魔法少女との出会いは幸運ではない
「《シューティング・ファイア》!」
女の声が聞こえたと思った瞬間、俺の頭上から火球が降ってきた。
そして、すぐ後に爆発音が聞こえてきた。
振り向くとオーガの顔から煙が上がっていた。
恐らく先ほどの火球がオーガの顔面に直撃したのだろう。
さしもののオーガもこれは効いただろう……。
――!?
「ゴァアアアアアアア!!」
オーガが叫び声をあげると煙が晴れ、オーガの顔が見えるようになった。
……無傷かよ!
「大丈夫ですか!?」
驚愕している俺の目の前に、空から少女が降り立った。
少女は恐らく歳は俺と同年代ぐらい、透き通るような赤い髪のポニーテールで、服装も赤いフリフリのドレスのようだがスカートが短い――というかミニスカだ。
彼女の持っている杖は、先端に赤い宝玉が付かず離れずに浮いており、おもちゃの杖ではないことが一目瞭然だ。――彼女は魔法少女だ。
「……ここは、私に任せて避難してください!」
オーガと対峙した魔法少女は杖を空に向けた。
「《ファイア・ハンマー》!」
魔法少女がそう言うと杖の先にある宝玉から炎が噴き出す。
その炎は、円柱型に纏まった。まさしくハンマーだ。
オーガは魔法が発動したのを察したのかこちらに向かって突進してきた。
魔法少女は特に慌てず冷静に炎のハンマーを振り下ろした。
「灰になぁれええええええ!」
……って! そのセリフは若干危ない!
ボカーン!
爆音が響きオーガは、天まで届くのではないかと錯覚させるほどの火柱に包まれていた。
俺はその光景をただ見ていた。避難しろと言われたが、そんな暇はなかった。
まあ、どっちにしても桜花を探さなきゃいけないから避難する気はなかったが。
「…………」
「…………」
俺も彼女も黙って火柱を見続けていた。
正直、ここで「やったか!?」とか言ったらフラグになるだろうし……。
「グルゥッ」
「!?」
オーガは火柱の中で平然としていた。――なぜだ。あれほどの炎を喰らって無事で済むはずが無い!
「もしかしてとは思ったけど、やっぱり火属性、しかも吸収タイプだ。どうしよう……」
魔法少女が困惑しながら呟いていた。今言ったことから察するに、どうやらあのオーガは火を吸収することができるようだ。
この魔法少女は見た目からして火属性が得意そうだから余計に相性が悪い。
しかも、吸収というぐらいだ、火属性の魔法で更にパワーアップする可能性もあるな……。
「ゴアアアアアアアァ!」
オーガは口を開いた瞬間、火炎放射を吐き出した。
「ッ! 《ファイア・シールド》!」
魔法少女が杖をオーガに向け、炎の盾を展開した。おかげで火炎放射の直撃は免れた。
しかし、魔法少女は苦しげなうめき声をあげている。
「す、すみません。オーガの攻撃が止まったらすぐに避難してください」
「防御は苦手なので」と魔法少女は小さく呟いた。
さっきから苦しそうなのもそのせいか。
しかし、魔法少女は男の俺に対しても礼儀正しい。戦闘中にも関わらず俺のことを邪険にしないのは、演技なのか素なのか……。
そんな思考をしている間にオーガの火炎放射は収まっていた。
「――はぁ、はぁ」
魔法少女は消耗が激しいのか、息を切らしながら杖を支えにしている。
……まあ、魔法少女がどうなろうが関係ない。俺は桜花を探さなきゃいけないんだ。
オーガは魔法少女に任せておけばいい。それでいいはずなんだが……。
「《マジック・ブレード》!」
杖から出た炎が白く変化し今度は刃の形になった。
白い炎で作った剣で魔法少女はオーガに斬りかかった。
「っく!」
「ウゴォアアアアアアアア!」
オーガはそれを腕でガードする。
ああもう! なんで辛そうなんだよ!
気になって桜花を探しに行くこともできないじゃねえか!
仕方ない少し手助けするか。なんか使えそうなものはないか……。
「!」
それを見つけた俺は魔法少女とオーガの横を駆け抜ける。
その際、魔法少女が驚いた顔をしていたが、俺がそのまま通り過ぎて行ったことで安堵している。……たく、自分だって辛いくせに他人の心配をしやがって。
まあ、俺も人のこと言えないけどさ!
「きゃ!」
振り返ると魔法少女がオーガに吹っ飛ばされているところだった。
やばいな。
俺は店内に置いてあった瓶を使いオーガを殴った。
パリン!
「グゥ?」
オーガは瓶が割れるほどの勢いで殴られても平然としている。
瓶の中身である液体がオーガの頭から腰辺りにまで流れている。
瓶の破片がいくつか刺さっているがそれも髪を払うように手で取っているが特に痛そうには見えない。
その隙に俺はもう一本の瓶で殴った。
「グルウウウウ」
オーガは威嚇するような声を上げてこちらに振り向こうとするが
「《マジック・ショット》!」
魔法少女が魔法で生み出した白い火球がオーガに当たり爆発した。
だがオーガは意に留めず俺を排除しようと動き出す。
「《マジック・シャワー》!」
今度は先程より小さい火球が数え切れないほどオーガにぶつけられた。
これにはさすがのオーガも無視できず魔法少女に振り替える。
その隙に俺は更に瓶で殴った。全ての瓶を割る勢いで何度も殴った。
「ガァアアア」
流石に俺がうっとおしく感じたのかこちらに振り向こうとするが――
ツルン! ゴシャ!
足を滑らせて転んだ。俺が持っていたのは安売りしていたオリーブオイルだ。
店先のチラシに載っていたので使えると思い利用させてもらった。
お金は……魔獣が出現しているから仕方がない!
「グルゥウ!」
思うように動けないためかオーガは恨みがましくこちらを見ている。
ざまあみろ、しばらくそこでおとなしくしてやがれ!
今なら魔法少女も必要以上に戦わずに済むだろう。
時間がたてば魔法少女の仲間も来るはずだ。
今のうちに桜花を探しに行かなければ。
「グウウゥゥ……」
「…………」
本当は元の人間に戻すことができればいいんだが俺にそんな力は無いし、魔法少女にもない。
俺にできることは魔獣の動きを止めてこれ以上被害を出させないようにすることしかできない。
……元がどんな人かわからないがせめて安らかに逝ってくれ。
「じゃあな」
俺はオーガに背を向け桜花の捜索を再開する。
後は魔法少女に任せて――
「……これはどういう状況ですか?」
この場を去ろうと足を進める俺の背後から突然知らない女性の声が聞こえた。
俺は振り向き声の主を確認しようとするが見当たらない。
「どういう状況か説明しなさい、マーズ」
再び女性の声を聞きこえ、よく聞くと上の方から聞こえてきたのがわかった。
俺は視線を上げると箒のような物に跨った女性を見つけた。
髪は青空に溶けるように青く胸の下辺りまで伸びている。
身長は女性にしては高く百六十センチは超えているだろう。
先ほどのマーズと呼ばれた赤い魔法少女と同じ服装でそれが――とてもじゃないが似合ってない。
いやだってあの女性、見た目バリバリのキャリアウーマンって感じの雰囲気で魔法少女の服装がミスマッチ過ぎる。
引退したOGと言われたら「なるほど」と納得できる。むしろそうとしか思えない。
先に現れたマーズは恐らく俺と同年代だが似合っていた。
真面目なスポーツ少女というのが第一印象で運動部の部長、副部長辺りをやっていそうなイメージだった。
魔法少女と言う肩書が似合っていた先ほどの少女と比較すると、ついさっき現れた女性は魔法少女とは言えない。あえて言うなら魔法女と言う感じだ。
「すいません! テ……ウラヌス先輩! このオーガ炎吸収タイプで――」
「それで、そこにいる男に助けてもらった、と。情けない」
マーズが魔法女……ウラヌスと呼んだ女性に言われたとおりに状況を説明すると汚らわしそうに俺を見ながら吐き捨てた。
魔法少女の大半は男を見下しているとは聞いたがあからさますぎだろ。
「この程度の敵にも勝てず、あまつさえ男に助けてもらうとは、あなたには失望しました。マーズ、無能なあなたはそこでおとなしくしていなさい」
「!?」
何言ってんだ!この女は話を聞いていないのか!?
オーガはマーズにとって相性最悪だったって言っているだろ!
そもそも一人で魔獣退治させることがおかしいだろ!
マーズの口振りでわかったが吸収タイプは今までにも何回か出現したことがあるはずだ!
それなのに一人で魔獣退治させてお前の方が指揮官として無能だろうが!
一言文句を言ってやる!
「おい! ウラヌス――」
「汚らわしい男は話しかけないで下さい」
うわ。汚らわしそうに見ているとは思ったけど口にまで出された。
「終わらせます。《レイニー・アロー》!」
ウラヌスは魔法を発動させると矢の形をした大量の水がオーガに降り注いだ。
「ゴガアアァァァ――!」
オーガが叫び声を上げようとしたが余りの水量に息が出来なくなったのか聞こえなくなった。
――って! 何で水なんだよ! 油で身動き取れないようにしていたのに意味なくなるだろうが!
……待てよ。よくよく考えたらあの先輩魔法少女にオーガを任せて俺は桜花を探しに行けばいいじゃん!
さっきまではマーズが心配だったから手助けしたけど、もっと強そうな人が来たから必要無いね!
うん。よし、そうと決まったらさっさと桜花を探しに行くとしよう!
ジュウウウウ
……何だ今の音?
何ていうか、テレビで見た外国のサウナで焼けた石に水を掛けた時の音に似てた様な……。
俺が振り向くとオーガから煙が上がっていた。あ、いや違う蒸気だ。
オーガの体からジュウッと音がして水が蒸発している。
効いてねえ! しかも何でか俺に敵意向けてるし!
「ゴアッ!」
オーガは口から火炎弾を飛ばしてきた。
「ッ!?」
俺はギリギリのところで躱して直撃は免れた。
辛うじて避けたけどなんていう威力だ!
近くを通っただけでかなり熱かったぞ!
ドカーン
俺の背後から爆音が聞こえてきた。
どうやら俺が避けた火炎弾は建物に直撃して半壊させたようだ。
「きゃぁ!」
「!」
今の声は桜花!?
火炎弾で壊された建物の方から声が聞こえたけどもしかして――
俺は最悪の事態を予想して急いで桜花の声が聞こえた方に向かおうとしたが
「ガァアア!」
再びオーガは火炎弾による攻撃を行ってきた。やばい!
なんとか避けているがこのままじゃまた桜花の方に……。
ボン!
「ゴフゥ!?」
打開策を思案しながら火炎弾を躱していた俺の耳に小さい破裂音が聞こえ、直後オーガが驚いたような声が聞こえてきた。
オーガの方を見ると俺と反対方向に目を向けている。その先にはマーズと呼ばれていた魔法少女が杖をオーガに向けていた。
……もしかして助けてくれたのか? いや、どっちでもいい!
オーガがマーズにターゲットを変更している今がチャンスだ!
俺は今度こそ桜花の方に向けて走り出した。
「桜花!」
「あ、にいさま!」
俺が桜花の元に辿り着くと流星くんが倒れていた。よく見ると下半身が瓦礫に埋まっている。
さっきのオーガの攻撃によって崩れた建物で埋まってしまったのか!
「ボクのことは気にせず逃げてください」
流星くんが子供らしからぬ発言をしたが、俺は無視して瓦礫を持ち上げようと奮闘した。
しかし、複数の瓦礫が積み重なっていて上手くいかない。
「……にいさま、なにか聞こえませんか?」
「?」
桜花の言葉を聞き俺は耳を澄ますがオーガと魔法少女の戦闘音以外何も聞こえな――
キキッ
いや、猿の鳴き声に似た高い鳴き声が聞こえる。しかも結構近くに。
俺は近くにある建物の屋根に目を向けるともう一体魔獣がいた。
確かゴブリンと呼ばれている魔獣だ。
醜い容姿に鼻と耳は尖がっており、皮膚は青い色をして右手に鉈の様な物を持っている。
……終わったかもしれない。
次回は一週間以内に更新したいと思います。
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