勇者は魔法を使いこなせない?
……え、まさか本当に?
目の前で起きた出来事が信じられず俺は呆然としていた。
今起きたことを説明すると、ゴブリン捕まえて殴ったら人間になった。
……これで理解できる人いるのか?
とにかく今俺は元ゴブリンだった男の子の頭を掴んでいる。
意識は無いのか手足がブラーンと脱力した状態になっている。
なんか今の俺、客観的に見ると極悪人にしか見えないような……。
気にしない様にしよう。うん。考えたら負けだ。
俺は意識が無い子供をゆっくり下ろし、壁に寄り掛からせるように座らした。
体調も確認しないと。
「すーすー」
よし。規則的に呼吸してるし外傷も見られない。
問題なさそうだ。
「――さて」
もう一体の魔獣に目を向けるとオーガは俺を恐れているかの様に距離を取っている。
「今度はお前だ」
オーガに向かって話しかける。返事があるわけないがこいつも元は人間だ。
なら――
「元に戻してやる!」
そう宣言した俺はオーガに殴り掛かる。
「ガアアアアア!!」
オーガは俺に向かって炎を纏った拳を振るう。
俺はそれを避けて透かさずオーガの腕に踵落としを喰らわせる。
ドン! とオーガの腕に踵がめり込む。
――ダメか。
怯んで動かないオーガの懐に潜り、オーガの腹に拳を連続で叩き込む。
――このままじゃダメだ。
オーガが捕まえようとしてきたので再び距離を取って俺はオーガを観察する。
「変化無しか……」
思わず独り言を呟き溜め息を吐いてしまう。
さっきから俺はオーガに「元に戻れ」と念じながら攻撃している。
しかし、上手くいかない。
ゴブリンを殴った時、俺の右腕は熱くなり銀色に光り輝いた。
恐らくあの光がゴブリンを人間に戻したと思われる。
だから同じ事をすればオーガも元に戻せる筈だが、どうすれば同じ事が出来るかがわからない。
「一体どうすれば……。――っと!」
考え込んでいる内にオーガが接近し俺に向かって拳を振り下ろしてきた。
それをバックステップで避けると、オーガに殴られたコンクリートの地面が砕け破片が飛び散った。
俺はバックステップをしながら顔の前で腕をクロスさせ、片足を上げて急所を守りながら破片を避けて行く。
「ふぅ。危なかった」
体のアッチコッチを破片が掠めたが大きなダメージは受けずに済んだ。
一方のオーガは拳が地面に埋まったのか腕を抜こうと踏ん張っている。
このチャンスを逃したくはないが、力の使い方が解らない以上、無駄に殴りたくない。
元に戻せるのは分かったが魔獣化している時のダメージがどういう影響を与えるか解らないからな。
現に元に戻った子供は戦闘音が聞こえている筈なのに未だ目を覚ましそうにない。
だから出来るだけ少ない攻撃で元に戻したい。
問題は力の使い方が解らない事だが……
「あのー、すいません」
「ん?」
後ろ呼びかけられていることに気付いた俺は振り向いて確認すると、すぐ近くに赤い魔法少女が座り込んでいた。
どうやら戦っている間に近づいていたようだ。
「魔獣を元に戻すことができるんですか?」
俺がゴブリンを人間に戻したことが信じられないのだろうか、マーズと呼ばれていた魔法少女は期待と不安が入り混じった表情で質問してきた。
「ああ、多分な……」
俺はその言葉に苦笑しながら多分としか言葉を返す事が出来なかった。
「多分?」
「俺自身どうやったかわかってないんだ……」
それさえわかればオーガも人間に戻せるかもしれないのに……。
「え、魔法を発動した訳じゃないんですか? ゴブリンを元に戻した時に魔力……に似た力を感じましたけど」
「!?」
「似てるだけで違うかもしれませんけど」と補足はしたが、俺にとって魔法を発動させたかもしれないと言う事実が重要だ。
あの銀色の光が魔法に因るものなら、魔法を発動させる方法がわかればもしかしたら――
「マーズ」
「? なんですか?」
「魔法の使い方を教えてくれないか?」
魔法少女に頼るのは正直、癪だが背に腹は代えられない。
断られる可能性もあるが、それなら成功するまでオーガを殴るだけだ。
あまり使いたい手段じゃないが……。
「わかりました! 任せてください!」
「…………」
まさかここまで嬉々として引き受けてくれるとは思わなかった。
俺の想像では困った表情で『先輩に怒られるので……』とか言って断られるかと思った。
「良いのか? あのウラヌスって奴に怒られないか?」
ちなみに当のウラヌスは俺を観察している。俺が変身し、ゴブリンを戻したことで強い警戒心を持ったのか敵意しか感じられない目でこちらを見ている。
視線だけで人を殺せるなら俺は間違いなく即死しているな……。
「先輩は関係ありません! それに魔獣を人間に戻せる力を持つ人を助けることが間違っている筈がありません!」
「――――っ」
この娘はまっすぐだ。自分が正しいと思ったら周りに何を言われても自分の意思を貫き通す強さを感じる。
単純かもしれないが今の言葉で信用できると判断してしまった。
魔法少女は嫌いだがこの――マーズは信じられる。
「すま――ありがとう」
ここは謝る場面じゃない。礼を言うところだな。
「早速で悪いが、比較的すぐ出来る簡単な魔法ってあるか?」
我ながら無茶だと思うが、この状況ではオーガ相手に実践して貰いながら覚えなければならない。
マーズもオーガとの相性が悪いからきついと思うが、簡単な魔法がなければ時間が掛かってしまい、オーガがウラヌスに討伐されるかもしれない。
それだけは阻止しなければ――
「大丈夫です! 魔法は意外と簡単ですよ!」
「………………え?」
意外と簡単? そうなのか?
いや待てよ。彼女は学園で小さい頃から学んでいる。それに最初は一人で魔獣討伐を任されていた。つまり、それ程の実力があるから一人での任務を任された可能性がある。
その為に彼女の感覚では簡単だと感じているだけかもしれない。
ふう、驚かせやがってこれだから天才肌は困る。
「どんな魔法を使いたいかを杖を持って具体的にイメージして下さい! 名前を付けると発動のキーワードになるので魔法名を口にすれば杖が自動で魔法を発動してくれる様になります!」
本当に簡単だったぁあああああ!
要は杖を持ってそれっぽい魔法を唱えれば発動するってことだよね、それ!?
ん? 待てよ? 杖?
…………………………………杖!?
「あのさ、マーズ」
「はい、なんですか? もしかして私の説明解り難かったですか?」
「いや、そう言う訳じゃなくて……」
「?」
マーズは俺が何を言いたいのか解らず首を傾げている。不覚にも可愛いと思ってしまったが現実逃避している場合じゃないんだよ……。
「俺、杖を持っていないんだが……」
俺は残酷な現実を彼女に告げた。
「………………あ」
マーズは俺が言ったことがすぐに理解できず反応が遅かった。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。気のせいかオーガもなんか大人しくなってるし……。
「変身した時に持ってなかったんですか?」
マーズが確認する様に疑問を口にする。
「無かった、と思うけど……」
「なんですか?」
「俺が気付いていないだけで近くに落ちていたのかも……」
「…………」
「…………」
「今すぐ探して来てください! 時間は稼ぎます!」
「すまん!」
オーガをマーズに任せて俺は桜花達の元へ向かった。
中途半端ですいません。
出来るだけ早く続きを投稿します。




