ん。良いことを思いついた」



 どうにか使う方法が無いかと考えたとき、ケイスはある案を思いつき、きょろきょろと辺りを見回す。



(どうした娘? 爪はこれで全部だが)



 ケイスが見つめる先にはイカを喰らったあとも、ケイスを警戒しているのか遠巻きに見張るフナムシたちの群れ。



「いや……っと、いたな。とりあえずどれが喰ったか判らんから手当たり次第に腹を割くか」



 物騒な事を言いだしたケイスは、言葉とは裏腹な名案を思いついたとばかりの笑顔を浮かべると、フナムシの群れに突進していった。










 それは突然だった。先ほどまでは遠巻きにこちらを伺っていたフナムシたちが急にざわめきだし、岩場の裏側から激しい水音が聞こえてきた。



「虫たちが!? 新手のモンスター!?」



「怪物と言えば怪物だな。どうやらケイスがフナムシ達に襲いかかって逆上させたようだ」



 移動準備は終えていたがケイスが戻ってくるのを待っていたサナが驚きの声をあげるが、先に岩場の裏側を見たファンドーレが冷静な声で告げる。



「な、何をしていますかあの娘は!?」  



 予想外の言葉にサナも慌てて裏側に回ってみると、腹を割かれて死亡したフナムシを担いでこちら側に走ってくるケイスと、その背後から津波のように押し寄せるフナムシの群れが見えた。


 腰から爆裂ナイフを抜いたケイスが背後に投げつけ、発生した爆風と音でフナムシを一瞬怯ませ、一気に岩場へと駆け戻ってくる。



「ケ、ケイスさん! 貴女一体どういうつもりで!」



「サナ殿ちょっと防いでいてくれ。だが試し切りをするから全部は殺すな」



 身勝手さを発揮したケイスは、戸惑いながらも問いただすサナをまるっきり無視して、背負っていたフナムシの死骸と大イカの爪を放り降ろす。



「っ! か、勝手なことを!」



 理不尽すぎるケイスの言動に、生真面目なサナは怒りを覚えるが、フナムシたちが迫っているので、ケイスを叱るなんて悠長なことをしている暇は無い。


 兵仗槍を構え追い払うために岩場から降りたサナを見送ったケイスはまとめていた荷物の中から引き上げていた剣を1本引き抜き、そのまま横の岩に叩きつけ刃もとを僅かに残し躊躇無く叩き折る。


 先ほどまで弔う云々を言っていたのに真逆の行動も良いところだが、ケイスからすればこれも当然。


 剣として死んだのだからその使い手達の遺志を尊重し墓標として丁重に弔うのが最優先だが、剣として蘇る道を見つけたのだ。


 ならば剣の天才たる自分が使ってやるが、もっともふさわしい弔い。


 まさに身勝手。まさに剣馬鹿。


 叩き折った剣を先ほど担いできたフナムシの裂いた腹の中に突っ込み、すぐに引き抜く。


 その先端には粘着性の強い物質がべったりとついていた。



「大イカの足の粘着物質だな。接着剤代わりにでもする気か? サンプルにしたいから少し残しておけ」



 魔術を使えるならともかく、吸魔樹の根がそこらに張り出しているここでは自分は役に立たないと達観しているファンドーレは、ケイスの作業と、その背中に背負ったイカの爪を見て興味深げな声をあげる。


 大イカの足を覆っていた岩を頑強に貼り付けていたのは、その足からにじみだした粘液。色と匂いで、ファンドーレはその正体を見抜いたようだ。


 迷宮学にはモンスター素材の利用研究もあるので、学者としての探求心を優先している。 



「うむ。柄の方は細めで使いやすそうだったからな。だからこうして」



 大剣サイズの爪を左手で支え、その根元に向けてケイスは右手で鋭い突きを解き放つ。


 折れた剣であろうが、どれだけ硬い爪だろうが、天才たるケイスが放つ近距離からの動かない物体への突きで、突き破れぬ物など無い。


 強い抵抗がありながらも、正確無比に外側を突き破り中の空洞部へと到達する。


  

「むぅ。ぐらぐらするな。しばらくしないと乾かぬか?」



「火であぶれ。その手の素材は少しの火ですぐに硬化する物が多い」



 ファンドーレのアドバイスに従いカンテラの覆いを外したケイスが、灯心の火で接続部分を炙ると半透明状の粘液がすぐに黒く染まり、ぐらついていた爪、否、刀身が安定する。



「ふむ……よし! さすがだなファンドーレ! ちょっと試し切りをしてくるからほかのも同じようにしておいてくれ!」



 一、二度素振りをしてその手応えを確かめたケイスは、喜色満面の笑みを浮かべ、大立ち回りを強いられているサナの方へと駈けだしていった。


 

「どうやってやれというのだあの馬鹿は。しばらく時間が掛かるなサンプルの確保をするか」



 ケイスの技量があって初めて出来る力任せの改造をやれと言われても、できる訳も無い。


 鬼神の如き勢いでフナムシたちを一刀両断し斬り捨てだしたケイスを一瞥して、無理な頼みを頭から無視したファンドーレはフナムシの腹に近づき、己の知識欲を最優先することにした。

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