覚醒したからって強い訳ではない
桜花。
「はい、なんでしょうか――さま」
もしもの時はこれを――さんに渡して。
――さんならきっとなんとかしてくれると思うから。
「これはなんですか?」
秘密兵器。
「兵器なんですか!?」
そう。――さんなら、いえ――さんじゃなきゃ使うのは無理だと思うから。
「――さまは助けてくれないのですか?」
私じゃ無理かもしれないから……。
「そうですか……。わかりました。ピンチの時は――さまに頼ります!」
うん、そうして。
「そして――さまに――さまを助けてもらえるように頼みます!」
え?
「――さまならそうします! そしてその時はわたしも……」
え、え、ええ?
「一緒に助けにいきます!」
***
認めたくないが俺達は今ピンチだ。建物の屋根の上にいるゴブリンが愉しげにこちらを見ている。
そしてこちらには一般人三人。そのうち二人は年齢一桁の子供、しかも一人は瓦礫に半分埋もれている。
頼みの魔法少女はオーガと戦闘中。……詰んでいやがる。
今、俺に出来ることは囮となって桜花を逃すこと! そして出来るなら魔法少女達がオーガを倒すまで持ちこたえて流星くんが助かるようにする!
そうと決まったら――
「にいさま!」
「!? なんだ桜花!」
妹に大声で呼ばれ反射的に振り向くと桜花は手にピンポン玉サイズのガラス玉の様な物を持っていた。
「これを使ってください!」
……え~と。「使ってください」って言われてもどう使えばいいのか、とか。
そもそも使ってどうにかなるのか、とかいろいろ疑問に思ったけど。
とりあえず受け取った。深く考えずに「桜花の言うことだから」と言う理由で。
「《解放》と言ってください!」
「えっと、《解放》」
桜花の言うとおりにするとガラス玉は光を放つとピンポン玉から野球ボールサイズになった。
ゴブリンは突然光ったガラス玉に驚いて固まっている。
「えええええ! なんだこれ!」
「にいさま! 次は《起動》です!」
「す、《起動》」
今度はガラス玉の表面にステータス画面に似たものが表示された。
ステータスに表示されている人型の上にDOWNLOADINGって表示されてるんだけど……。
あ、COMPLETEに表示が変わった。
「最後に《魔法衣装着》です!」
「《魔法衣装着》!」
俺がやけくそ気味にそう唱えると――
ガラス玉が突然光り出し、俺は光に包まれた。
――桜花をお願いします。
光の中で誰かの声が聞こえた気がした。
「……ううん」
光が収まっていることに気付き俺は目を開けた。
あ、ガラス玉が無くなっている。
……………………ん? あれ、これ俺の手だよな?
なんか銀色の金属っぽくなっているんだけど……。
試しにグーパーを繰り返す。……確かに俺の手のようだ。
試してみてわかったがこれ手甲だ。かなりフィットしてる上に素手みたいに動かせるから気付くのが遅れたけど。
よく見れば俺の脚にも同じデザインの確かグリーブって言うんだっけ――を付けている。靴も同じような金属を使ったような物になっている。
服も白いコートに黒いズボンと先ほどと違う服装になっている。
「え、え~と?」
な、なんだこれ。どうすればいいんだよ!
「にいさま! もう一回、流星くんを助けてみてください!」
え? ああ、そうか流星くんを助けなきゃな。
半ば現実逃避しながら俺は桜花の言うとおりに流星くんに乗っかった瓦礫をどかそうとした。
すると――
「え……!?」
さっきまでビクともしなかった瓦礫をあっさり持ち上げることができた。
俺は驚いたが救助が先だと判断し流星くんを救出した。
「ありがとうございます」
「怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」
流星くんは怪我もなく無事なようだ。
しかし、相変わらず年に似合わず落ち着いた子だな。と言うより落ち着き過ぎだろ。
桜花も流星くんももうちょっと子供らしくしてくれ。
「さて、逃げるか!」
「にいさま。魔獣はどうするんですか?」
桜花が質問してきたが、もちろん放置に決まっている!
危険だしな!
「キキャアァッ!」
逃走を考えている俺達に突然ゴブリンが襲い掛かってきた。
「のわっ!」
なんとか避けた俺だったが、なぜかそのままオーガのいる道路近くの店まで吹っ飛んだ。
ドンガラガッシャーン
そんな音を立てて俺は店内に突撃した。
「あいたたた……。あれ、痛くない?」
あれだけ勢いよくガラスを突き破って店内のあっちこっちに体をぶつけまくったのに全くと言っていいほどダメージを受けていなかった。
「一体どうなって――」
いる、と口にしようとしたが近くの窓を見て思わず固まってしまった。
なぜなら、そこには髪の色が銀色になっている自分自身が映っていたからだ。
ってか、なんで!? 俺の髪は日本人らしく黒髪だった筈だ。
何時の間にこんな色に? カラー剤とか使った覚えなんてないぞ!
は! ま、まさか……。魔獣二体との遭遇と嫌いな魔法少女と会話したせいでストレスが溜まり過ぎて一気に白髪が増えてしまったとか!?
「…………」
うん、わかってる。現実逃避はいい加減やめよう。
たぶん俺は魔法少女に近しい『何か』になったのだろう。
『何か』が何なのかはわからないが……。
そもそも男の俺が何故変身できたのかすらさっぱりわからない。
「とりあえず店の外に出るか……」
俺が店の外に出ると魔法少女とオーガが呆然とした表情でこちらを見ていた。
まあ、こんな恰好している奴がすごい勢いで店に突っ込めば気になるよな……。
「ガァアアアアアア!」
って、オーガがこっちに襲いかかってきた!
「だあああああああ!?」
俺は反射的にオーガの腕を掴み勢いそのままにブン投げた。
ズズーン!
うわー、身体能力が上がってるとはわかっていたけど、まさかオーガを十メートルも投げ飛ばすとか……。
自分のことながらビックリだ。
ってかやっぱり俺は魔法少女と同類になったのかな?
これ原嶋に知られたら……。
『星司が魔法少女の仲間に!? もしかして今流行りの男の娘ですか!?』
『星司くんぜひ――』
うわあああああああああああああああああああああああああ!
いやな想像しかけた! 途中でやめて良かった! 誰も得しないとこだった!
「グルルルルルルゥ」
は! 混乱している場合じゃなかった。
オーガが俺に対して威嚇しているな。
さっき殴ったことも有って完全に敵と判断されているな。
だが、丁度良い。試したいことがあったんだ。
今の俺は魔法少女達と同じ様な力を持っているか、あるいは――
「グルゥォオオオオオオオ!!」
ぶっつけ本番だがやるしかない!
「元に――」
「オオオオオオオオオオウ!!」
「戻れぇええええええええ!!」
ドゴーン!
次の瞬間、吹っ飛んでいた。
「ぐはぁああああああ!」
俺の体が。
オーガ相手に正面から殴ろうとするのは間違いだったか……。
ドン!
「いった――くないんだな、やっぱり」
この服が俺の身を守ってくれているのかな?
「しかし、どうするかな?」
力が溢れてくる感覚はあるが、肝心の力の使い方がわからない。
よくよく考えたら男の俺が魔法を使えるかもわからないわけだしな……。
「グガァアアアアアアア!」
俺を吹っ飛ばしたことで倒すのは容易と判断したのかオーガがこちらに向かってきた。
俺はオーガの大振りな拳をしゃがんで回避し、オーガの顎にアッパーを喰らわした。
「ガァッ!?」
油断していたためか驚いた様な声を上げてフラフラしている。
顎に衝撃を与えられたことで軽い脳震盪を起こした様だ。
「今度こそ!」
その隙を逃さず俺はオーガの懐に飛び込もうとするが――
「キキッ!」
「!」
横合いからゴブリンが氷でできたナイフで攻撃を行ってきた。
「ちっ!」
辛うじてゴブリンの襲撃を回避する。
「キキー!」
俺が避けたことが気に入らないのかゴブリンが不満げな声を上げている。
「グルルルルゥゥ」
オーガも脳震盪から立ち直ったのかこちらに威嚇するように喉を鳴らしている。
しかし、オーガもゴブリンもなぜ俺を狙う?
ゴブリンなど近くに桜花や流星くんがいたのに俺を攻撃し、他の二人を無視して俺を追ってきた。なぜか俺もこの姿になってから無意識の内に『自分が狙われるから二人は大丈夫』と感じていた。
なぜだ? 脅威に感じているにしても俺ばかりを狙う理由が解らない。魔法少女だって驚異の筈だ。
それなのに俺を狙い俺自身も奴らにターゲットにされていること当たり前に感じている。一体なぜ? 自分のことなのに訳が解らない。
「ガァアアアアアア!」
オーガの叫びを聞き思考を中断する。
謎は尽きないが今は戦闘に集中しなければならない。
ゴウッ
今度は口から火炎放射をオーガは吐き出した。
俺はバックステップでオーガの火炎放射が届かない様に距離を取る。
しかし、俺を逃さんとばかりにゴブリンが建物の屋根を伝って俺の後ろに回り込む。
「っちぃ!」
ゴブリンが勢いよく息を吐き出すと周囲が凍っていく。こいつ冷凍ブレスが吐けるのか!
足元が凍りそうになったので俺は反射的に跳び上がった。
「のわぁ!」
反射的に跳び上がった為に自分の上昇した身体能力によってオーガとゴブリンを共に見下ろせるほど高く跳んでしまった。
なんとか空中で姿勢を制御してオーガの背後に着地した。
オーガは空中にいた俺を見上げる態勢だった為に背後に降り立った俺にすぐに振り向けないでいる。俺はその隙を利用してオーガの背中に拳を叩き込んだ。
「ガアアアアアア!」
オーガは悲鳴のような声を上げて膝を突く。
俺は更に攻撃を加えようとするが何時の間に近づいたのかゴブリンが俺に向かって斬り掛かってきた。
「くっ!」
辛うじて避けたがオーガに体勢を整える時間を与えてしまった。
俺は再びオーガとゴブリンの両方と対峙する形になった。
……ゴブリンを先にどうにかしなければオーガを倒す暇がない。仮にオーガを先に倒してもゴブリンのすばしっこさなら簡単に逃げられてしまう。だから今の内にゴブリンを先に倒さなければ。
だが、俺はゴブリンを殴るのに躊躇している。理由は簡単だ。魔獣は人間が変化した姿だ。そして魔獣の姿は人間の時の体型の影響を受ける。つまり小柄なゴブリンは恐らく子供が魔獣化した姿だ。それ故に俺は攻撃を躊躇ってしまう。
……こんなことを他の奴に言っても『もう人間には戻らない』と一蹴されてしまうだろう。
それでも俺は諦めきれない! 魔獣を人間に戻す奇跡を起こしたい!
変身できただけでも奇跡だけど、だからこそ!
奇跡が起きている今だからこそ、もう一回奇跡を起こさなきゃならない!
魔獣を人間に戻せる可能性が一パーセント、いやゼロの可能性の方が高いだろうが、男なのに魔法のような力を使えるかもしれないなら、それぐらい期待してもいいはずだ!
だからもう一回!
「――はあっ!」
俺は気合を入れてオーガに殴り掛かる。もちろんオーガは対処しようと腕を振るう。それを俺は受け止める。
「うぉおおおおおおお!」
俺は雄叫びを上げながらオーガの腕を掴んでジャイアントスイングの要領で振り回し、ブン投げた。
「――!」
俺がオーガを投げた隙を狙いゴブリンが攻撃を仕掛けてくる。――それを待っていた!
俺はゴブリンの頭を掴んで攻撃を防いだ。
「――キィッ!?」
ゴブリンは驚いたような声を上げる。自分を捕まえたことが予想外だったようだ。
さっきまでの攻撃でゴブリンの行動パターンは把握した。ゴブリンは俺の隙、又はオーガと連携して攻撃するように行動していた。
そしてオーガが攻撃されると護る様に俺に攻撃をしてきた。恐らくゴブリンはオーガを囮にすることでゴブリン自身は攻撃を受けない様に立ち回っていた。
小さく素早い奴より、でかくて攻撃力の高いモンスターのどちらの方が危険を感じるかと言われれば後者だろう。野生動物だって同じように判断するはずだ。
ゴブリンは虎の威を借る狐だったのだ。……若干意味が違う気もするが。
とにかくゴブリンの動きを予想した俺はゴブリンの頭を掴んで素早さを活かせない様にした。勿論、チャンスは逃さん!
「元に戻れぇえええええええええええ!!」
自分の言葉が現実になることを願いゴブリンに拳を叩き込もうとした瞬間――
俺は自分の拳から銀色の光が放たれるのを見た。
「キイイイイィィィィ――」
ゴブリンは断末魔の声を上げると光り輝き、そして――
「――――!?」
光が納まるとそこには人間の子供がいた。




