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永宮未完 挑戦者編  作者: タカセ
第二部 挑戦者と始まりの宮
107/119

挑戦者達の戦い

 狂気、もしくは狂喜、それとも驚喜か、血走った赤い目が、闇の中、四方八方からケイスへと迫り来る。


 自由落下でバサバサと揺れる外套のはためく音と、耳元を通り過ぎる風音に混ざるのは、無数の羽ばたき。


 周囲は全て敵。誰もがケイスを喰らおうとしている。必死に、先を争い、全力を持って、食らいつこうとしている。


 だからケイスは笑う。嬉しさで笑う。口元に好戦的な笑みを浮かべ、心を弾ませる。


 長剣を持つ右手の小指を強めに握る。手甲と一体化したグローブに仕込まれていた伝達魔具が動作に反応し、仮面の暗視魔術と、外套魔具に込められた軽量化魔術が発動。


 手足を縮めて、球状の軽量魔術効果範囲にケイスの身体はすっぽりと収まる。


 表面積はそのままに自重だけが1/10以下となったことで、一気に増加した空気抵抗によって落下速度が急激に落ちた。


 急激な速度変化によって蝙蝠達には、まるでケイスがいきなり空中で止まったかのようにみえただろう。


 その一瞬の虚をつき、背後を振り向き様にもっとも手近のケイスに噛みつこうとしていた蝙蝠の頭部に、剣を叩きつけ怯ませる。


 接触と同時に小指の力を緩め、軽量化を解除。


 蝙蝠の身体に食い込んだ剣を支えにしつつ、柔軟な身体を使い、左足を蝙蝠の首を刈るようにして引っかけ、そのまま全身のバネを使い上体を無理矢理起こしたケイスは、不快な金切り音めいた鳴き声を上げる蝙蝠の背に飛び乗った。


 極上の餌に歓喜し狂う蝙蝠達は、同胞の区別さえつかないのだろう。ケイスが足場とした蝙蝠諸共喰らおうと牙を剥きだし群がってくる


 手を伸ばせばすぐに触れるほどの距離に、蝙蝠の血走った目が数え切れないほどにあった。


 落下する蝙蝠の背を蹴って跳躍したケイスは、両手の剣で牙を受け止め、爪を流し、身体をすかしながら、次の足場に目標を定めると着地、即座に跳躍。


 蝙蝠で出来た大地を次々に踏み渡って、致命的な攻撃をひらりと躱し続ける。


 斬ろうと思えば斬れる。殺そうと思えば殺せる。剣が届かなくとも、足りずとも、肘、つま先、膝、頭、全身を駆使して戦えば、どうとでもなる。


 だがケイスは極力殺さないようにしながら、最低限度に剣を振るい、ひたすらに蝙蝠達を引きつけ続ける。


 群れのただ中に入ったことで先ほどこの空間に転位したときに感じ、予感は確信へと変わる。


 獣臭に混じるのは酸臭。見れば牙からは毒のように滴る液体が僅かでも付着した外套の裾がぼろぼろに崩れている。


 量は少ないが強酸性の溶解液を排出されている。おそらく身体の中に酸袋を持つはずだ。


 解体工房でばらし方を教わった蝙蝠の中にも、毒や燃焼液をはき出す為の器官を持つものが数多くいたが、その亜種の1つなのだろう。


 あのまま出現した空間で戦闘になって、蝙蝠を下手に打ち倒せば、かろうじて繋がっていた蔦の橋は、あっという間にぼろぼろとなって、大半の挑戦者達が足場諸共落下する羽目になっていたはずだ。


 落下した先は先も見通せない暗闇。軽量化や浮遊の魔術を使って何とか生き残れる者もいるだろうが、それら中級魔術を使える者は挑戦者の中では極一部だ。


 かといって蝙蝠達を倒さずにあの場を確保どころか、移動するのさえ難しい。


 戦うならば足場よりも下。それもなるべく多くを引きつけ上には行かせず、足場を頑強にするまでの時間を稼がなければならない。


 幼少時に積み上げてきた龍冠での戦闘経験が、一瞬での状況判断、そして解決策を導き出していた。


 だからケイスは跳びだした。下手に恐慌状態に陥った同期達の暴発によって戦闘が始まり、自分が引きつけれる数が減る前に。 


 即断即決した甲斐もあって引きつけれた蝙蝠は全部で数千を超えるか?


 なら困らない。ここが空中であろうとも、己の才を持って敵を大地とし、足場とすればよい。


 斬りたいと、殺したいと叫ぶ本能を、意思の力で支配するケイスは、不安定な足場を渡り続けながら、今度は左手の中指を強く握り、通信魔具に魔力を通した。








 まるで明かりに惹かれる虫たちのように一斉に動き出した蝙蝠達は、落下するケイスに釣られ、自分達には目もくれず目の前を通り過ぎていく様を、呆気にとられていた挑戦者達の大半はただ見送るしかできなかった。


 呆然としている中で動き出したのは、ケイスが指示を出した、ケイスが信頼する仲間達だ。



「うわぁ……落下しながら戦闘でもするのかと思ったら、ある程度の高度を維持して戦ってるよねアレ?」


 暢気な声を出しつつも、護衛を任せるといったケイスの指示があったので、蝙蝠が戻ってくるかと偵察のために足場の縁で眼下を見下ろしたウィーは、100ケーラほど下で発生した蝙蝠で出来た黒い雲を発見する。


 ケイスの覆面の元になったウィーの変化型鎧にも暗視用の魔術機構が取りつけられているので、元々の視力の良さもあって、蝙蝠達の浮き出た血管の一本一本も昼間のように見通せるが、肝心のケイスの姿は、分厚い蝙蝠雲に隠れてうかがい知ることは出来ない。


 ただあの雲が下に降りていかずその場に留まっている事から、どうやらケイスがあの中心で戦闘に入ったとおぼしきことは推測が出来た。



「蝙蝠を足場に飛び渡ってるんでしょ。前も似たようなことをやってたわよ。ウィー下の警戒は頼むわね! ウォーギン! 広範囲に耐酸性魔具って展開できるの!?」



「ちょっと待ってろ。今から作る。個人用のシールド系魔具ならあるから、拡大形の術式を使って改造する。ただこの広さで終わりまでの数日分を持たせるってなると、短く見積もっても10分くらいかかるぞ」



 首飾り型の魔具をいくつか取りだし、手持ち工具を広げたウォーギンは、常識ではあり得ない時間を伝えてくる。 


 魔具は精密な術式で構成、完成された代物。下手に弄れば術式その物が破綻し使い物にならなくなる。範囲を拡大させ、効果時間も延長させるとなると、新しく設計して新造した方が遥かに早いほど。


 とても片手間程度に出来る作業ではないのだが、そこはケイスが認める天才魔導技師。


 パーティが有する魔具のほとんどは、自分が作り、整備し、設計詳細を当然把握しているのだから、手持ちの魔具同士を組合わせ、ケイスの望みを叶えるための品を作り出すのも造作も無い事だ。



「ウォーギン。基点魔具も起動させろ。それとルディアはほかの連中も説得しておけ。ケイスの言う通り協力関係にある連中だけじゃ数が足りない。あの馬鹿に状況を説明させれば、ここが死地なのも判るだろう。それでも協力しないという、あの馬鹿以上の大馬鹿共なら勝手にさせておけ。俺は使い魔で橋の先を先行偵察しておく」



 宙に浮かぶ小妖精のファンドーレは、基点魔具との接続処理を行いながら、左手でポケットからビーズほどの小さな実を取り出すと、それを基礎とし使い魔を作り始める。


 呼び指されたのは小さな羽虫状の仮想生命体。移動速度は遅いが、その大きさ故に目立たず、潜伏や潜入に適した種別となる。



「ファンドーレが頼まれたんでしょうが」



「俺が話すと、大抵喧嘩別れになるが良いのか?」



 率直すぎるというか、口の悪さは自覚しているが、治す気はないのだろうファンドーレは、素人迷宮学者としての血が騒いでいるのか、周辺探索に専念する気のようだ。


 この上ない説得力のある返しに、改めて他者との折衝が自分の役割だとあきらめたルディアは、まずは通信魔具を取りだす。


 言葉で説得するよりも、自分も含め未だ状況が詳細に判っていないのだから、ケイスとの会話を聞かせる方が手っ取り早いはずだ。


 

「あーもう判ったわよ。ケイス! 聞こえる? どういう状況!?」



 腕輪型にして身につけていた通信用魔具の感度と音量を最大まで上げ、下で戦闘中のケイスの魔具と接続する。


 ルディアの呼びかけはケイスに聞かせると言うよりも、同期達への合図であり、ざわめいていた彼らも公然と聞き耳を立て始める。



『ん。何とか引きつけっと! いる! 奴等の牙に強酸性毒液が含まれている。身体の中に毒袋持ちだろうから、下手に斬ると酸で焼かれるから気をつけろ。酸の種類までは判らん! 可燃性か、それとも爆発性。あるいは有毒ガスを発生させるか。あるいはその全部か』



 状況を伝えるケイスの声に混じってノイズのような羽音と、気色悪い獣の叫びが絶え間なく響いてくる。ケイスが囲まれているのは間違いない。


 しかし声に焦りや危機感はないので、余裕があるのは伝わってきて、ルディアは顔には出さずとも安堵の息を吐き出す。


 実力で足元にも及ばず、比べるのもおこがましいかもしれないが、ケイスの何時もの無茶を心配するくらいは、年上の友人として最低限の権利として行使しても罰は当たらないだろう。



『ともかく先ほども言ったがその場所を確保しろ。16の分岐。その全ての交差点はそこだけかもしれん。指輪で目標の大体の方角はわかるはずだが、ばらばらではないか? 私はほぼ真下だ』



 ケイスの言葉に目を閉じたルディアは、右手の指輪に意識を向けると、右下方向に後ろ髪を引かれるような錯覚を感じる。


 神の試練である迷宮を踏破するための鍵が何かまでは今は判らないが、それがこっちの方向にあると本能が感じ取っていた。


 仲間達や先に協力体制をしていたパーティ達に目を向ければ、彼らも我が意を得たりと無言で上下左右をあちらこちら指さしている。


 パーティ事に方向の纏まりなどなく、むしろばらけているくらいだ。


 ケイスの言う通りこのスタート位置を確保しておかなければ、どれだけ遠回りさせられるかしれたものではない。



「あたしは、今の位置から右後方に反応を感じるわね。ウォーギン達や、協力してくれている人達も大半がばらばらの方向。耐酸の処置はウォーギンがやってるけど10分位掛かるそうよ」



『むぅ。長いな。もっとパッとできないか? 引きつけてはいるが、そっちに行くひねくれ者がいるやもしれんぞ。下手したら足場が崩れ落ちるぞ。それに橋の先も気になる。私なら同時に襲撃を仕掛けるぞ』

 


「ルディア! ケイスに無茶いうなって言っとけ! あんま焦らせると逆の効果になる。後傘を張るだけだから、燃えたり爆発するようなら意味ねえぞ!」

   


「だ、そうよ。聞こえた? あと橋の先はファンドーレが偵察に虫を出したわよ」



『変化があったらすぐに知らせろ。戻れたら戻る』



 激しい戦闘の最中だが、自分よりもこちらの状況が気になるのか、ケイスの声に僅かに愁いが帯びていた。







 立場や所属陣営も違う者達が集まっている挑戦者達。中にはケイスを敵視とまで行かずとも、厄介に思う陣営に所属する者もいる。


 だが、今この瞬間だけは誰もが声を抑え、ケイス達の会話に耳を傾けている。


 ケイスがもたらす情報は、確たる証拠も無い一方的に告げる物が多い。だがそれを信じさせるだけの真剣味を帯びている。


 いきなり飛びだした理由も、ルディア達が始めた作業も、全て辻褄が合う推測をしている。


 そして実際に指輪に意識を向けてみれば、目指すべき方向がパーティ事にバラバラになっている事実。


 下手に戦闘になっていればこの足場諸共に、大抵の者がスタート直後に落下していたかも知れない。

 

 もし無事にか細い蔦の橋を渡りきっていても、目標とは別方向で、大幅な時間のロスを余儀なくされていたかも知れない。


 全ては仮定の話。だがその仮定からでも、迷宮が自分達に向ける殺意を強く感じる。


 自分達が殺されずに生き残るには……


 目の前に燦然と輝く道しるべの存在に、誰もが口に出さずとも気づき始めていた。


 しかしそれを手に取るのを躊躇する者も多い。全てはケイスの行いのせいだ。


 あまりに問題行動が多く、正直頭のいかれているケイスの意思の元に動いて良いのかと、二の足を踏むのは仕方ないだろう。


 その空気を誰よりも実感し、二の足を踏むのは、ロウガ王女であるサナだった。


 ケイスと決闘めいたことをしでかして以来、ケイスが眠りについてしまったため、会話も出来ず、その真意さえ確かめられていない。


 むしろより疑わしくなっていたのだが、先ほどケイスが一瞬だけ醸し出した身の毛もよだつ恐ろしい気配が決定打となっていた……前期の出陣式の日に襲撃者が纏っていた空気。やはりアレはケイスだったと、今更ながらに確信する。



「……セイジ。先ほどのあの気配は」



「ケイス殿でしょう。しかし姫。今は御身の為にも忘れるべきでしょう。橋の向こうより怪物共の気配がいたします」



 同様にケイスの正体に確信を得たであろうセイジに話を振ってみると、セイジは軽く息を吐き既に戦闘態勢を取っていた。



「判りました。セイジ、プラドさんは橋を。好古さんとレミルトさんは一緒に来てください」



 信頼するセイジの言葉にサナは即断すると、仲間達に指示を出した。






 先ほどまで足場の縁で足元を見下ろしていたウィーは、セイジが動き出すのとほぼ同時に手近の蔦へ俊敏な動作で飛び移って、走り始めていた。



『スケルトンやオーガなど下級のモンスター共の巣となっているようだ。橋の上で戦闘となったら、一対一を余儀なくされ……一足遅い。出てきたぞ』


 

 通信魔具から僅かに遅れたファンドーレの舌打ちが聞こえると共に、蔦を渡った先に見えていた洞窟から、ぞろぞろと下級モンスター達が一連なりに出てくる。


 四碗を持つスケルトンの手には錆びついた武器が握られ、常人の数周りは大きなオーガの手にはひと抱えもある棍棒が握られていた。


 どちらも一対一で真正面からは戦いたくない装備だが、この足場に来るのを待ってからでは、一度侵入を許せば、収拾が付かなくなる。


 ならまだ橋の上で抑えた方がやりやすい。 



『むぅ。戻っている余裕も時間も無いな。ウィー! こっちはどうにかするからそっちを抑えろ!』



「あー了解了解。もう動いているよ。人使い荒いなー。でもさすがに1つだけだよ。って言うか見えにくいし、いきなり本気で行くしかないかぁ」



 身軽な動作で蔦の上を飛び渡るように走っていたウィーは指を1つ鳴らし、全身を覆っていた旅外套を、軽鎧へと変化させる。


 一応毛色は変えているので、すぐには気づかれないだろうが、自分の正体を知られると面倒なのであまり目立ちたくはない。しかしそうは言っていられる状況でもない。


 それに手を抜いて後でケイスに文句を言われて、詫びに稽古でも付き合えと言われた方が、百倍めんどくさい。


 染色して茶色に染まった毛をなびかせながら、ナイフのような爪を指先から出したウィーは、自分よりも大きなオーガが棍棒を振りあげるのも構わず、一気に懐へと飛び込む。


 瞬間的に加速した勢いのままに両手の爪を一閃。そこらの武器よりも遥かに切れ味の良いウィーの爪が、己の胴体よりも太いオーガの両腕を引きちぎり切断する。振りあげた棍棒は腕の勢いのまま明後日の方向へと飛んでいった。


 ちらりと棍棒を見送るが、目の前のオーガは武器も両手も失ってもまだまだ戦闘意欲はなくならいのか、大きく口を開き怒りの雄叫びと共に、ウィーを頭から丸呑みにしようとする。


 身も竦むような殺気の前でも涼しげな顔のウィーは、不規則に跳ねる蔦を蹴り飛び上がると、顎先に向けとんぼ返りをしながら蹴りを打ち放つ。 


 獣人の脚力によって打ち込まれた蹴りは顎だけでなく、その太い首さえもあっさり叩き折り、一瞬で絶命させる。

 

 ぐらりと揺れたオーガの巨体が、そのまま横に倒れ、虚空へと落ちていく。


 不安定な足場に、危なげなく着地したウィーは前方を見て、うんざり顔を浮かべた。


 先ほど落としたものと見分けが付かないオーガが既に次の攻撃を繰りだそうと、待ち構えていた。


 これではなかなか前に進めやしない。もっとも近いからと、この橋を選んだが、もっと楽なところにすれば良かった。



「あーと、ケイと違ってボクはおかわりはあんまりいらないんだけどなぁ」



 今から戻って別の所を選べないだろうか。


 当たれば必死の棍棒をかいくぐり近接格闘戦を始めたウィーは、オーガの振るう剛力に対して、速さで圧倒しながらも、暢気な事を考えていた。  



「あっちは大丈夫だろ。ルディア。お前は腕に自信は?」



「あんなの相手じゃ防壁にもなりゃしないし、あたしの魔術攻撃じゃ蔦にもダメージを与えそうで怖すぎで手が出せないわよ。クレイズンさん。手練の人がいたらこっちへの侵攻を防いでもらって良いですか! 後コントロールに自身ある人は横から魔術攻撃で後方を攻撃してください!」



 早々と一進一退の攻防を繰り広げだしたウィーを見守りながら、ルディアはどうすべきかと考え協力関係にある者達へと支援を頼み、ファンドーレがその場に大きめな魔術地図を展開する。


 それは球状にこの近辺の空間を切り取って表示したもので、簡易的に青で挑戦者達を現し、赤でモンスターを現し、橋の上で始まった戦いを一目でどこが押されているか、直感的にわかりやすい図を描き出していた。



「判った! とりあえず橋の確保を最優先する! 俺とミト、あとローリーで抑えるぞ! 横から攻撃する連中は角度に気をつけろ! 流れ弾も考えてなるべく上の方を狙え!」



 年かさのクレイズンが仲間達に指示を出し、散らばり始めた。これで防げるのはまだ四箇所かと、ルディアが地図へと目を向けると、橋の上で防いでいる場所は、16箇所中既に3箇所とされていた。


 いつの間にウィー以外の者達が? ルディアが誰がと確認しようとすると、一人の女性が近づいてきた。誰でも無いサナだ。



「ルディアさんでしたね。私のパーティからセイジと獣人族のプラドさんが迎撃に出ています」



「え、あの良いんですか?」



「あの娘に思うところはあります。聞きたい事もあります……ですが状況を判らないほど大馬鹿のつもりはありません」



 先ほどのファンドーレの言葉に対して返すつもりなのか、憮然とした表情を僅かにみせながらもサナが毅然と答える。


 その言葉通り、橋をすすでくる四本腕のスケルトン相手に、セイジが刀一本でも技量で圧倒し背骨を砕き、また別の橋ではおそらく熊族と思われる大柄な獣人が、同じくらいの体格のオーガ相手にここまで音が響くような殴り合いを展開して次々にたたき落としている。



「やれやれ。結局関わり合いになる事になりおるか。あちらはセイジ殿、プラド殿に任せておけば良いな。ならば我は補強の方へ廻ろうよの。蜘蛛を呼び出し補強するとしよう。レミルト殿。手助けを願ってもよろしいか?」



「足場の木を活性化しろってんだろ。好古てめぇなよろしいかと聞きながら、手伝い前提で話進めんな。しかもこっちの方が広いじゃねぇか」



「そこはほれ。レミルト殿の腕を信頼しておるからに決まっている」



 扇で口元を隠した好古は意地の悪い微かな笑いを漏らしてレミルトの文句を交わすと、袂からいくつもの札を取りだし、宙へと投げる。


 複雑な文字が描かれた札がぐにゃりと曲がり、掌大の大きな蜘蛛が札の数だけ産み出される。


 出現した蜘蛛たちは、次々に対岸の木壁へと向かって糸を吐き出していく。万が一蔦を切り落とされても、早々に落ちないように強化しているようだ。


 一方でレミルトの方はひとしきり好古を睨んでから、効果は無しと思ったのか諦めの息を吐き出すと、矢を取りだしそのまま足元に突き刺した。 


 ついで懐から小瓶を取りだしたレミルトが、矢羽根側から液体をふりかけ、小声で祈りを捧げる。


 すると足元の枯れていつ朽ち果ててもおかしくない古枝から若芽が飛びだし、さらには皺の入った皮がむけ、青々しい若木のものへと生まれ変わっていく。


 どうやらいわゆる自然魔術の一種で、古木を活性化させて、生き返らせているようだ。足場がしっかりとしてくれば、多少戦闘が激しくなっても、一部が崩壊、崩れ落ちる心配も少なくなるだろう。

 


「さて、ほかのパーティの皆様も腕に覚えがある方は橋をお願いします。私が言えた義理ではありませんが、各々の立場は、まずは生き残ってから思い出すことに致しましょう」



 サナがにこりと微笑み頭を小さく下げる。


 王族の貫禄とでも言うべきか。


 サナの言葉は、未だに去就を決めかねていた者達を動かすだけの力を発揮する。



「……王女さんの命令で動けるなんて機会は滅多に無いからな。後で自慢話にさせてもらおう」



「薬師さん! どこに行くか指示してくれ。あの獣人やサムライみたいにゃいかないがちっとはやれるぞ!」



「後ろをたたき落とせば良いんだろ。的当てならまかしときな!」



 全員が1つの集団となって動くのならば無理があるが、この場合は16に別れた橋の上の攻防戦というのが良かった。


 それぞれが独立した戦場と捉える事でパーティ事に分散しての対応が始まる。



「とにかく手近な場所から塞いでください。洞窟側にたどり着けたのならそっちの確保も。後マッパーの人は集まってください! 今だけでも構いませんから、地図情報の共有化をしてフォローしやすい体制を作ります」



 一気に動き出した同期達にどうやら指示役として担ぎ上げられたルディアは、地図を見て一番近い位置に割り振って、簡潔だが対応を指示していく。


 ルディアが指示をほぼ出し終え、それぞれで激しい戦いが始まり出すと、横にいたサナがルディアに問いかけた。



「さて、私は飛べますから各所のフォローへと廻ります。下にしますか。それとも橋の方でしょうか?」



 最後の最後に一番厄介な指示確認がきたルディアは、どうせならお任せしますと答えたいが、サナの目がそっちで決めろと強く語っているので僅かに悩む。


 そちらに協力した代わりに、ケイスと接触させろと言外に含んでいるような気がする。おそらくその推測に間違いはないはずだ。


 ケイスとサナを接触させれば、どうなるか判らない。


 しかし始まりの宮の間、一時的だけでもサナ達の協力を取りつけられたなら、この状況は安定するはずだ。



「周囲のフォローをお願いします。でこっちが落ち着いたら、下にケイスを迎えに行ってもらって良いですか?」  



「判りました。下の蝙蝠達の情報を聞きたいので、少し話をさせてもらいます。よろしいですね」



 油断ならない状況と、その後の展開を天秤において考えたルディアは、もっとも無難な答えを告げると、サナは念を押しながら有無を言わせぬ了承で返してきた。

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